クスリがない…!現役薬剤師3人が語る「絶望の薬局」のいま | FRIDAYデジタル

クスリがない…!現役薬剤師3人が語る「絶望の薬局」のいま

緊急座談会 怒号飛び交うドラッグストア、ジェネリック推進が裏目に、心不全、高血圧、狭心症など命にかかわる薬も欠品だらけ……

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中央区内の薬局で欠品の説明をする薬剤師の川田裕隆さん。日薬連によると全医薬品の2割が品薄になっている
中央区内の薬局で欠品の説明をする薬剤師の川田裕隆さん。日薬連によると全医薬品の2割が品薄になっている

’13年4月、時の安倍政権は「後発医薬品(ジェネリック医薬品)のさらなる使用促進のためのロードマップ」を策定。ジェネリック医薬品の使用拡大を推進した。昨年12月、厚生労働省はジェネリック医薬品の使用率が前年9月時点で約78%に達したと発表。

だが、この政策が完全に裏目に出ている。昨年3月のジェネリック医薬品メーカー大手の『日医工』の品質不正発覚を皮切りに、『小林化工』の異物混入、『ニプロ』の地震による生産中止と、相次ぐトラブルでジェネリック医薬品の供給がストップ。全国の調剤薬局から「クスリがない!」と悲鳴が上がっているのだ。FRIDAYは現役薬剤師3人による緊急座談会を開催。コロナ禍で起きている「命の危機」について、赤裸々に語ってもらった。

調剤薬局を経営する薬剤師A「冗談抜きで大変です。発注しても、薬が入ってこないんですから……」

大学病院に勤める薬剤師B「ジェネリック医薬品の供給低下に関して、厚労省は昨年12月、日本製薬団体連合会に対し、とくに供給が少ない22品目について増産対応への協力を求める通知を出しましたけど、ほとんど効果は出ていません」

フリーランスの薬剤師C「動くのが遅すぎますよ。ジェネリック医薬品の欠品は’20年ごろから兆候がありましたから」

「ニキビ治療薬の『デュアック』ですね? ’20年夏ごろ、まったく入荷がなくなって困惑しましたよね」

「あのとき、薬剤師は皆、『ジェネリック医薬品の欠品が続出したらどうなるんだろう』と不安になりましたよね。そしてその不安は的中。ポツポツと欠品が出始めて、’21年に入って加速しました」

「’21年夏に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療薬『アルファカルシドール製剤』の供給が不足したとき、厚労省は『薬の使用中止と新規処方は避けるように』と通知を出しましたが、その後も欠品は止まらなかった。とくに去年の秋以降は連日、医薬品の卸業者さんから欠品の電話やFAXが大量に届くようになった。どの薬が入ってこないのか把握できないほど欠品が増えた」

「月曜日の午前中なんて、欠品対応でほぼ終わっちゃいます……。大学病院はどうですか?」

「病院でも欠品が目立ち始めています。点滴薬にも影響が出てきていますし、内服薬も入ってこないものがあります。ただ、大学病院は町の調剤薬局に比べると医薬品の卸業者とのルートが多くて太いから、普段、取り扱わないメーカーの薬でも引っ張りやすい(入荷しやすい)とは思いますね」

AとC「欠品した薬はどう対処しているんですか?」

「たとえば高血圧や狭心症の薬『アムロジピン10㎎』はまったく入らない状況が続いていますが、『アムロジピン5㎎』は入荷があるので、2錠出して対応しています。同じ薬がない場合――直近ではやはり高血圧や狭心症治療薬の『セパミット』の入荷がまったくありませんでしたが、そういうときは医師に欠品情報を提供して、どの薬に変更すべきか相談します。DI室という医薬品情報を提供する部署に医師が相談して代替薬を検討することもあります。大学病院の場合、チーム医療が成り立っているのでなんとか対応できているという感じでしょうか」

「緊急や難病の患者さんに対応する大学病院は最後の砦。薬の欠品はあってはならないですもんね。それに比べて、町の調剤薬局は悲惨です」

「我々、町の調剤薬局は大学病院のようにチーム医療が成立していないので、医師に処方変更をお願いするしか手がない。スムーズには行かないことがほとんどですよ。先日、高血圧と狭心症の薬『ニフェジピンCR20㎎』が入ってこないという状況がしばらく続き、先発薬である『アダラートCR20㎎』も欠品したことがあって……卸業者や近隣の薬局にあたっても在庫を確保できず、処方医に薬の変更をお願いしたのですが、『薬局に薬がないという理由で、処方変更なんてできるわけがない! ウチの大学病院前の薬局には在庫がある。そちらの努力不足じゃないですか?』と叱責されました。さすがにムッとして『全国の薬局で医薬品の欠品が起きていることをどうか共有して下さい』と電話を切りました」

「大学病院や大きな病院のすぐ近くにある”門前薬局”に優先的に薬が入荷されるのは当たり前。門前薬局はほかの薬局に比べて処方箋の発行枚数が多いから、薬の入荷数が多く、卸業者からすれば”太客”となり、優先されますからね。在庫の不均衡も是正すべきですよ」

「特殊な薬が必要な患者さんが一人いたら、その人のためだけに在庫を揃えないといけない。売り上げ自体は伸びないわけです。いろんな患者さんのために頑張っている町の薬局が、在庫を確保できないのは問題ですよね」

「薬の流通はMS(医薬品卸売業者の営業担当者)次第という側面もありますよね。MSさんと関係がいいと、なんとか融通してもらえることもある」

「いまさらながら、普段仲良くしておけばよかったって思ってしまいます」

「ただ、そんな背景は患者さんには関係ないから、『薬がない』と言っても納得してくれませんよね。『薬のプロの薬剤師がジェネリックを勧めるから従ったのに、薬がないとは何事だ。あんたら、薬を集めて出すだけの仕事でしょ? そんなこともできないのか!』と怒鳴られても、返す言葉がない」

「代替薬を提案しても、製薬メーカーが替わることに抵抗がある患者さんが少なくない。かなりハードルは高いですよね。『あんたの言う通りに薬を替えたらアレルギーが出た!』とか『血圧が安定しなくなったじゃないか。どうしてくれるんだ!』と詰め寄られたこともあります」

B「ジェネリックの定義は『先発薬と治療学的に同等であるもの』。メーカーによって添加物が異なるから、添加物が替わることによってアレルギー反応を起こす可能性がある」

「アナフィラキシーショックを起こせば呼吸困難や死に至ることもあります」

「心不全薬の標準治療薬『ビソプロロール』の供給が低下した際は日本心不全学会が心不全患者への対応策を提言する深刻な事態になりました。他の薬への切り替えは気管支喘息や肝障害などの有無に注意する必要があり、思わぬ症状悪化を招く危険がありますから」

「向精神薬の供給低下には多くの医師が頭を抱えています」

精神科医の高木希奈医師が補足する。

「精神科では『デパケン』などのバルプロ酸ナトリウム製剤の処方が出来ず、非常に困っています。同じ薬効の代替薬がないからです。症状が安定している患者さんの薬剤を変更することにはリスクが伴います。実際、双極性障害の患者さんなどは、薬の変更によって病状が不安定になったり、悪化したりするケースがあると聞いています」

双極性障害の場合、不安定となることで鬱状態が重くなり、「希死念慮」(死にたいと願う状態)が強くなることがある。

「差額を負担しろ!」

「さきほど、『10㎎の薬が入らないから5㎎を2錠処方する』とか『先発薬に替える』という対処法を紹介しましたけど、これだと薬価が数倍になったりする」

「私、『そっちの都合で替えているんだから、差額は負担してくれるんだろうな!』とキレられたことがあります」

「どれだけ患者さんに怒鳴られても、製薬メーカーに『出荷調整』と言われたら、薬剤師に打つ手はない。『出荷調整』とは、薬の在庫がゼロになり医療危機が起こることを避けるために、メーカーが自主的に供給量を調整することを指しますが、今回のように複数のメーカーが同時に出荷調整をすると、他のメーカーに発注が集中し、供給低下が加速してしまいます。先発薬の需要が急激に増えたら、先発薬でも出荷調整が起きる可能性がある。ジェネリックを患者さんに勧めてきたのはたしかですし、自分自身も家族も当たり前にジェネリックを使ってきたけど、今後も勧めていいものかと躊躇(ちゅうちょ)してしまいます」

「正直、私もジェネリックを勧めることに抵抗というか不安がありますね」

「ジェネリックの供給低下は、今後2〜3年でさらに深刻になるのではと予想されていますからね」

「『日医工』が10年以上も不適合製品を出荷していたことがトリガーとなって、厚労省はジェネリック医薬品メーカーへの無通告立ち入り検査を強化すると宣言しています。他社で不正が発覚すれば、あらたに製造中止になる薬が出てきて、さらに供給低下が起きるでしょう」

「薬剤師のキャリア20年で、これほどまで薬が不足した経験はありません」

「年末も綱渡り状態でしたが、これから年度末に向けて、薬局はさらに追い込まれます。潰(つぶ)れる薬局も出ると思います。というのも、4月に診療報酬改定があって薬価が下がるからです。本来なら在庫を絞って、新しい安い薬価で4月から入荷したいところですが、出荷調整中の薬に関しては入荷のチャンスがあれば買わざるを得ない。どこも在庫を抱えたまま4月を迎えることになるでしょう。4月以降は高い価格で買った薬を安く出すということになり、経営を直撃します」

「月頭に仕入れた在庫を10とすれば月末には4に絞っていくのが理想ですけど、患者さんのことを考えたら、欠品を避けることを優先せざるを得ない」

「ジェネリックの供給低下を解決するにはどうすべきだと思いますか?」

「薬価を抑えて医療費を削減しようとすることに無理があると思います」

「同感です。薬価を下げてかつ、需要増に対応するため『日医工』は不正に手を染めたわけですから、現場は限界を超えているということ。医療費を抑えるには、風邪などの軽症では、病院へ行かずとも治療できるようにセルフメディケーションを推進すべきです」

失政のツケはあまりに大きい。

別の薬局のバックヤード。品切れを表す「欠」という字が書かれた付箋があちこちの棚に貼られているのがわかる
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欠品による代替薬への切り替えで、薬価の自己負担額が上昇。窓口で薬剤師にヤツ当たりする患者が散見される
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薬局には連日、欠品の知らせが医薬品メーカーからファクスで届く。患者と向き合う前に品切れ対応に追われる日々が続いている
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薬局を経営する薬剤師Aさん(30代)。「利益が出ているのは一部の大手薬局だけ。他はどこも綱渡り状態です」
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大学病院に勤務する薬剤師Bさん(30代)。「地域の薬局が連携して卸業者と交渉し、薬を融通し合う必要がある」
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フリーランスの薬剤師Cさん(50代)は首都圏や北関東で勤務しているが、「どこも等しく薬が不足しています」
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『FRIDAY』2022年1月28日号より

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