マンガ大賞3位!『スキップとローファー』を人に薦めたくなる理由 | FRIDAYデジタル

マンガ大賞3位!『スキップとローファー』を人に薦めたくなる理由

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一大ブームを巻き起こしている漫画『鬼滅の刃』。「全肯定ツッコミ」が支持を得たお笑い芸人『ぺこぱ』。

「優しさ」や「思いやり」、「寛容さ」が人の心を惹き付けているこの令和の時代に、じわじわと注目度が上がってきている漫画がある。

「このマンガがすごい!2020」オトコ編7位にランクインし、3月16日発表の「マンガ大賞2020」では3位に輝いた青春漫画『スキップとローファー』だ。

『スキップとローファー』 1話を試し読み!

『スキップとローファー』1巻書影(作・高松美咲/雑誌「アフタヌーン」連載中/単行本①~③巻、以下続刊)

石川県のはしっこで生まれ育った主人公・岩倉美津未(いわくら・みつみ)。通称”みつみちゃん”は、頑張り屋で真っすぐだけどちょっとズレてる女の子。

「ゆくゆくは東大卒のキャリア官僚になり、過疎対策に大きく貢献する」という完璧な生涯設計を描き、地元から単身上京。頼れる親戚・ナオちゃんの家に居候しながら、東京の進学校に通うことになる。

クラスメイトは皆生まれも育ちも、タイプもまったく違う子たち。それぞれに悩みも抱える彼ら彼女らだが、みつみの天然さ、和やかさにつられて自然と笑顔になり、気付けばいつしかハッピーな気持ちになっている――。読んでいて心がほんわかあったかくなる、珠玉の青春ストーリーだ。

作者の高松美咲さんは連載開始の経緯についてこう語る。

「プロットの段階でまったく案が浮かばず、ネーム(※漫画の下書きのようなもの)も描けず、やっと1つ会議に出せたのも落ちてしまい……と迷走していた時期がありました。それを経て描いたのが『スキップとローファー』だったので、担当さんから『連載が決まった』と聞き、喜びより先に『みつみのどこをそんなに気に入ってくれたんだろう』と思ってしまったくらいにはビックリしました(笑)。

夢を持って上京する人は現実にたくさんいますが、その夢のために猛勉強できる人というのはほんの一握りだと思います。そういう堅実な努力ができる非凡さを持っているのがみつみというキャラクター。上京したての頃のカルチャーギャップや、小さなことに喜んだり戸惑ったりする姿を等身大に描くことを心がけているので、そういったところに魅力を感じてもらえたのであれば嬉しいです」(『スキップとローファー』作者・高松美咲 以下同)

学校までたどり着けるか心配してくれるナオちゃんに、やたらと自信満々に「大丈夫」と言い切るみつみ。意気揚々と入学式に向かうが、この後大変なことに――!/『スキップとローファー』1話より

主人公・みつみは、過疎の地域で生まれ育った子。中学校は全学年あわせて26人、同級生はそのうち8人。映画館やショッピングモールのある金沢までは車で2時間以上かかるし、地元を走っていた電車は10年前に廃線になっている。

そんな環境から大都会・東京にやってきて、人混みや満員電車に戸惑ったり、初めて友達同士で行くカラオケボックスやスタバにドキドキしたり、「友達になるのって何をどうしたらいいんだっけ?」と今さら悩んだり、連絡先を聞くのにいちいち緊張したり……。と、学生時代を思い出しては「あーーそんなこともあったな~~」と共感を覚えるシチュエーションが満載だ。

入学式当日、ミカちゃんに頑張って話しかけるみつみだけど、なんだか雑に扱われて……? みつみに当たりの強いミカちゃんだが、読み進めていくうちに、印象がガラッと変わるキャラクターだ/『スキップとローファー』1話より

「生まれた場所も、育った環境も違う人々が、ある年齢の一定の時期を共に過ごすのが『学校生活』だと思うのですが、今こうして大人になって思うと、あの日々は貴重な体験だったと感じます。同じ学校でなければ出会わなかった、話す機会もなかったような子もいたと思うので。

本作はみつみという地方出身の子が、都会で生まれ育った子たちと学校生活を通して仲良くなり、価値観をすり合わせつつ成長していく話です。

でも、単純に「田舎の人」「都会の人」と二分化することはできないと思うし、どちらかを貶めるような描き方はしないように気を付けています。どんな街にも特徴や魅力があって、比較すれば当然違いはある。どこをどんな理由で好きになるかは、人それぞれじゃないかと。

みつみの東京での保護者・ナオちゃんは体が男性、心は女性のトランスジェンダーですが、地元よりも都会の方が”水が合っていた”から東京で暮らしている人です。地元が合わないと感じて上京する人は沢山いるだろうし、逆に地方に魅力を感じて引っ越してくる人だっている。そういう『現実に存在している』ことについて、自然にそこにあるものとして描きたいと思っています」

お父さんの弟であるナオちゃんのことを、みつみは「叔母」と称するし、友達にもそう説明する。スタイリストとして働くナオちゃんは、ファッションセンスがなかなかに微妙なみつみに「待った!」をかけてくれる貴重な存在でもある/『スキップとローファー』2話より

そこにあるものをリアルに描く、という高松さんの想いは、過疎地域の描き方にも現れている。

みつみの東京での高校生活をメインに展開していく本作だが、地元・鈴市凧島町(すずしいかじまちょう)に住む幼馴染・ふみとの電話でのやりとりも頻繁に描かれる。幼稚園の頃からの親友であるふみは、みつみにとって大切な存在。彼女や家族と15年の時を過ごしてきた地元は、大事な思い出の詰まった場所だ。

この凧島町は、高松さんにとっても思い出の地だという石川県の珠洲~能登あたりをモデルにした架空の街。この地域は少子化や人口移動に歯止めがかからず、2014年に「消滅可能性都市(将来に消滅する可能性がある都市)」に指定された過疎地域だ。

「母の実家が能登で、夏休みには毎年家族でおばあちゃんの家に帰省していたんです。私にとっての能登というのは、のんびりとした時間を過ごす、とてもあったかくて居心地の良い場所でした。

私自身は富山県出身なのですが、地元をそのまま描くのは自分自身に近すぎて、フィクションとしては難しいなと思ったんです。そこで、いい思い出がたくさんあり、自分にとって程よい距離感でもある能登をモデルにしました。

社会派な作品ではないので、問題提起をしようと思って描いているつもりはありません。私にとって『過疎』というのは『そこにあるもの』なので、排除する必要のない、そこに存在しているんだから描くという感覚でした。主人公を能登出身にするのであれば、あの風景――浜辺に乗り上げたまま朽ちた船や、住む人が居なくなって放置されている家のことを描かなければリアルじゃないと思ったんです」

取り壊されることもなく、風雨にさらされながら荒れ果てていく木造住宅。このやるせない光景に、見覚えがある地方出身の人間は多いのではないだろうか/『スキップとローファー』6話より

作中でみつみは、「そんな場所って全国にたくさんあるわけじゃない? そういう問題の根本的な対策とかに携われたらなって」とクラスメイトの志摩くんに対してそう語る。石川県にも能登にもまったく縁がなくったって、「地元のために何かしたい」と奮闘するみつみの姿に、きっと心動かされるものがあるはずだ。

こんな風に若干気恥ずかしそうに夢を語るみつみに対し、「茶化さなくてもいいよ、立派な目標じゃん」と言い切る志摩くん。入学式の日に、迷って学校に辿り着けなかったみつみを助けてくれた恩人でもある。

この志摩くんと、みつみとのなんともいえない距離感こそ本作の大きな魅力のひとつ。恋愛未満の”いいお友達”のような、でも特別なような、やっぱりなんだか遠いような……? とめちゃくちゃ読者をやきもきとさせる。

入学式に遅刻してしまい、裸足になって必死で学校へと走るみつみ。「たかが入学式じゃん?」と呑気な志摩くんだったが、一生懸命なみつみの姿に何かを感じ、引き寄せられるように一緒に駆けていく/『スキップとローファー』1話より

「志摩くんとみつみとの関係が今後どうなるかは、一応なんとなくは構想があるのですが……どんな着地点になるかなど、まだ固まりきっていない部分もあります。描きながらいろいろ模索しているような状態です。

連載が始まる際、『みつみが完璧超人な話にはしたくない』と考えていました。

失敗だってするし、どんなに思いやりの心があったって、優しくしようとしたって、相手が何に傷付くのかすら理解できていない時もあるし、実際に傷付けてしまうこともあれば嫌われることだってある。そんななか、どうやって人と向き合っていくか、どんな感情を抱くのか、そういったことを丁寧に描いていきたいと思っています」

本作が3位に選ばれた「マンガ大賞」は、「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」という気持ちが形となって始まった賞。

高校生活のワクワク感も、人を好きになるドキドキ感も、優しいだけじゃない心の機微もリアルに描く『スキップとローファー』は、読んでいてぴょこっ! と跳ねたくなるこの幸せな気持ちを、自分の大切な人にもおすそ分けしたくなる物語だ。

 

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  • 取材・文大門磨央

    石川県出身。雑誌やWEBを中心に映画、アニメ、漫画などのコラムを執筆中

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