コロナで苦しむエンタメ3団体が出した「声明文」の正しい読み方

指南役のエンタメのミカタ 第28回 「春は必ず来る」と信じて、逆風のエンタメ界を考える

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エンタメ界が逆風である。

先の2月26日――安倍晋三首相が新型コロナウイルス感染症対策本部において、今後2週間は全国的なスポーツや文化イベントを中止か延期、もしくは規模を縮小するよう要請したのを受け――同日から音楽コンサートや演劇、歌舞伎、お笑いライブ、映画祭等々、各種イベントが軒並み“店じまい”に追い込まれた。プロ野球もオープン戦の無観客試合を表明し、東京ディズニーランドとシーも3月15日までの休園を発表、『ドラえもん』の新作映画の公開も延期された。

新型コロナウイルスによる肺炎等が世界に拡大し、日本国内でも急速に警戒が強まった。休園、中止、延期。エンタメ界には強烈な逆風が吹いている。  写真:ロイター/アフロ

まぁ、個人的には、あくまで総理の“要請”であり、法的に強制力を伴うものではないのだから――実施するかしないかは、各々が判断すればいいことだと思う。「総理の要請=絶対だ!」と言う人もいるけど、同じく安倍総理肝いりの「プレミアムフライデー」の実施率はわずか3%である。

中には、椎名林檎サンがボーカルを務める「東京事変」のように、自らの判断で2月29日に東京国際フォーラムでツアー初日を迎えた例もある。野田秀樹サンのように「いかなる困難な時期であっても、劇場は継続されねばなりません」と、演劇人としての矜持を示した人もいる。

年に1000本ほどのお笑いライブを主催するK-PRO。最大の看板ライブ『行列の先頭』が行われるはずだったセシオン杉並。無人の座席に無造作に置かれたスタッフの荷物が悲しい

だが、悲しいかな、SNSでは林檎サンも野田サンも集中砲火を浴びてしまった。あくまでお二方とも、感染症の専門家と協議の上で万全の対策を施し、且つ観客の自由意思(東京事変はチケットの払い戻しも受け付けた)に委ねる旨を表明しているのに――世間はまるで魔女狩りのごとき様相に。そして、とうとう東京事変は3月4日、大阪以降のツアー中止を余儀なくされたのである。

ここで思い出されるのが、先の大戦下における「七・七禁令」だ。いわゆる「贅沢は敵だ!」の標語でお馴染みの嗜好品やその種のサービスの提供を規制する省令だが、実際には許可をもらえば例外措置を認められ、買い手側への罰則もないなど、意外とユルかった。しかし、発令された際、庶民の反応は「遅すぎる!」「基準が手ぬるい!」と、逆に政府のお尻を叩くものだった。そして民間団体の「国防婦人会」らが割烹着姿で町内を練り歩き、パーマをあてた若い女性を吊るし上げたのだ。そう、げに恐ろしきは火の着いた大衆である。

ホンネでは、エンタメの作り手の多くは、椎名林檎サンや野田秀樹サンと同じ気持ちだったと思う。三谷幸喜サン脚本の舞台劇『笑の大学』じゃないけど、多くのエンタメの作り手たちは、目の前に高いハードルがあれば、あの手この手で乗り越え、自らの作品を観客に届けたいもの。それが、エンタメを志す者の矜持「Show must go on(幕を降ろすな!)」である。

新型コロナウイルス対策について、安倍晋三首相が会見を行った。発表された対策は様々な影響・反応を生んでいる(2020年2月29日)  写真:AFP/アフロ

だが、一方で彼らの多くは安倍総理の要請を、ぶっちゃけ“渡りに船”と思ったのではないだろうか。実際、総理が要請を出す前から、SNS界隈では音楽業界に対してコンサートなどを控えるよう、世論が高まっており、あの西川貴教サンはTwitterに「結局のとこライブとかイベントはやっていいの?あかんの?どっち?やっても怒られて、やめても怒られる……そろそろ政府でちゃんと決めて欲しい」と書き込んでいた。

まさに、それが可視化されたのがPerfumeだった。SNSでは、総理が要請を出す前日に東京ドームの初日公演を行った彼女たちに「命よりカネか?」なんて心ない言葉を浴びせる者もいた。ところが、総理の意向を受け、2日目の中止に踏み切ったことで一転、今度は「直前までリハーサルをしていたのに、安倍サンに中止にされた3人が可哀想!」と、まるで悲劇のヒロインのごとき扱いとなり、逆風は止んだのである。

そう、げに恐ろしきは火の着いた大衆である。

科学的なことを言えば、東京国際フォーラムや東京ドームなどの大規模イベント会場は、映画館と同じく「興行場法」なる厳しい認可を得ており、それはインフルエンザ等を予防する換気基準を満たした施設であることを意味する。そう、場内は常に新鮮な空気に保たれ、そうした施設で観客にマスク着用やアルコール消毒などのマナーを徹底すれば、基本、コンサートなどは問題ないとは思う。

プロ野球オープン戦、巨人対ヤクルトの無観客試合。試合前にグラウンドを整備するスタッフ(2020年2月29日)  写真:ロイター/アフロ

一方、大阪市のライブハウスでは、観客の中に複数人の新型コロナウイルスの感染が確認された例がある。知らない方も多いと思うが、ライブハウスの多くは、換気基準が厳しい興行場法の認可を得ておらず、“飲食店”として営業している。「1ドリンク制」は喉が渇いた観客のニーズに応えたものでなく、飲食店を装う以上、必要な措置なのだ(でなければ、興行場法違反で営業停止になる)。

SNSでは、このライブハウスの例を取り、東京事変を叩く声も多数聞かれたが、換気の悪い狭い空間に大勢の観客がひしめくライブハウスと、興行場法でクリーンな空気のもとに運営されるコンサートホールやドーム球場を同列に論じるのはフェアじゃない。

とはいえ、いろいろあって3月4日には、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会のエンタメ3団体が連名で「エンターテインメントを愛する皆さんへ」と題する声明文を発表した。そこには、業界として苦渋の決断に至った経緯と、経済的な損失以上に、音楽によって作り手と観客が分かち合える喜びを失った代償の大きさが綴られていた。そして、こう結ばれた。「春は必ず来る」――。

新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた共同声明について 全文を読む

うん、春は必ず来る。これは前向きな一時休戦なのだ。再び、笑顔で音楽や演劇、お笑いなどのライブイベントを楽しめる日が来るまでの冷却期間なのだ。その日までに、僕らは新型コロナウイルスに対する正しい知識や情報を身に着け、いたずらなデマに踊らされず、他人をいたわる心を忘れず、完璧な鑑賞マナーを整え、来たるべき開幕ベルを待とうではありませんか。

そう、ちょっと長めのインターミッションと思って。

  • 草場滋

    (くさばしげる)メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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