長男殺害から1年…元農水次官・熊澤被告の胸中
長男・英一郎さんを殺害した自宅で暮らす本人を直撃
東京・練馬区の自宅で元農水次官の熊澤英昭被告(77)が長男の英一郎さん(享年44)を殺害した事件から、この6月で1年が経った。
昨年末、熊澤被告は東京地裁で行われた第一審の裁判員裁判で懲役6年の実刑判決を言い渡されたが、殺人罪の被告に対しては異例の保釈が認められ、現在は自宅に戻っているという。6月上旬の早朝、閑静な住宅街にある一戸建て住宅を訪れると、Tシャツ、ステテコにローファーという格好で熊澤被告が現れた。
――フライデーです。お話を聞かせていただけないでしょうか。
「(本誌記者が差し出した名刺を一瞥(いちべつ)して)何もお話しすることはありません」
――保釈されてからしばらくはホテル暮らしだったと報じられています。(事件現場である)ご自宅に戻ることに抵抗はありませんでしたか。
「ここが私の家ですから、戻るのは当然でしょう」
――公判では英一郎さんに祈りをささげることが務めとおっしゃっていました。
「そうです。毎日、朝と晩にお祈りして息子の冥福を祈っています」
――息子さんを手にかけたことについて同情する声も聞こえてきます。
「そのような声があるということは認識しています」
――今は奥さまと過ごされている?
「はい」
――日々どのようなお気持ちで過ごされているのでしょうか。
「マスコミの方には一切お話しするつもりはございません。裁判所で全部お話ししていますし、これから高裁でも再度お話申し上げますから……」
声をかけると、自宅フェンスの前でも丁寧に立ち止まって応対した熊澤被告。しかし、最後まで本誌記者の名刺を受け取ることはなかった。
家庭内暴力を受けた末の殺人で、証拠隠滅の恐れがなく高齢とはいえ、殺人容疑で実刑を受けた人間の保釈を高裁が認めるケースは極めて珍しい。
「地裁が却下した保釈請求を、新たな事実がないにもかかわらず高裁がひっくり返して認めることは本来ありえません。彼の保釈にはクエスチョンマークを付けざるを得ないでしょう。
日本の裁判所は、上に行くほど政治的な要素で判断される傾向が強まります。熊澤被告も元農水省事務次官ですから、保釈に関して官邸からの配慮があったとしても不思議ではありません」(立正大学名誉教授で法学者の金子勝氏)
保釈後、熊澤被告の弁護人が一審判決を不服として控訴したが、新型コロナの影響で高裁での第一回期日はまだ決まっていないという。
平穏な日々を取り戻し、自宅で「禊」(みそぎ)を続ける熊澤被告。その心中は、誰にも分からない――。
『FRIDAY』2020年6月26日号より
撮影:蓮尾真司