『スカーレット』の結末 本当に見せたいのは長男の死ではない? | FRIDAYデジタル

『スカーレット』の結末 本当に見せたいのは長男の死ではない?

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終盤になり、川原喜美子(戸田恵梨香)と武志(伊藤健太郎)のW主人公の様相を呈しているが…/写真 アフロ
終盤になり、川原喜美子(戸田恵梨香)と武志(伊藤健太郎)のW主人公の様相を呈しているが…/写真 アフロ

クライマックス突入も重苦しい雰囲気が続く

朝ドラ『スカーレット』(NHK)が28日の最終話に向けていよいよ大詰め。3月に入ってからは主人公・川原喜美子(戸田恵梨香)の長男・武志(伊藤健太郎)が慢性骨髄性白血病を患う重苦しい物語が現在まで続いている。

喜美子の悲壮感あふれる姿は、窯焚きが失敗続きだったとき以上であり、ネット上にも「つらくて見ていられない」「何とか完治してほしい」などの悲痛な声が続出。本来、半年間放送される朝ドラの終盤は大団円に向かい、「主人公の幸せを視聴者が祝福する」という形が多いのだが、今作はなぜこれほど重苦しい物語が選ばれたのか。

現在、視聴者の焦点は「武志が生きるか死ぬか」に集約されつつあるが、『スカーレット』は喜美子の物語。残り数話になったからこそ、本当に見せたい結末は何なのか? 見えてきたものがある。

「不倫は不採用、難病は採用」の事実

まず挙げておきたいのは、当作を手がける脚本家・水橋文美江のコメント。

水橋は自身のインスタグラムに、

「(主人公が)陶芸家の道を歩きだしたことを表現するためには、どなたかの作品をお借りしなければなりません。あちこちから適当にというわけにもいきません。喜美子の作品はすべて陶芸家の神山清子先生からお借りすることになりました。喜美子の作品イコール神山清子先生の作品です。神山清子先生の最愛の息子さんは白血病と闘われたという経緯があります。お借りした作品ひとつひとつに、息子さんへの深い愛情とその時々の思い出、いとしい出来事が込められていることを知りました。それら大切な作品をお借りして喜美子の作品とうたっているからには、その思いに全く触れずにいることは同じ物作りの端くれとして敬意に欠けることではなかろうか。チーフ演出の中島さん、内田Pと十分に熟考を重ね、出来る限りの配慮を胸に、私は覚悟を決めました。第22週からは喜美子の人生の最終章『生きるということ』を描いていきます」

とつづっていた。

もちろんこの思いに嘘偽りはないだろうが、一方で「『スカーレット』は神山清子の作陶に影響を与えたであろう夫と弟子の不倫などを描かなかった」という事実もある。つまり、白血病のエピソードも採用しないという選択肢は十分ありえたし、代わりに女性陶芸家の先駆けならではの物語を挿入することはできたはずだ。

では、大団円に向かう明るいムードが好まれる朝ドラの終盤で、あえて白血病のエピソードを採用したのはなぜなのか?

前述したコメントの最後に「第22週からは喜美子の人生の最終章『生きるということ』を描いていきます」とあったように、人生の集大成を描くために白血病のエピソードを採用したのだろう。

最愛の息子が「残り3~5年の命」と言われる大病にかかったとき、喜美子はどんな言動をするのか? どう仕事と向き合っていくのか? 周囲とどのように関わりながら生きていくのか? 喜美子がこれまでの人生で培ってきたものを見せるフィナーレになるだろう。

朝ドラ『スカーレット』(NHK)の公式サイトより
朝ドラ『スカーレット』(NHK)の公式サイトより

孤独な喜美子のもとにかつての仲間が…

喜美子は骨髄移植のドナー探しに奔走するほか、検査を受けてくれた人々へのお礼や、治療費のために作品を売るなど、「わが子を絶対に死なせたくない」という思いで気丈に振る舞っている。

ただ喜美子はどんなに頑張っても傍観者の立場に過ぎず、病気の当事者にはなれない。視聴者は難病に侵された武志の一挙手一投足に注目し、3月の放送はこの長男が事実上の主人公となっている。それでも残り2週間の放送になり、当作の主人公が喜美子たるゆえんがジワジワと漂ってきたのだ。

17日放送の第140話で象徴的なシーンがあった。喜美子のもとに大阪時代の盟友で現在は市議会議員の庵堂ちや子(水野美紀)が訪れ、すでにドナー検査を受けたほか、周囲の人にも呼び掛けることを約束する。

喜美子が「どうやってお礼したらええか……」と恐縮すると、ちや子は「川原喜美子は母親であると同時に陶芸家や。今の思いを作品に込めたらええねん。いろんな方への思いを込めて作品を作ることで返していったらええんちゃう」と力強く語りかけた。このシーンのように残り数話で喜美子のもとへ駆けつけ、勇気づけるキャラクターが続出するのではないか。

すでに妹の直子(桜庭ななみ)と百合子(福田麻由子)、幼なじみの熊谷照子(大島優子)と大野信作(林遣都)、元夫の十代田八郎(松下洸平)らは駆けつけているが、その他にも大阪時代の仲間たちの登場が予告されている。

また、終了間際には「みんなの陶芸展」というイベントが行われることも明かされているため、信楽の人々はもちろん、ジョージ富士川(西川貴教)や草間宗一郎(佐藤隆太)らの再登場もありえるだろう。

これまで喜美子は、振り回され続けた父・川原常治(北村一輝)に死なれ、失意の日々を支えたパートナーの夫・八郎に家を出て行かれ、息子・武志も高校卒業後は家を出るなど、孤独な日々を送ってきた。

もともと「陶芸は孤独な仕事」と言われるが、喜美子の人生そのものにも孤独がつきまとい、さらに「もし武志を失ったら本当に一人きりになってしまう……」という最大の危機に仲間たちが集まってくるのではないか。

武志の生死にかかわらず希望ある結末に

これまで喜美子は、幼いころから川原家を支え、大阪では女中として懸命に働き、絵付け師としての修行を積み、陶芸家として執念で自然釉の信楽焼を成功させてきた。

そんな彼女の生き様に魅了された人々が、最大の危機を励ますべく集まってくる。それこそが『スカーレット』のフィナーレなのかもしれない。たとえ、武志が亡くなったとしても喜美子は孤独ではなく、周囲の人々とともに彼女らしく生きていく……そんな最終話が浮かんでくる。

武志の病気は悲しいことだが、闘病生活を経験したことで、母子そろって生きることの素晴らしさを実感するシーンが最終話までにあるだろう。逆算的に見ると、「生きることの素晴らしさを感じるための病気や死にすぎない」ということか。

戸田恵梨香はクランクアップ時のコメントで、「『スカーレット』は日常の小さな幸せがとてつもなく幸せなんだというテーマで描いていました」「『しあわせのかたち』っていうのは人それぞれ。喜美子が出すその答えを、楽しみに見てもらえたらいいなと思います」と語っていた。武志の生死にかかわらず希望の持てる結末が濃厚なだけに、最終話のラストシーンを楽しみに待ちたい。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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