ジェンダーレスな18歳 井手上漠が問う「ノーマルってなに?」 | FRIDAYデジタル

ジェンダーレスな18歳 井手上漠が問う「ノーマルってなに?」

スペシャルインタビュー 令和の主人公 人口約2300人の隠岐の島 ・ 海士町から今春上京 いまもっともメディアが注目するジェンダーレスな18歳

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’18年に『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に出場し、脚光を浴びた井手上。この春から上京し、更なる活躍が期待される
’18年に『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に出場し、脚光を浴びた井手上。この春から上京し、更なる活躍が期待される

「私は身体も戸籍も男性ではあります。でもメイクをしたり、可愛い洋服を着たりもします。だからといって女性になりたいわけではありません。心は男性的な部分もあるし、女性的な部分もある。どちらでもあるし、どちらでもないんです。

ややこしいとか面倒くさい、って感じる人もたくさんいると思います。正直、その気持ちもよくわかります。でも〝男か女か〟の2択だけですべての人がキレイに分けられることなんてない。そのことを多くの人に知ってほしいんです」

柔らかい口調ながら、よどみなく自らの考えを話すのは、島根県出身でモデルとして活躍する弱冠18歳の井手上漠(いでがみばく)だ。

井手上が世間の注目を最初に集めたのは、’18年に出場した〝ジュノンボーイコンテスト〟。見事、賞を獲得して以来、その可憐なルックスから〝可愛すぎるジュノンボーイ〟として脚光を浴び、多数のメディアに登場してきた。自身のツイッターのプロフィールにはたった一文、

《いでがみばくです、性別ないです》

と記載。自身の性のありようについて、恐れることなく発信する姿に、多くの支持が集まっている。

「ジュノンボーイに応募したのは、私が住んでいた島にひとつだけある診療所の先生が勧めてくれたのがキッカケです。応募してみたものの、どうせすぐに落ちると思っていました。ジュノンボーイって、仮面ライダーや戦隊ヒーローへの出演を目指すような人達が受けるもの。私は小さい頃から断然プリキュア派だったので(笑)。

それが選考をどんどん通過していって。〝かっこいい〟よりも、〝可愛い〟に憧れる私が、伝統あるボーイズコンテストで勝ち進んでいくのは不思議な感覚でした。もしかしたら〝男らしさ〟とか、世の中の〝普通の男の子〟のイメージを少しでも変えることができるのかもしれない。そんな気持ちがどこかで芽生えていました」

「気持ち悪い」と言われて

今でこそ堂々と自らの性について話す井手上だが、悩みを抱える時期もあった。

「小学5年生になると、それまで一緒だった〝男女〟が区別されることが一気に増えて。たとえば体育の前の着替えなんかがそう。だけど当時の私も髪の毛が肩くらいまであったり、仕草もいわゆる男の子っぽくはなかった。違和感を覚えたクラスの子達から、『気持ち悪い』なんて言われるようになってしまって」

ショックを受けた井手上は、髪の毛をバッサリ切り、洋服も周りに合わせ、〝普通の男の子〟を演じるようになった。

「髪の毛を切ってすぐ、自分の部屋で鏡を見た時のことは忘れられません。切ることを決断したのは自分ですが、いざ鏡で自分の姿を直視すると、やっぱりつらかった。自分が自分じゃないみたいで、悔しくて、恥ずかしくて……。家族に気づかれないよう、静かに泣きました」

以来、心を押し殺して生きるようになっていく。そんな井手上に転機を与えたのは他の誰でもない母の一言だった。

「中学2年生のある日、家にいたら唐突に母に呼ばれて。『漠って男の子が好きなの?』と、聞かれたんです。その時の母は真剣そのものだったから、私も〝本当の自分〟について話すしかないなって。理解してもらえるかわからないし、怖くて不安だったけど、やっと誰かに話せるという気持ちもありました。

『気持ち悪い』と言われて苦しんだこと、髪を短くして辛かったこと、男の子も女の子も恋愛対象になるということ、全部話しました。そうしたら母が『漠は漠のままでいいんだよ』と、私のすべてを認めてくれたんです。その瞬間に私の人生は変わりました。誰かが自分のことを認めてくれるというのはそれくらい大きなことだと思います」

井手上曰(いわ)く、「モノクロだった世界がカラフルになっていった」ほどの大きな変化。母という、自分を認めてくれる絶対的な存在が井手上を強くした。

井手上はその翌年、自身の経験をもとにした『カラフル』という演題で、弁論大会『第39回 少年の主張全国大会』に出場。予選を含めると約54万人の参加者の中から、全国2位相当の文部科学大臣賞を受賞した。

人の数だけ〝普通〟がある

この春に隠岐の島にある人口約2300人の海士町(あまちょう)から上京し、現在は東京で芸能活動を本格化させている。発売されたばかりの自身のフォトエッセイ『normal?』にちなんで、井手上にとっての〝普通〟とはなんなのか聞いた。

「簡単なようで難しい言葉ですよね。私も前は〝普通〟という言葉やイメージに悩まされてきました。だけど今は、きっと人の数だけノーマルがあるんだと思っています。だから私が母に認めてもらったように、周りに〝普通〟と違うことで苦しんでいる人がもしいたら、認めてあげる。いろいろな人達のそんな積み重ねが、素敵な世の中へ繋がる気がしています」

既存の価値感に囚(とら)われずしなやかに今を生きる井手上。令和の主人公とも言うべき18歳の真っ直ぐな言葉が胸を打つ。

profile
井手上 漠 (いでがみばく)
2003年1月20日生まれ。
島根県隠岐郡海士町出身。
15歳でジュノン・スーパーボーイ・コンテスト〝DDセルフプロデュース賞〟を受賞して以来、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)やサカナクション『モス』のMVに出演するなど、多方面で活躍。
現在はファッション誌や美容誌などを中心にモデルとして活動する。

故郷の海士町を中心に撮影されたフォトパートと、4万字超のエッセイで構成された、初のフォトエッセイ『normal?』(講談社)。発売前重版もされ、セールスも好調だ。

撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
撮影:三宮幹史/井手上漠フォトエッセイ normal? より
井手上漠フォトエッセイ normal? 「目次」より
井手上漠フォトエッセイ normal? 「目次」より

『FRIDAY』2021年5月7日・14日号より

  • 撮影カノウリョウマ(書籍カット以外)

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