『麒麟』『イッテQ』『ポツンと』日曜8時・テレビ戦争勝者の行方

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史上最低の視聴率だった『いだてん』の後、19.1%で始まったNHK大河『麒麟がくる』

前作最終回から11%ほど上げたため、日曜8時は『世界の果てまでイッテQ!』(以下「イッテQ」、日本テレビ)、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日)の3番組が、しのぎを削る激戦区と化した。

しかし3番組はジャンル・切り口・内容・テイストが全く異なる。

では視聴者は、これらをどう見分けているのだろうか。

世帯視聴率の動向

長谷川博己主演『麒麟がくる』は、出演者の交代などで放送開始が2週間遅れた。

1月19日が初回だったが、以後のHUT(総世帯視聴率)はそれ以前と比べ明らかに上昇した。この日の3番組合計は50.3%。HUTの4分の3以上を占めた(図1)。

日曜夜8時の「世帯視聴率」

以後も、フジテレビが四大陸フィギュアスケート選手権を放送した2月9日を除き、3番組が揃った際には、7チャンネル中3チャンネルで、HUTの3分の2以上を占め続けている。

実は『いだてん~東京オリムピック噺~』の後半は、3番組の視聴率をあわせても40%前後が多かった。3番組の占有率も6割を切ることが度々あった。

また『麒麟がくる』が遅れてスタートしたため、1月前半のHUTも低調だった。1週目は63.8%、2週目が62.8%。

実は強力な番組が多くなると、互いに視聴率を奪い合うだけでなく、より多くの人がテレビをつけ、結果としてHUTが高くなる傾向がる。

3強が出そろった3週目以降は、HUT65%超が普通になった。やはり魅力的な番組が増えると、テレビは賑わいを取り戻すようだ。

中高年が支える『麒麟がくる』と『ポツンと一軒家』

では激しく激突する3番組は、どんな視聴者に見られているだろうか。

まず『麒麟がくる』は、圧倒的に50歳以上の視聴者に支えられている。C層(男女4~12歳)・T層(男女13~19歳)・1層(男女20~34歳)は、基本的に3%以下しかない。そこでの上下動は、数字が小さいために世帯視聴率にほとんど影響しない。

また2層(男女35~49歳)は、4~5%あるので多少の影響力を持つ。ところが3層(男女50歳以上)は、テレビ視聴者の6割以上を占める。しかも12%前後と数字も大きいため、例えば2月9日のように、2層が上昇しても3層が下がると、世帯視聴率も下がってしまう(図2)。

NHK 夜8時台の「個人視聴率」

明らかに中高年の番組なのである。

『ポツンと一軒家』も、同じように3層(男女50歳以上)が中心だ。

C層・T層・1層は『麒麟がくる』より少し多いが、2%前後に過ぎない。また2層も5%前後なので、やはり少し多い(図3)。

テレビ朝日 夜8時台の「個人視聴率」

それでも12%前後もある3層の動向が、最も世帯視聴率に影響を与えている。やはり『麒麟がくる』と同じ構造になっている。

若年層が多い『イッテQ』

一方『イッテQ』のパターンは、全く異なる。

先の2番組は3層が他の層を大きく引き離していた。ところが『イッテQ』では、3層は1層・M2(男性35~49歳)と同じレベルに留まる(図4)。

日本テレビ 夜8時台の「個人視聴率」

代わりにC層・T層・F2(女性35~49歳)が、3層を大きく凌駕している。子供と親が一緒に見ることの多い番組なのである。

3番組の違いは、19歳以下と65歳以上でグラフ化すると、いっそう鮮明になる(図5)。

NHK、日本テレビ、テレビ朝日 日曜8時台の「個人視聴率」(19歳以下と65歳以上)

『麒麟がくる』と『ポツンと一軒家』の19歳以下は、2%ほどで推移している。ところが65歳以上の個人視聴率は『ポツンと一軒家』で7~8倍、『麒麟がくる』に至っては10倍ほどになることがある。

ところが『イッテQ』では、19歳以下と65歳以上が逆転する。

しかもその差がダブルスコアになることも珍しくない。65歳以上だけでみると、『イッテQ』は他2番組の半分に満たない。『イッテQ』の世帯視聴率は『ポツンと一軒家』に後れを取ることが多いが、実はテレビ視聴者に占める割合が高い高齢者の多寡により左右されていたのである。

それでも広告主には、65歳以上の視聴者より若年層を求める企業が多い。

『イッテQ』と『ポツンと一軒家』の広告主を比べると、前者は明らかに大手企業が多く、しかも1社あたりのCM時間が長い。後者は番組の前半と後半で提供社を変え、提供者の数は多いが1社あたりの広告時間は半分だ。

業界では『イッテQ』の広告単価がかなり高いと言われているが、視聴者層の違いがCM価格に反映しているのである。

視聴者特性の違い

スイッチ・メディア・ラボのデータは、性年齢別の個人視聴率だけでなく、世帯パターン別や好みの番組別でも視聴率を出せるようになっている。

これでみると、大河ドラマと銘打っている『麒麟がくる』は、看板通り“歴史好き”にはよく見られている。ところがドラマなのに、“ドラマ好き”からはそれほど見られていないし、何故か“ドキュメンタリー好き”の視聴者が多い

どうやらファクトを好む人々には支持されているが、心の機微を表現するドラマの要素がイマイチと思われているようだ。

また“夫婦のみ世帯”、つまり大人にはよく見られている。

ところが“二世代の家庭”ではかなり低い。“バラエティ好き”で最低になっている点をあわせると、子供になぜ見られないかが、ここからもうかがえる。

それでも1年続く大河は、まだ序盤。今後改善の余地があるとすれば、視聴者の感情を動かす展開と、子供にも見られる工夫ということだろう。

対照的なのが『イッテQ』。

“バラエティ好き”に最も支持されているが、同時に“ニュース好き”“ドキュメンタリー好き”“ドラマ好き”にもよく見られている。

日本テレビは90年代にドキュメントバラエティを確立した。『電波少年』や『ウリナリ!!』がその典型だ。

『イッテQ』はその流れを汲む番組で、ハプニングやドラマチックな展開が含まれるために、視聴者の層が広くなっている。

結果として、最も数の多い“二世代の家庭”で独走している。広告主にとって、理想的なパターンなのである。

間を行くのが『ポツンと一軒家』。

図6では視聴パターンに個性がないように見えるが、図3や図5にあったように中高年、特に65歳以上で圧倒的な支持を集めている。

日曜8時『麒麟がくる』『イッテQ』『ポツンと一軒家』の「個人視聴率」

ただし広告営業を考慮するのなら、“ニュース的要素”を加味し、“ドキュメンタリー”や“ドラマ”好きを視野にハプニングやどんでん返しを意識すれば、視聴者層は広がりそうだ。

岩盤支持層の高齢層を確保しているのだから、思い切った挑戦を試みるべきだろう。

以上が日曜8時3番組の視聴データに基づく分析だ。

今後を展望すると、特徴がそれぞれ大きく異なるので、各番組の雌雄は簡単には決まらないだろう。ただし多くの層にバランスよく見られている『イッテQ』の安定感は抜群だ。他2番組は、改善の余地が見えているだけに、もっと面白くなる可能性がある。

いずれにしても一視聴者としては、これまで以上に激突することで、テレビをもっと面白くしてもらいたい。各制作者の奮闘に期待する。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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