国際空港の検疫所は派遣社員だらけ…現場から伝わる「異変」の深層 | FRIDAYデジタル

国際空港の検疫所は派遣社員だらけ…現場から伝わる「異変」の深層

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12月1日、オミクロン株の感染拡大に備えて、外国人の新規入国を原則禁止したときの羽田空港(写真:アフロ)
12月1日、オミクロン株の感染拡大に備えて、外国人の新規入国を原則禁止したときの羽田空港(写真:アフロ)

昨年1月のコロナ禍発生から丸2年が経過した。新たな変異株「オミクロン株」の市中感染も確認され始めた中で、岸田文雄首相は「今後も水際対策を強化する」と力を込める。

しかし、その検疫所では現在「異変」が起きているという。それは人材派遣大手企業の〝進出〟だ。日々日本の安全を守っている検疫関係者から、現在、首都圏の国際空港の検疫所には、医師や検疫官の資格も持たない派遣社員が増えている…という驚きの証言が届いた。

「私が働く空港の場合、検疫の現場で働く正規職員は約60人。しかし昨年7月から延べ人数で1日60人ほどのパソナの派遣社員が365日入るようになりました。いま、日本の検疫は派遣会社からの派遣社員が大変目立つ状況なんです」

本誌に証言するのは、先ほどの関係者A氏。検疫所が国内への危険な感染症流入を食い止める文字通りの〝防波堤〟であることを考えれば、にわかには信じがたい話だが、A氏は詳細に説明した。

それによると、首都圏の国際空港のターミナルにはシフト勤務で常に10人程の検疫官が勤務しているが、昨年からはほぼ同数の派遣社員が検疫所で働くようになったのだという。

ことの経緯はこうだ。中国・湖北省の武漢市で謎の新型肺炎の発生が報じられたのは2019年の大みそか。日本では年明け1月16日に神奈川県で国内初の感染者(武漢に滞在歴のある中国人男性)が報告された。以降、3月下旬には早くも国内で感染第1波のピークを迎えた。A氏は「当時の国際空港は大混乱だった」と振り返る。

「海外から到着する大勢の旅行客にPCR検査を行わなければならず、自衛隊の衛生班などの応援も受けましたが、人員は絶対的に足りなかった」

昨年7月には多人数を短時間に検査するため、PCR検査の代わりに抗原検査が導入された。空港側がパソナグループから派遣職員を受け入れ始めたのも、ちょうどその頃だったという。

「実際には優秀な人材も少なくなく、喉から手が出るほどマンパワーが欲しかったわれわれが助かったのは事実です」とA氏もその効果は認める。派遣されてきた人の中には、当時苦境にあえいでいた観光業界出身の人も多く「外国人旅行客と英語などでコミュケーションが取れることも大変ありがたかった」という。

国家公務員である検疫官になるには公務員試験にパスするか、医師や看護師などの資格が必要になるほか、検疫現場での勤務を十分にこなせるようになるためには、研修や訓練をいくつか受ける必要がある。

一方で、コロナ禍という緊急事態においては派遣などの非正規職員も国内の各空港の裁量で採用されており、外国人客の誘導だけでなく、唾液検査の補助や検疫を通過する際のサーモカメラの監視なども彼らが担当するケースが多いのが現状だ。

しかし、A氏が強い疑問を感じ始めたのは今夏の東京五輪・パラリンピックを巡る変化だった。8月の東京五輪開幕1ヶ月前の7月辺りから選手を含む大会関係者の入国が始まった。この時期になるとパソナグループ以外の人材派遣会社からの派遣社員も投入され、派遣社員数が検疫所の職員数を遙かに上回るようになったという。その一方で、休業状態にある地方の国際空港から応援に来ていた検疫所職員は姿を見せなくなっていた。

さらに、五輪大会期間中には増え始めた派遣社員の数はピークに達していた。

「乗客のスマートフォンへのアプリの導入などの手伝いをするのですが、明らかに多すぎて半数は担当する業務もなく、日中から空港内のソファーなどに座っていました」

複数の人材派遣会社からの派遣社員の勤務はその後も続き、この空港のターミナルの検疫では、全体の派遣社員数は、正規職員の数を現在も上回っているという。

「彼らは労働力としては安く、使う側の立場としては『便利』なわけですね。しかし、東京五輪・パラリンピックが終わり、パンデミックも収束すれば『御用済み』になってしまう。乱暴な言い方をすれば、『使い捨て』になってしまうわけです」

成田空港で行われていた検疫風景の一コマ(写真:アフロ)
成田空港で行われていた検疫風景の一コマ(写真:アフロ)

もっと深刻な懸念もある。新型コロナウイルスのパンデミックにより、空港側は派遣職員を受け入れ、それに大きく依存するようになった。しかし、A氏によると、マラリアやデング熱といった検疫対象の感染症は実際に少ないながらも国内に入ってきており、エボラ出血熱のような危険な感染症に対する警戒を怠ることもできないのだ。

「本来なら検疫官がプロの仕事として行ってきたことが、コロナ禍での人的理由で派遣職員の担当にシフトしている現状がある。しかし、それでは日本の検疫の弱体化につながってしまいます。入国者は千差万別。たとえ、1万人中1人であっても、国内流入を防がなければいけない事例があるのが検疫なんです。コロナ検査センターとして、コロナ専門でチェックをしていれば良いと言うわけではないんですよ」

国際空港、港湾などの日本の検疫所で勤務する検疫官は輸入食品の検査を行う職員も含めて現在約1000人。空港に限って言えば、外国からの入国は昨年以降、東京の成田、羽田、名古屋の中部、大阪の関空、福岡の5つの国際空港に限定されている。だが、A氏は「どの国際空港の検疫所も人手が足りない状況はほぼ同じだろう」と説明する。

政府が国民には行動などの自粛を強いる一方で、昨年4~12月には日本には約23万5000人の外国人が入国。特に同9月からの菅政権発足以降は、それまで月に4000人台にまで減っていた外国人入国者数も11、12月には各7万人前後まで激増。水際対策の緩さには疑問の声が高まっていた。自民関係者は「当時、水際強化を訴える声は党内の大勢だったにもかかわらず、外国人労働者らの入国などを強く求める一部の意見の前にかき消されていた」と証言する。

前述のA氏も「政府は、最初から網を大きくかけることなく対策は逐次投入ばかり。消極的で常に後手後手だった。最近のコロナに振り回されている検疫の姿はとても本来の検疫とは言えない」と怒りを込める。菅氏から政権を引き継いだ岸田首相が、オミクロン株対策に「外国人の入国全面禁止」を早期に決断したこと自体は評価するが、不信感も隠さない。

「これまでも乗客の入国前の体調の把握は自己申告制で、日本らしい性善説に基づいていた。派遣社員の問題も含め、要は政府に本気で検疫をする意思があるのかということです。昨年は台湾の水際対策が世界で称賛されていましたが、本来あれぐらいのことは、日本でもできるんですよ」

人の話を「聞く力」をアピールして首相となった岸田氏だが、検疫の現場からの切実な訴えに、どう答えるだろうか?

8月、東京五輪パラリンピックの入国ラッシュ時の羽田空港。この頃から検疫現場で派遣社員の姿が目立つようになった(写真:共同通信)
8月、東京五輪パラリンピックの入国ラッシュ時の羽田空港。この頃から検疫現場で派遣社員の姿が目立つようになった(写真:共同通信)
12月28日、羽田空港の国際線到着ロビーに並べられたPCR検査キットが入った紙袋。東京都が入国者へ無料配布し、待機期間中の検査を促す取り組みを始めたが、どれほどの効果を出せるだろうか(写真:共同通信)
12月28日、羽田空港の国際線到着ロビーに並べられたPCR検査キットが入った紙袋。東京都が入国者へ無料配布し、待機期間中の検査を促す取り組みを始めたが、どれほどの効果を出せるだろうか(写真:共同通信)

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