イクメンの勘違い…「育休義務化」の先に見える阿鼻叫喚 | FRIDAYデジタル

イクメンの勘違い…「育休義務化」の先に見える阿鼻叫喚

わたしが「男の育休」を評価しないわけ〜猪熊弘子

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「男の育児休業」が話題になっている。9月に人気の女優さんが自死と報じられたとき、「産後うつでは?」の憶測がとんだ。本当の理由はわからないし、このご家庭のことはそっとしておきたい。

問題は、出産後の女性が「うつ」というと必ず力強く語られる「夫の協力」のあり方だ。今回も「男性の育児参加をすすめるべき」「男性の育休を義務化するべき」といった「べき」論がSNSに渦巻いた。

育児はままごと気分じゃできない。相応のスキルが必要なのだ。そもそも「育児参加/育児協力」って? 当事者じゃないの?? 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ
育児はままごと気分じゃできない。相応のスキルが必要なのだ。そもそも「育児参加/育児協力」って? 当事者じゃないの?? 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

たしかに夫の育児への「参加」や「協力」は必要に違いない。が、ただ参加や協力をすればいいのではない。すべての男性が十分な家事スキル、育児スキルを備えているわけでもない。

結婚するまで母親に身の回りのことをやってもらい、母親に起こしてもらって出勤して洗濯も料理も掃除もこれっぽっちもやったことがないような男性が、結婚して子どもが生まれたからといって即座に家事力を身につけられるはずはない。また、家事をある程度できたとしても、女性だって子どもを産めばすぐに育児スキルが備わるわけではないのだから、男性の育児スキルは言わずもがなである。

「イクメン」って、なんですか?

10月19日は「イクメンの日」だという。この「イクメン」という言葉もかなりくせ者だ。「イクメン」という言葉はあっても「イクママ」とか「育児女子」みたいな言葉はないのだから、いかに男性の育児、家事が特別扱いされているかがわかる。

実際、自分がいかに「イクメン」であるかを職場で自慢していた男性がじつはとんでもないモラハラ男で、心を病んでしまった妻を知っているし、積極的に育児に関わって「イクメン」であろうとする意識高い系の男性が本を読みあさって育児の理論だけ身につけ、上から目線で出産後の妻に子育て論を振りかざして横暴になっていく様子を見たこともある。

夫が半年の育休を取ったら、日中だらだら昼寝させすぎて子どもが夜なかなか眠らず、妻は昼間は会社でバリバリ働き、子どもの夜泣きにずっと向き合い、朝夜2食を準備して…という状況が続き、安心して仕事をするどころか家事も育児も仕事も、家庭の経済も背負うことになってしまった例も。数年後、離婚に至った理由は「夫が育休を取ったこと」と笑っていた。

育休中は育児だけしていればいいというわけではない。家事がセットになってやってくる。家事が得意な人(妻あるいは夫)でも、1人で担うには無理なボリュームでやってくる。育児はしたいけれど家事は苦手、頑張るけど本心はちょっと引き気味…という程度の夫が覚悟もなく「ノリ」で育休を取ってしまった場合、妻は働きながら赤ちゃんと夫の2人の世話をしなければならない。

スキルがない男性がわんさかいる今の日本の状況で全員の夫に育休を義務づけた先の家庭内阿鼻叫喚(あびきょうかん)状態が目に浮かぶようだ。

今、あえていう

2011年の調査でやや古いのだが、夫を「本当に愛していると実感している」妻は、妊娠期に74.3%で、出産後0歳児期には45.5%に激減するデータがある。この「激減」の理由の一つに、赤ちゃん以上に手のかかる夫、というのがあるように思えてならない。

https://berd.benesse.jp/up_images/research/research20_report1.pdf

こんなことを書くと、世の中の意識高い系の男性からバッシングを受けるかもしれない。が、あえていう。50:50で子育てを「手伝って」いるつもりでも、男は、自分で生んでいない時点で、猛烈に頑張っても全体の2割くらいしかできていないと思っていたほうがいい。

先頃亡くなったアメリカの最高裁判事RBGことルースベイダー・ギングスバーグが夫と結婚した理由「彼は私に脳みそがあると認めてくれたから」という言葉がずっと心に残っている。対等なひとりの人間として認められていたから結婚した、という意味だ。

「イクメン」と名乗れるほど育児ができなくても、育休なんか取らなくても、ご飯が上手に作れなくても、お掃除ができなくても、妻を1人の立派な大人=人間として尊重してする夫であれば、妻も彼を尊重し、満足するんじゃないだろうか。というか、まずそこからスタートだろう。

はっきりいう。男が育休をとれば解決する「産後うつ」なんて、ない。

そして今私にできることは、息子たちを「女性を対等な人間として認めるまともな男」に育てることしかない、とも思っている。

  • 取材・文猪熊弘子

    1965年横浜市生まれ。ジャーナリスト。名寄市立大学特命教授、城西国際大学特命連携教授など肩書多数。近著に『「子育て」という政治〜少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか?』(角川新書)、『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(共著・内外出版社)、翻訳書『ムハマド・ユヌス自伝』『マザー・テレサ語る』(ともに早川書房)など多数。4人の子を育ててきた。

  • 写真Rodrigo Reyes Marin/アフロ

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