最終回『恋つづ』佐藤健に魅了された3ヵ月「視聴率の裏側」
冬ドラマは今週で大半が最終回を迎える。
その中で視聴率がどこまで上がるか、最も期待されているのが『恋はつづくよどこまでも』(TBS系 上白石萌音×佐藤健)だ。
若い俳優がピュアな愛情を熱演するラブストーリーだが、データからは視聴者が途中で脱落しない“魅了する力”がみてとれる。
他のドラマと何が違っていたのか、分析してみた。
終盤に連騰したドラマ
今クールは終盤に視聴率が連騰したドラマが多い。
既に最終回を迎えたものでは、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(日本テレビ系 天海祐希主演)が5話以降5連騰し、最終回は11.6%まで上げた。
『知らなくていいコト』(日本テレビ系 吉高由里子主演)は、6話以降4連騰で、最後は10.6%だった。
最終回直前では、『テセウスの船』(TBS系 竹内涼真主演)が4話から8話まで4連騰し、15.3%と冬ドラマ最高値を出したが、9話で少し数字を下げてしまった。
そして『恋つづ』は、5話から9話まで4連騰し、最終回を残し14.7%と高値を記録している。
しかも他3ドラマの上昇率は、上がり始めた起点となる回から数えて、それぞれ27.5%・26.2%・39.1%だったが、『恋つづ』は53.1%と勢いが違う。
連騰の末に『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系 新垣結衣主演・16年秋)は、最終回の視聴率は20%を超えた。ところが『恋つづ』は、そのペースをも凌駕している。
どんな有終の美を飾るのか、期待される所以だ。
魅了する力
では、これら4ドラマの上昇率の違いはどこから来るのか。
インターネット接続テレビ(関東地区約60万台)の視聴ログを収集するインテージ「Media gauge」のデータによれば、これまでの放送での平均流出率は、『恋つづ』が最も少ない。つまり番組の途中で、脱落する(視聴をやめる)人が一番少ないドラマだったのである。
まず流出が突然跳ね上がる瞬間は、CMの放送時間。これを除外して1分流出率の動向を見ると、まず序盤10分間の流出率が高い。タイトル・出演者などに惹かれて見始めたが、自分には合わないと脱落する人が多いからだ。
10分以降ラストまでで見ると、『知らなくていいコト』の流出率が最も高い。
民放キー局のドラマプロデューサーは、ストーリードラマとしては焦点が複数となり、視聴者の関心が散漫になったのが原因という。
「初回に母親が“キアヌ・リーブスの娘”と言い残したことを横軸にしたかったのでしょうが、謎をふるだけで、視聴者の興味は途中まで“週刊誌のスクープ現場”方でした。しかも中盤から、恋愛の度合いがかなり多くなりました。当初は1話完結のシチュエーションドラマでしたが、縦軸とストーリードラマの横軸のバランス、視聴者の興味を導くさじ加減がちょっと違っていたと思います」
一方『トップナイフ』は、『テセウスの船』と並び、流出率はかなり低く推移した。見た人は十分納得していたと考えられる。
天才外科医たちの物語だが、扱うのは人類にとって最後の未知なる領域の脳。
天才という意味では『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系 米倉涼子主演)と似ている。ただしズバズバ切れ味は鋭くはなく、それぞれ人間としての欠点や苦悩を抱える物語だ。
知的好奇心と人間への興味をかき立てる作品だが、如何せん今クールは医療ドラマが多過ぎた。
結果として“新鮮味やインパクトに欠ける”と視聴者には見られてしまったようだ。5話以降5連騰と安定していたが、上昇率27.5%・最終回視聴率11.6%は、やや期待外れだったと言わざるを得ない。
進化した『恋つづ』
一方『恋つづ』は、本格的恋愛ドラマで、当初は数字が獲れないと予想した人が多かった。
ところが後半は4連騰で上昇率53.1%と、今期の最高値をマークしている。
医療ドラマが乱立する中、実際は“デレキュン”シーンが毎回登場し、若年を層中心に視聴者のハートを鷲づかみにしたようだ。
流出率データからは、こんな特徴が浮かび上がった。
当初の期待が高くなかったことと呼応するように、シリーズ序盤では『知らなくていいコト』より脱落者が多かった。個人視聴率でも男性視聴者は、明らかに『恋つづ』が負けていた。
ところが中盤から終盤になるに従って、流出率は目に見えて下がって行く。
世帯視聴率が上がっているので、新たな視聴者は増えている。それでも途中脱落者が減っているとは、見た人を“魅了する力”が如何に高まっていたかがわかる。
女性10代の視聴者は、序盤より終盤で2倍に増えている。
女性20~40代も、1.5倍に増えた。“頭ポンポン”“治療キス”“寝たふりキス”“バックハグ”など、毎回飛び出す【デレキュン】シーンが、女性視聴者を釘付けにしたのは間違いないようだ。
さらにM1(男性20~34歳)も、2倍以上に増えていた。
魔王(佐藤健)にまっすぐアタックし続けた勇者(上白石萌音)の魅力も、視聴率急上昇に大いに貢献したようだ。
しかも同ドラマは、単純なラブストーリーではなかった。
随所に“はずし”で笑いを誘いつつ、絶妙な紆余曲折で盛り上がって行く構成が光った。筆者の娘(高校生)も、毎話ごと何度も大爆笑を繰り返していた。若年女子に受けるツボを、見事に体現していたのである。
序盤で魔王は、「今後、お前と俺がどうこうなる可能性は0.0001%もない」と言い放った。
ところが終盤では、「勝手にいなくなるな」「俺がどんだけ我慢してると思ってるんだ…今夜は眠れると思うなよ…」と、二人の立場はすっかり逆転してしまった。
ストーリードラマとして、明快なゴールに向かって見事な展開を見せて来たように見える『恋つづ』。
果たして最終回は、どう視聴者の期待を裏切った上で、納得させるのか。
盛り上がりを楽しみにしたい。
文:鈴木祐司
(すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。