「うんざりさせる」のも作戦か…菅総理の答弁を専門家が分析 | FRIDAYデジタル

「うんざりさせる」のも作戦か…菅総理の答弁を専門家が分析

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「自分の言葉で語れない」理由とは? 『ご飯論法』でお馴染みの上西充子教授に聞いてみた

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、多くの批判を浴びつつ「アベノマスク」が配布されたり、「ステイホーム」を要請する一方で「GoToトラベル」を推し進めたり。これまで経験のない事態とはいえ、「日本のコロナ対応はなぜ諸外国に比べて後手後手なんだろう」と不思議に思っている人は多いはず。 

逆に言うと、今くらい政治を誰もが、自分の実生活に身近なものと感じたときもないだろう。 

しかし、今何が起こっているかを知るべく、国会中継を見ると、あらゆる質疑に対して「答えは控える」「指摘は当たらない」「答える立場にない」「記憶にない」のオンパレード。 

『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)の著者で、政治家や官僚の論点ずらしのまわりくどい答弁を「ご飯論法」で表現した上西充子法政大学教授に話を聞いた。 

2018年の新語・流行語大賞トップ10にも選出された『ご飯論法』。「朝ご飯は食べたか」という質問に「ご飯(白米)は食べていない(パンは食べたが黙っておく)」と答えるような、論点をずらして逃げる論法のこと
2018年の新語・流行語大賞トップ10にも選出された『ご飯論法』。「朝ご飯は食べたか」という質問に「ご飯(白米)は食べていない(パンは食べたが黙っておく)」と答えるような、論点をずらして逃げる論法のこと

「答えない」パターンも人それぞれ! 菅義偉首相と安倍晋三前首相を比べてみると…

国会を見ていると、菅首相について「こんなに何も答えない首相はこれまでいたんだろうか」と思うことも多いが、実は「答えないぶりは菅首相と安倍前首相とでちょっと違う」そうだ。

「安倍さんは『桜を見る会』問題で、『久兵衛のお寿司』などと久兵衛を6回も連呼したように、感情的になって攻撃的になるか、滔々と喋るけど、聞かれたことには答えず、煙に巻く。 

でも、菅さんの場合は喋るのが苦手なようで、答弁書を訥々と読んでいて『読まないでください』と言われると、答えに詰まってしまう。 

菅さんは7年半にわたり官房長官をやっていましたが、官房長官記者会見では20分ほど時間をとり、同じ記者が更問い(再度質問)できる場でもあったので、今の首相会見よりは自由に質問できたんです。 

でも、そこでは、官房長官から情報をもらう立場の記者が聞いているので、決裂しちゃうと、オフレコの場で話をしてくれない関係になってしまう。 だから記者もあまり批判的な質問はできないんです。その点、東京新聞の望月衣塑子さんなどはグサッと聞くけど、そうすると排除されてしまう。 

でも、官房長官会見で『ご指摘は当たらない』で済ませていられたことも、国会では違う。 

国会は人によっては一人40分などの持ち時間があり、桜を見る会問題では、参議院議員の田村智子さんがその問題一つに30分かけていました。 

一つの問題でじっくり外堀を埋めていかれると、逃げられないわけですよ。臨時国会は開かないこともできるけど、通常国会は逃げられない。予算委員会も逃げるわけにいかない。そういう場で、かつ全部が可視化されている場だから、野党は遠慮する必要がない。 

すると、『指摘は当たらない』の一言では済まず、どんどんボロが出てきているというのが現在なんです」(上西充子教授 以下同)

菅首相に極力答弁させないように、周りが気を使っている!?

国会では、野党が菅首相に質疑しているのに、他の大臣が出てきて、「総理に聞いてるんです!」と野党が何度も指摘する場面が多々ある。あれって何なのか。 

「それは、安倍首相のときもやっていたんですよ。ただ、安倍首相は自分が指名されたときに『加藤厚生労働大臣』と指名し、加藤さんが答えた後に『今、加藤大臣が申し上げたように』と言っていました。 

それに対して最近の映像を見てみると、委員長が他の大臣にふる前に、菅さん自ら最初から手を挙げているんです。 でも、委員長は菅さんをスルーしつつ、各大臣も手を挙げて先に出てきちゃっているんですね。 

それは、菅さんに答弁させたら危ないから。菅さんに極力答弁させないように大臣に答えさせるんです。 

たぶん政府与党もヒヤヒヤしているんですよ。 

面白かったのが、学術会議の問題で参議院議員の小池晃さんの質疑に加藤官房長官が答えて、菅さんが『今、官房長官が答えたことと一緒であります』と言い、『駄目です、今の。総理の言葉でしゃべってください』と言ったら、答えられなくなっちゃった場面(笑)。自分の言葉で言えないのは、理解していないから」

また、菅首相の場合、「自分の言葉で語れない」理由は、理解不足に加え、本人の認識の頑なさもあるのではないかと言う。

例えば、GoToトラベルや携帯電話の料金引き下げ、ふるさと納税などについては自分の言葉で喋れるが、自分が関心ないことや受け入れられない意見には耳を貸さない。

「戦後生まれなので沖縄の歴史はなかなか分からない」と翁長雄志沖縄県知事に答えたことが大いに批判されたのが、象徴的だ。

アドリブで「ご飯論法」を操るには、論理的思考が必要

ちなみに、菅首相は「ご飯論法」にあたらないのだろうか。

「官僚が作る答弁書の中にはご飯論法が仕込まれているんですよ。

 それを棒読みしている限りは菅さんもご飯論法で答弁しているわけですが、菅さん自身にその力量はないと思います(笑)。

 安倍さんも同じで『募っているという認識で、募集しているという認識ではなかった』とかは、ご飯論法がスベッてるケースです。

 しかし、加藤前厚生労働大臣、今の官房長官は官僚出身なので、アドリブでご飯論法ができる。

ご飯論法をやるには、論理的思考が必要なんですよ」

「官僚出身なのでアドリブでも『ご飯論法』ができる」(上西充子教授)という加藤勝信内閣官房長官。写真は、『第33回日本メガネベストドレッサー賞・政界部門』で(2020年10月27日撮影)
「官僚出身なのでアドリブでも『ご飯論法』ができる」(上西充子教授)という加藤勝信内閣官房長官。写真は、『第33回日本メガネベストドレッサー賞・政界部門』で(2020年10月27日撮影)

「何も変わらない」と思うのは、実は権力を維持している人にとっては「好都合」 

ところで、常々思うこと。こんなにも軽視される「国会」って、何なのか。こんなことをダラダラと続けて、意味があるのだろうか。

「『なぜPCR検査を拡充しないのか』『ワクチンを確保しなかったのか』などの問題は、野党が早い段階から指摘していましたが、だいたいノーアンサーでしたよね。

 それは、答える気がないのと、やろうとしてもうまくいかないくらいいろんなことが目詰まりしていたという両面があると思うんです。

 ただ、そうした質疑が無意味というわけでは無くて、国会で日々問われていることは、たとえノーアンサーでも、政権側にとってプレッシャーになっているとは思います」

 多数の反対があっても「答えは控える」で逃げ切り、数の論理で強行突破されてしまうことも多い実情。つい「何も変わらない」と思ってしまいがちだが、実はそれは「権力を維持している人にとっては非常に好都合」と上西教授は指摘する。

「森喜朗氏が2000年衆院選のとき『(無党派層は)寝てしまってくれれば、それでいい』と言ったように、多くの人が政治に関心を持たない方が、政権を維持している人にとってはありがたいんです。

 そのためには『うんざりしてもらう』のもひとつの手法で。自分たちが信頼されるのは無理だから、『政治家なんてみんな汚いし、ドロドロしてる』と思ってもらって、うんざりして遠ざかってもらうほうが良いと考えていると思うんですよ。

 でも、離れてしまったら負け。

 『どうせ』というのは、私は呪いの言葉だと思っていて。考え方を縛ってしまう、自分から動くことを妨げる言葉なんです」

数々の失言でお馴染みの森喜朗氏。2000年衆院選のときは、「(無党派層は)寝てしまってくれれば、それでいい」と発言
数々の失言でお馴染みの森喜朗氏。2000年衆院選のときは、「(無党派層は)寝てしまってくれれば、それでいい」と発言

政治家の中にも、困っている人のための政策を進めようとしたり、同性婚や選択的夫婦別姓など、これまで制度にならなかったものを制度化しようと、地道に頑張っていたりする人たちはいる。だからこそきちんと「腑分け」することが大事と言う。

 「『野党は反対ばかり』と言われるけど、反対することに意味があるわけです。

 必要なのは見方の転換で。例えば、国会で政府与党は質疑にちゃんと答えないですが、それは当たり前と考えてみる。

 例えば国会を団体交渉と考えると、『業績が好調なのに、なぜ賃上げを拒むのか?』と言っても『いや、円高が』などと言って、なかなか譲歩しない。それでも、団体交渉の場には出てこなきゃいけないんですよ。

 だから、できるだけ抵抗するけど、その抵抗ぶりも追及ぶりも全部可視化されているんです。国会で野党の誰が何を言い、政府与党の誰がどう答えたかは全部見えて記録されているということが大事なんです」

数の上では野党は少数派であるだけに、政府与党は「ご指摘は当たらない」などとして、のらりくらりとかわしながら、法案はさっさと採決してしまうが。

「でも、多数決だけでは動かないのが、国会なんですよ。 例えば、検察庁法改正案が廃案になったでしょ? 

そういう問題を野党が国会で取り上げて、世論が注目して『おかしいよね』とバックアップしていると、政府与党も『野党なんて無視していれば大丈夫』とは思わなくなるんです。『これは強行突破したら支持率下がるな』『支持率が下がったら、次の選挙も危ういな』と考えるから、仕方なく譲歩するんです」

「どうせ変わらない」ではなく、私たち一人一人が「変わる」と思ってしっかり現状を見つめることが、世の中を変える一歩になるはずだ。

 

上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授。1965年生まれ。労働政策研究・研修機構研究員を経て、2003年から法政大学キャリアデザイン学部。単著に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)など。国会パブリックビューイング代表。

  • 取材・文田幸和歌子

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