コロナによって外国人が消えた…ルポ「新観光地」山谷のいま

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簡易宿泊所の入り口。窓口には番頭が待機している

新型コロナウイルスの感染拡大が、東京・山谷の下町にまで影響を及ぼしている。

浅草雷門から北に約2キロ、泪橋交差点を中心とする広さ約1.65キロ平方メートルのこの地域には現在、簡易宿泊所約130軒がひしめくように建っている。1部屋の広さは3畳、トイレ、シャワーは共同で、1泊2〜3千円が相場だ。

「富田」「一国屋」「ほていや」・・・・・・。

往時を偲ばせる屋号の数々。そんな簡易宿泊所に暮らす約5千人の9割が、高齢の生活保護受給者たちである。バブル崩壊を機に、かつての「日雇い労働者の街」は「福祉の街」と呼ばれるようになった。

昔ながらの屋号を掲げる山谷の簡易宿泊所

一方で、2002年の日韓ワールドカップをきっかけに、この地に外国人観光客の姿が目立ち始めた。一部の簡易宿泊所が外国語でホームページを開設したところ、外国人が殺到したのだ。最近ではモダンな造りのホテルもお目見えし、外国人が泊まれる宿泊所は全体の2割ほどまで増えた。

そうして今年夏の東京オリンピック開催に向け、外国人のさらなる誘致へと機運が高まっていた。しかし、新型コロナウイルスの感染者が増え続け、小中学校の臨時休校が決まった2月下旬ごろから、その様子が一変する。彼らの姿が街から消えてしまったのだ。

宿泊客の6割が外国人というカンガルーホテルの経営者、小菅文雄さん(54)が、コロナショックにため息をつく。

「2月の最終週から外国人の宿泊客が激減しました。普段の4分の1の稼働率です。4月分の予約もキャンセルが相次いでいます」

同ホテルはコンクリート打ちっ放しで、カフェのような洒落た内装が人気を集め、山谷に外国人を呼び込む牽引役を果たしてきた。ここ最近は中国、韓国、タイなどのアジア出身者が多くを占めるが、欧米の観光客も少なくない。小菅さんは、宿泊客を取り戻そうと、1泊3600円の料金を3割引にしたが、効果は上がっていないという。

モダンな外装のカンガルーホテルは、この地域では一番目立っている

「安心して泊まって頂くため、衛生面にも気を配り、ドアノブや鍵のアルコール消毒を行っていますが、正直なすすべがありません。あまり悲観的にはなりたくありませんが、現実を受け止めるしかありませんね。ただ、今の状況がずっと続くと・・・・・・」

外国人をターゲットにしている別の複数の簡易宿泊所も、同じように閑古鳥が鳴いている。一方で、生活保護受給者を対象にしている簡易宿泊所は「全く影響を受けていない」と声を揃え、山谷の旅館業界で明暗が分かれている。

3月上旬に街を数日かけて歩いたが、外国人の姿はほとんど目にしなくなった。入国規制がかかった中韓をはじめ、アジア人はまず見掛けない。そんな中、ブロンドヘアの若いイケメンに道端で遭遇した。カナダ出身のコヌール・ドブスさん(22)。

聞けばカンガルーホテルに1週間滞在していたという。香港で英語教師として働くことが決まっていたが、コロナの影響で語学学校が閉校になったため、渡航先の香港から急きょ帰国することに。その途次、大都会の東京を見てみたいと、日本へ立ち寄ったという。

「この地域に泊まることにしたのは、日本の一般庶民がどんな生活をしているのか、この目で見たかったからなんだ。コロナの影響は気にはなるが、メディアは人々の恐怖心を煽りすぎていると思う。話が大きくなりすぎているのではないか」

筆者のインタビューに答えるドブスさん

ドブスさんは平然とそう語った。この日の夜に羽田空港を発ち、トロントに戻るという。実はこの取材の直後、カナダのトルドー首相夫人がコロナに感染したとの報道がネット上を駆け巡った。ニュースを知ったドブスさんは、考え直しただろうか。

こうして1人、また1人と山谷から外国人が消えていく。感染が沈静化するまで、この状況は続くだろう。外国人観光客の存在が当たり前だった山谷の町並みが、かつての姿に戻りつつある。コロナは新たな生き方を見つけた町の活気をも奪っていくのだ。

(ノンフィクションライター・水谷竹秀)

  • 取材・文/水谷竹秀写真・水谷竹秀

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