西武・秋山翔吾 今年で22冊目の「野球日記」が成功の秘訣

独占密着インタビュー

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

 

悩み抜いたすえ、プロ5年目に会得したのが、ホームランを捨て、ギリギリまでボールを見て最短距離で振り抜くバッティングだった

僕が’15年にシーズン最多安打記録(216本)を作ってから3年経ちましたけど、あと5年――いや、3年以内には新記録が誕生すると思ってます。イチローさんが’94年に210本の記録を作って、それから年間の試合数が130から144に増えても、なかなか更新されなかった。ところがこの記録も’10年にマートン(阪神)が214本打って塗り替えた。当時、誰しも「当分、この記録は破られないだろう」と思っていたはずですが、それも5年経たずに僕が更新した。間違いなく僕の記録も破られる。だからもう――「過去の人」なわけですよ、僕は。「日本記録の秋山」は、野球界に残らない名前なんですよ。

昨季のパ・リーグ首位打者で、今季も45試合終了時点で.363と打ちまくっている秋山翔吾(30)は冒頭からネガティブだった。たしかにインタビュー前夜の日本ハム戦で、秋山は右翼手と交錯してフライを落とすという手痛いエラーをしていたが――特守に特打と、ナインの誰よりも遅くまで残って練習する秋山を見ながら、スポーツ紙西武担当記者はこう言うのだった。「このクソマジメさこそが、誰にも負けない秋山の才能」だと。たとえば彼の趣味はラジオなのだが――。

『文化放送ライオンズナイター』で不定期に僕が喋(しゃべ)るコーナーを持たせてもらっているんですけど、ファンが「マジメすぎて放送事故だ」と言っていたそうです。聴く側の受け取り方次第だと思うんですが、こと野球のこととなるとあまりポジティブになれなくて……。たしかに、ヒットが出ていても僕は「落とし穴がすぐ近くに来てる」と思っちゃうので、あえて自らを戒めながら、「感覚はいいです。ただ……」なんてブレーキをかけて喋っていました。コーナーのタイトルが「前向きに行こう」みたいな感じだったから、「タイトルと違うじゃん」と思われたのかもしれませんね(笑)。

ラジオは聴くのも好きです。ライオンズ推しの文化放送さんと取材などで交流するなか、ラジオに興味がわいてきて、いまでは移動の際、ライオンズ戦の実況中継をよく聴いています。スマホのアプリを使えば過去1週間ぶん、さかのぼって聴くことができるんです。

自分の打席を中心に聴くんですが、他人が自分のことをどう見て、どう言葉にしているのかが興味深い。同じ実況でも、福岡とか仙台とか、遠征先によって解説の仕方が違ったりして、聞き比べするのも楽しいですよ。侍ジャパンに選んでいただいたときもヘッドホンでラジオを聴いていたんですが、ブルートゥースのスイッチを入れ忘れて、爆音で文化放送の実況が流れてしまい、則本(昂大・楽天)や千賀(滉大・ソフトバンク)に「いったい何を聴いているんですか!」ってツッコまれました(笑)。

秋山によれば、ラジオの実況中継を聴くメリットは「僕は頑固なところがあるので、考え方が偏らないようにする、自分を客観的に分析するのに役立っているのかなと思う。あとは息抜き」なのだという。そして秋山のマジメぶりが最も表れているのが、プロ1年目のキャンプ初日から欠かさず続けている「野球日記」だ。

当時の守備・走塁コーチに「プロ野球選手はなかなか経験できる職業じゃない。その日にあった出来事を自分の言葉で書き留めておくと財産になる」と薦められて始めたんです。今年3月で22冊目に入りました。

体調のことを記すこともありますが、バッティングの結果と対戦したピッチャーのことは必ず書きます。4打席、5打席あった中で、自分の納得がいったこと、あるいは納得いかなかったことがあれば、さらにピックアップして書く。6~7割はバッティングの反省ですね。「1打席目は初球から打ちにいってもよかったんじゃないか」とか。

ちなみにエラーした昨日の日記は、「ピッチャーに申し訳ない」、「情けない」から始まりました。先発の十亀さん(剣・30)が頑張っていたのに、4タコ(4打数ノーヒット)。打てないだけならまだしも、守備でまで足を引っ張ってしまった。自分のベストを出しきれなかったってことは、力がないということ――と、そこまでは書いてないですが、そのぐらいのテンションで綴(つづ)っていましたね。

日記は自宅、あるいは遠征先のホテルで寝る前に10分から15分かけて書く。読み返したりはしませんが、毎日、寝る前に自分ともう一回向き合うんです。

秋山がルーキー時代から残し続けている記録がもうひとつある。特徴的なボール、厄介なボールに出会った際に記す「野球メモ」だ。先の日記と違い、こちらは技術的、実践的だ。

真っ直ぐと一口に言っても、「思った通りの145キロ」もあれば、「体感速度と合わない140キロ」もあるし、「メチャクチャ見やすい150キロ」、「ふけていく(吹き上がる)速球」もある。変化球にしても、たとえばスライダーなら「ふくらみが大きい」とか「曲がり出しが遅い」とか、フォークなら「真っ直ぐの軌道から落ちる」とか、「一度浮き上がってから落ちる」とか、「シュートしながら落ちる」とか、様々です。それが頭の中でイメージできるのならいいのですが、整理できない場合にメモを使っています。どこに目付けをすればいいか。高めか低めか。体感したことをメモして次に対戦したときに面食らわないように備えるわけです。もし、次の対戦でボールのイメージが変わっていたら、付箋を貼って上書きして、またその次に備える。その繰り返しですね。

相手も新しい球種を覚えてきたり、イタチごっこの面もある。メモしたからといって、必ずしも打てるわけじゃない。本音を言えば、メモなんてつけず、すべて頭の中で処理できる人がメチャクチャ羨ましいですよ。「来た球を打つ」が一番シンプル。ただそれは、反応とか、反射速度とか、スイングスピードなどが卓越してる人にしかできない芸当。僕みたいに不器用で、いろいろやっておかないと不安でしょうがない人間は、常に次の手を考えて対策を立てるしかないんです。

日記やメモをつけていなかったら、毎日、自分と向き合っていなかったら、もっとひどい成績になっていたと思います。準備に費やした時間が、打席に立ったときに勇気をくれるのだと僕は思います。

プロ野球選手といえば、女子アナやタレントと結婚し、都内の高級タワーマンションに暮らして――という華やかなイメージがあるが、秋山は’13年に幼馴染の一般女性と結婚。本拠地・メットライフドームが見える西武線沿線に居を構えた。

あんまり遠くに住んでしまうと、球場に行くという気持ちが萎(な)えてしまうかもしれませんから。野球と切り離して人生を考えることはできないですね。どんな息抜きをしていても、常に何かしら野球と結びつけたりしている。家族は疲れると思いますよ、とくに妻は。僕は凡打だったり、エラーだったり、グラウンドでの失敗を家に持ち帰ってしまうことがよくある。妻はもともとソフトボールをやっていたので、野球に理解がある。「あのプレーは……」と一緒に悩むのではなく、「次、切り替えて!」と言ってくれる。僕もその言葉を待っているところがあるので、本当にありがたいですね。

よく「考え過ぎだよ」って言われます。 でも、何が一番苦しいかって、練習とか、野球に対して悩んでいる時間より、野球ができなくなることなんです。

プロになった以上、ファンの方に覚えていてもらえる選手になりたい。自分で引退を選べるような選手になりたい。

「日本記録の秋山」はいずれ破られるのだから、たとえば2000本安打という次の目標に向かって、ヒットを積み上げていかねばならない。そう考えると、まだまだ先は長いですよ。途方もない。

こういう考え方だから、追い込まれるのかな(笑)。

最低でも1日半ページ。筆圧の高い力強い文字がビッシリと並ぶ「野球日記」。「読み返すとしたら引退後か死ぬ前か……」

全体練習後も一人で打ちこみ。「秋山は衰えたな、と思われるのが一番悔しいから。数字が落ちることはプロにとって死活問題なんです」

撮影:ジジ

Photo Gallary3

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事