コロナ休校が続くなか、ラグビー名門が選手に課した意外な「練習」 | FRIDAYデジタル

コロナ休校が続くなか、ラグビー名門が選手に課した意外な「練習」

近畿王者・東海大大阪仰星高ラグビー部の今

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新型コロナによる休校中のラグビー部の活動を語る東海大大阪仰星高の湯浅大智監督
新型コロナによる休校中のラグビー部の活動を語る東海大大阪仰星高の湯浅大智監督

新型コロナウイルスの感染拡大の猛威は高校ラグビー界をも直撃する。3月25日から31日まで予定されていた第21回全国選抜大会が中止になった。

92回を誇る野球の選抜大会も3月11日、中止が決まった。戦争による中断以外では初めてとなる。柔道や相撲、ハンドボールなどの全国大会も同様である。

高校ラグビーは春の選抜、夏の7人制、そして、大阪・花園ラグビー場で開かれる冬の全国が3大大会である。そのひとつがなくなった。選抜は東日本大震災があった2011年に続いて2回目の中止になる。

「ラグビーはスクラムやモールなどで体を密着させます。濃厚接触がプレーの中で長い。しかも人数は15対15と多いです。勝ち上がったところで『コロナが出ました』となったらいったい誰が責任を取るのか。そういう意味で、悩まれた上で中止にした大会事務局の判断はすごいと思います」

東海大大阪仰星の監督・湯浅大智は大会運営の軸になる高体連ラグビー専門部の判断に理解を示す。仰星は冬の全国大会優勝5回と歴代5位の記録を持ち、湯浅はそのすべてに選手、コーチ、監督として関わった。この1月に始動した新チームは近畿王者になり、選抜大会の優勝候補のひとつに推されていた。

2府4県から16校が出場した今年2月の71回近畿大会では、決勝で京都成章を26-22で下した。2か月前の99回全国大会では8強戦で準優勝する御所実に0-14で敗れていた。その復調をアピールする全国舞台がなくなる。

「自分たちでコントロールできないことに目を向けてもしょうがありません」

学校は3月4日~15日まで休校の措置が取られる。当然ながら部活動も停止。卒業式は7日にクラスごとに行われた。クラスター感染の可能性を排除するため、全体での式典は行われなかった。14日には休校の延長が決まった。

「理由はどうあれ、お別れを丁寧にできない、ということは教え子に対して、申し訳ない思いでいっぱいです」

湯浅は38歳。保健・体育の教員でもある。その状況下でも、チームの力を落とさない努力は続けられている。

「僕たちはできることをやるだけです」

この状況で活躍するのは全校生が入学時に購入するタブレット端末だ。現在行われている国際リーグ・スーパーラグビーなどから題材を探す。映像を局面ごとに分割し、そこに分析やコメントを入れる。その上で76人の部員(新3年生26人、新2年生40人)に一斉送信する。

「ラグビーにはティーチングとコーチンングがあります。コーチングができないのであれば、ティーチングの時間を増やせばいい」

湯浅はグラウンドを使う練習での指導をコーチングとして、ミーテングなどによる座学的な教えをティーチングと使い分ける。今できることを施し、ラグビーにおける偏差値を上げるようにつとめている。

さらに部員には週単位のトレーニングにおける計画表を端末で出させる。それを見た上で助言を与える。

「仮にその計画通りにやらなくても、僕も含めて誰にもバレません。でも、それをきちっとやったかやってないかは、今度会った時に見ればわかります」

休校を逆手にとって個人の自主性を磨いていく。サボれば、再集合の時に体の大きさやプレーがマイナスになり、トップの15人には入れない。湯浅はそのことを分かっている。

「休校中は洗濯や掃除も手伝うように言っています。日々の感謝を行動で伝えてほしい」

3月9日~14日の6日の間に最低1回は、自分で夕食のメニューを考え、作ることも義務付けた。メニューはごはんとメインのおかずと副菜と汁もの。それを写真に撮って、端末で送ってもらい、チェックする。

「夕食にしたのは多くの家庭では一家団欒の時間だからです。自炊のクセがついていけば、実家を離れて大学に行ったり、社会人になった時も役に立ちますから」

部員たちには読書もすすめている。ノンフィクション好きの湯浅が今読んでいるのは小説『甘夏とオリオン』(増山実/KADOKAWA)。湯浅が生まれ育った大阪の原風景が数多く現れる。今年のチームスローガンは「タフ・チョイス&オールウエイズ・シンキング」。本を読むことはその一助になる。

「集まれないからこそ、仲間がいてくれて、ラグビーをできる日常に感謝をしないといけません。ラグビーができることは当たり前ではありません」

チームとして楕円球を追いかけられる幸せに気づいてくれれば、これからの個人の取り組みも変わってくる。

「この時期の過ごし方が冬の全国大会での差につながると思っています」

WHO(世界保健機関)による新型コロナウイルスによるパンデミック(広範囲に及ぶ流行病)が発令された今、先行きは見えない。その中で、仰星の部員たちは許される行動をとりながら、6回目となる高校ラグビー界の頂点を目指す。

2016年1月、全国制覇した時の写真。どんな環境にいても、この瞬間の喜びの為に、頑張っている
2016年1月、全国制覇した時の写真。どんな環境にいても、この瞬間の喜びの為に、頑張っている
  • 取材・写真・文鎮勝也

    (しずめかつや)1966年(昭和41)年生まれ。大阪府吹田市出身。スポーツライター。大阪府立摂津高校、立命館大学産業社会学部を卒業。デイリースポーツ、スポーツニッポン新聞社で整理、取材記者を経験する。スポーツ紙記者時代は主にアマ、プロ野球とラグビーを担当

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