名医が語る腰痛の真実 なぜ痛む 治るのか 手術は受けるべきか? | FRIDAYデジタル

名医が語る腰痛の真実 なぜ痛む 治るのか 手術は受けるべきか?

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診察室で取材に応じる岩井医療財団理事長の稲波氏。ヘルニアの圧倒的な手術件数を誇る

「椎間板ヘルニアの定義ははっきりしていない。変な話でしょう?」

こう話すのは医療法人財団岩井医療財団理事長で「稲波(いななみ)脊椎・関節病院」院長の稲波弘彦氏。年間1800件以上の脊椎内視鏡下手術を実施し、全国で行われている同手術総件数の約11%を占めるグループの病院を率いる。その「日本一」の名医が、椎間板ヘルニアの定義すら曖昧だというのだ。稲波氏は椎間板ヘルニアを3つに分類している。

「まず、いわば真の椎間板ヘルニア。静かにしていても痛いもの。2つ目は立ち続けていたり、背中を反ると痛くなるパターン。3つ目はMRIで見て椎間板が飛び出ていても、全く症状がない(痛くない)もの。脊椎は周囲に知覚神経がたくさんあるため、何かあったら痛みというシグナルで治療の必要性を教えてくれる。整形外科の病気の99%は自覚症状がある。裏を返せば、自覚症状すらないものは治療する必要がない。症状がないにもかかわらず、椎間板が出っ張っているからと手術を勧める医師もいますが、私の考えでは、その手術は必要ありません」

稲波氏はこう断言する。では手術するのはどのようなケースなのか。

「人間は生まれた後に血が全身を巡り、”自分”を認識する。ところが椎間板の中は血の巡りがないから”非自己”と言えます。出っ張ってきて生体が感知すれば”他者”だから、ばい菌を食べるように吸収してしまう。ですから椎間板ヘルニアは、症状があっても3ヵ月は待つというのが脊椎外科医の常識です。3ヵ月以上経っても痛みが強い人には手術をする。ものすごく痛い場合を除いて、まずは手術以外の治療法で様子を見ます」

そもそもなぜ椎間板が飛び出るヘルニアが起きてしまうのか。

「椎間板の構造は、外側はバウムクーヘン、中には噛んだミルキーキャンディーのような半流動体が入っていて、外からかかる圧力を分散させる機能があります。ところがなんらかの原因で外側のバウムクーヘンに亀裂が入ると、その亀裂を通って半流動体である髄核が出てきてしまい、神経を刺激したり、神経の通り道を狭くして、痛みを起こすのです」

人間の脊椎は、25個の骨で構成されている。一番ヘルニアが多いのは第4腰椎と第5腰椎の間で、ここでヘルニアが起こると、脚の外側から足の甲、親指にかけて痛みやしびれが出る。原因としては、加齢や重い物を持ったときの負荷等が考えられる。

全国から患者が殺到する稲波氏の元では具体的にどんな手術をするのか。


「従来は皮膚を3~5㎝と比較的大きく切って、筋肉を剥がして、肉眼で見て手術をしていましたが、身体に与える影響を少なくする目的で様々な方法が開発されました。その一つが顕微鏡で見ながらやる手術と内視鏡下腰椎椎間板摘出術(MED)です。MEDで切る皮膚は直径約18㎜。直径8㎜の、より細い内視鏡を使う方法もあります。これらは従来の手術に比べ、皮膚を切る部分、筋肉を剥がす部分が小さいというメリットがあります。また、テレビモニターに映る拡大した映像を見て行うので、微細な手術ができる点もメリットになります」

手術による傷口が小さいため、4~7日間の短い入院期間で社会復帰も可能という。むろん、腰痛の原因は椎間板ヘルニアだけではない。


「腰痛を起こすメカニズムは非常にたくさんある。椎間板ヘルニアは有名ですが、それ以外にも関節が痛みを起こす椎間関節症でも腰痛を起こすし、仙腸関節という仙骨と腸骨の関節の問題もある。また、神経の通っている脊柱管の中やすぐ外が狭くなっている狭窄症や椎間板そのものが悪くて痛みを起こす場合もある。それらをちゃんと診断しないで、画像だけで判断している医者は少なくない。

腰の痛みは心の痛み

患者さんの主訴が痛みであれば、それを取るために、原因をピンポイントで見つける必要があります。例えば背骨がすごく曲がっている場合、それを真っすぐにしなければと考えがちで、多くの医者もそう考えます。しかし痛みの原因は背骨が曲がっているからではなく、実は関節の問題だったというケースが結構ある。いくら曲がっていても、痛みの原因はそこではない、という可能性もある。痛みやしびれを起こしているメカニズムをピンポイントで診断して、治療することが、患者さんにとって良い治療と考えています」

そして、腰痛には心理的なものが原因の場合もあるという。日本腰痛学会の理事長で福島県立医科大学医学部の紺野愼一教授が面白いデータを紹介してくれた。

「スイス・チューリッヒ大学がヘルニアの調査をしました。腰の痛みを訴える20~50代の患者のうち、3分の1は、ヘルニアの神経に対する物理的な圧迫度が強い人でした。これは原因と症状がわかりやすい。しかし3分の1は、うつ状態や不安が強い人。残りの3分の1は、仕事などで強いストレスを感じている人でした。要するにヘルニア患者の3分の2は、神経に対する物理的な圧迫度がそれほど強くないにもかかわらず、心の問題で強い痛みを感じていることがわかったのです。これは痛みを抑制する『ドーパミンシステム』が、心理的ストレスのためうまく働かなくなっているからです。

ドーパミンシステムとは動物が生き延びるために必要なシステムです。たとえばライオンに追われているウサギは捻挫を起こしても走り続ける。「いまは痛がっている場合ではない」という脳の判断です。ドーパミンシステムはストレスや不安などに長年晒されていると、その機能が低下することがわかっています」

つまり、ストレスや不安がある人は、痛みを感じやすくなるのだ。

「整形外科医は、手術に積極的な傾向が強いようです。医者の言葉より、自分の身体にまず耳を傾けてください」(稲波氏)

腰痛を治すということは己の身体を知るということなのだ。

通常1時間ほどかかる内視鏡下手術だが、稲波氏の平均施術時間は約30分。おおよそ5日後には退院できる

稲波弘彦
稲波脊椎・関節病院院長。’79年東京大学医学部卒業。都立墨東病院、三井記念病院、虎の門病院などを経て、’90年より現職

撮影:小檜山毅彦(1,3枚目写真)

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