入学早々「偏差値カースト」に苦しむ中学生が増えている背景

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入学早々に始まる「格付け」

今年も中学受験の季節が終わった。友達との遊びも我慢して、寝る間も惜しんで手に入れた難関中学合格という栄光。ところが4月から始まる新生活は必ずしも華々しいものではないという。

首都圏の入試では開成など偏差値上位のトップ10校に受験生の半数近くが集中しているというデータもある。開成中学の2020年入試の実質倍率は過去5年で最高の3.0倍を記録、安定した憧れ校の地位を確立している。だが、こうしたトップ10校に入学すればどんな子でも幸せな将来が待っているというわけでもないようだ。

人から羨まれる「新御三家」と呼ばれる学校に我が子を通わせる母親は「複雑な気持ちになることがある」と漏らす。入学後に待ち受けていたのは「偏差値カースト」ともとれる現実だった。その状況に気持ちが萎え、高校で他校へ出る生徒もいるという。

「入学早々、この学校が第一志望だったか、滑り止めでここにきたかをお互いに話していたようです。滑り止めとしてきた子からすれば、ここを第一志望としてきた子たちは自分よりも格下だということなのでは…」

子どもたちの間ではじまったのは「どちら側の人間か」という格付けだった。

画像はイメージです/写真 アフロ

成績が悪いと発言権すらない

入学後、担任教師との面談で言われた言葉がまさにそれを物語っていた。

「この学校では成績が交友関係にもかなり影響を及ぼします。そんななかでお子さんはバランス型で素晴らしいですね。もう少しだけ勉強を頑張ってくれたらもっといいのですが…」

「バランス型」と評されたのは、成績が良いわけでもないのに成績上位者からも突かれずにうまくやっているという意味だ。「成績の悪い子が発言をすると、上位者は聞く耳さえもたず、相手にもしないようです」と母親。

そんななかで上手くやっていることへの評価だったのだろう。子どもはそのまま高校に上がったが、この学校で本当に良かったのかと母親は時々考えることがあるという。偏差値上位主義を感じるエピソードは枚挙にいとまがないからだ。

「よくそんな成績で恥ずかしくなく学校にくるな」

学年トップクラスの秀才が、成績の悪い同級生に対しそう言い放っていたのだ。

「うちの息子も言われましたが『僕はこの立ち位置での入学だから想定内だ』と言い返したようです。それからはなじられなくなりました。言い返せない子は辛いと思います」(前出の母親)

御三家ともなれば、地元では成績優秀、天才、秀才ともてはやされていた子も多い。だが、上には上がいる。そこに負けん気を出して果敢に立ち向かえる子どもは良いが、プライドが高い子ほど折れやすいもの。そんな子どもが同級生からなじられる。やりきれない気持ちになるだろう。

成績で人格さえも否定する、偏差値の高い学校に入ることを勉強のゴールと見せかけてしまった、大人たちが植えつけた歪んだ考え方の影響が現れているともいえる。

たいていの親は「お受験初心者」

偏差値の高い学校ではユニークな授業スタイルで生徒の好奇心を満たしてくれるところも多く、憧れを抱くのも無理はない。

一方で、この授業が万人に良いかといえばそうともいえない。勉強について行けずに劣等感だけが残る子どもがいるのも事実。

だが、偏差値上位校への入学者数を「実績」として載せたい塾としては、子どもたちを「個」として見るよりも、合格実績という「数」として見る傾向が見られる。そのため、子どもにあった学校よりも、偏差値上位校かつ合格が取れそうな学校を勧めてくる。

前出の母親の場合、“人気校の合格を一つでも多く取りたい”という塾側の本音が見えたのは校舎長との面談だった。

「それまでは親身になって相談に乗ってくれていると感じていたのですが、入試直前の校舎長との面談で、いやな顔をされ、別の学校を勧められたんです」

本人がどうしても挑戦したいと望む開成を志望校に入れたいと話した時だ。

「無理を承知で受けさせてやりたいと話したら、同じ受験日の別の学校を勧められました。あぁ、塾は合格実績が欲しいんだなと思ってしまいました」

そんな塾で教育を受けているのは親ではなく子どもたちだ。少しでも多くの合格を取ることが大事だという価値観が芽生えてしまう子もいる。中には、子どもの方がそれを承知で行くつもりのない学校でも「先生のために合格取ってきてあげる」と話すことさえあるというから驚きだ。

母親は子どもの気持ちを優先、塾の勧めを振り切り、開成の受験を決めた。結果は予想通り不合格。だが、息子は「悔いなくあきらめることができた」と挑戦への後悔は微塵もなかったと話す。

受験では子ども以上に熱が入る親も少なくない/写真 アフロ

子どもの幸せってなんだ

多くの場合、受験の専門家でもない親は、その道のプロである塾を頼るしかなく、結局「塾の勧める学校を志望校にした」となりがちだ。だが、この母親は言う。

「あの時、塾の言いなりになっていたら後悔していたかもしれない」

一つでも多くの合格を手にするという意味で言えば、この親子の取った受験戦略は失敗だろう。

だが、子どもの成長、成熟を考えたとき、この選択は成功だと言えるだろう。この子の場合、不合格を経験し入学したからこそ打たれる強さが生まれたともとれる。「偏差値カースト」にも飲み込まれず、己を見失わずに過ごせているのもこの経験があったからともいえるからだ。

小学生の子どもの場合、成熟度は千差万別、一人ひとり違いがある。現段階での偏差値がその子の将来を決定づけるものでもない。ましてや、人間の価値というのは、偏差値だけでは測れない。

御三家の場合、教科書を一度読むだけで暗記してしまうような天才肌の子がごろごろいる。こうした子どもにとっては幸せな学校生活となる可能性も高いが、背伸びをして入った子どもにとっては過酷な6年間になるケースは少なくない。

前出の親子のケースのように、入学後、「偏差値カースト」を目の当たりにすることもあるだろう。睡眠も十分に取れないほどの勉強をし、必死で入学しても、前述のような状態となれば、その子どもは果たして幸せと言えるのか。その子にとってのベストは何か、親は慎重に考えなければならない。

  • 取材・文宮本さおり

    地方紙記者、専業主婦を経てフリーランスの記者・ライターに。教育や女性の働き方、子育てなどをテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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