コロナもどこ吹く風「立地最悪」でも行列のできる飲食店の秘密

営業時間は約4時間 客足が鈍らない千葉県郊外の店に行ってみた

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新型コロナウィルスの感染が止まらない3月15日、テーブル席が埋め尽くされたおばこ屋

新型コロナウィルスによる感染拡大は日本各地へ飛び火し、飲食店の休業や時短営業が続出しているが、街の中心地から遠く離れ、立地条件も劣悪といえる環境下で、気を吐いている繁盛店がある。「美味い」「病みつきになる」と評判の「行列のできる店」は、なぜ「商売繁盛」を続けられるのか。千葉県内で自ら古民家カフェを経営するフリージャーナリスト・佐藤修氏が2店を訪れ、その秘訣を探った。

Facebookのフォローワーは5000人超えるラーメン屋

一番人気の「特製ラーメン」(1110円)。スープを口に含むと、高知県産「黄金生姜」の芳醇な香りが口中に広がるパンチの利いた味だが、不思議と後味が優しい。

「全国各地のラーメンを食べ歩いていた時、新潟県長岡市の生姜醤油ラーメンに衝撃を受けました。スープを一口飲んで『これだ!』と思った」

首に巻いたタオルで汗をぬぐいながら、「波音(なみね)食堂」の店主・湯浅尚和さんは感慨深そうに振り返った。

お店へのアクセスは、千葉県館山市のJR館山駅から車で10分ほどだが、徒歩では20分かかる。「新型コロナウイルスの影響は全くないですね。今まで通りたくさんのお客さんに来ていただいています」という湯浅さんは2015年6月、妻の智子さんとともに、千葉県館山市で「波音食堂」を開店。営業畑一筋の会社員だったが、ラーメン好きが高じて智子さんの出身地、館山市で開業した。当初の軍資金は約200万円。心もとない資金で夢を形にするには、不便な立地の店舗を借りるしかなかった。湯浅さんが続ける。

「廃墟と言っていいほど傷んだ物件を、コツコツとDIY改修してオープンにこぎつけました。私には有名店での修業経験もなく、頼りになるのは、全国のラーメン店を食べ歩いた自分の舌だけでした。ただ、パンチの効いた生姜醤油ラーメンは、この地域ではオンリーワンですし、絶対に当たると確信していました」

試行錯誤を繰り返しながらスープを開発し、個性的な生姜醤油ラーメンを作り上げた。出来上がったオンリーワンな味わいは、「一口目で衝撃が走る」「またすぐに食べたくなる」と評判になった。週末には、1100円する「特製ラーメン」が1日あたり100―120杯も消費されるという。

JR館山駅より徒歩20分かかる「波音食堂」。満席のため、外で待っているお客さんたち

しかし、波音食堂が繁盛する理由はほかにもある。アイスクリームから通信まで数多くの業界で営業マンとして鍛えられてきた湯浅さんの的確な「SNS戦略」だ。店舗づくりに取り掛かった2015年から、Facebookで内外装工事の進捗状況を「今日のお店造り」と題したレポートで友人知人が発信。Facebookを見た人が、店づくりに参加しているように感じさせる内容が、フォロワーの共感を呼んだようだ。開店前の段階で「いいね!」の数は1200を超え、開業後もこまめな情報発信を続け、フォロワーはすでに5000人を超えている。今では国内にとどまらず、アジアや欧米からも観光客が訪れる。湯浅さんが続ける。

「館山市という限られたマーケットで、お客様の奪い合いをしても仕方がない。SNSを活用して遠方の方にもアプローチし、この地域全体を盛り上げようと考えました」

さらに、店の「顔」になるオリジナルロゴを作ったこともPRを底上げした。湯浅さん夫婦はサーファーだったため、「波」をあしらったロゴを製作。ステッカーやTシャツ、トートバッグなどの販売を試み、軒並み完売。「NO GINGER NO LIFE(生姜がなければ人生ではない)」と記された文言が、クスッと笑えるポイントにもなった。生姜醤油ラーメンを食べ、グッズを購入してくれるディープなファンを「ジンジャラ―」と呼び、リピーターが入店する際には、「いらっしゃいませ」ではなく「おかえりなさい!」と迎える。それほどお客のことを深く思い、ファミリーとして迎え入れる演出によって、確実にファンを増やした。

トートバックを持つ湯浅尚和さんとステッカーを持つ妻・智子さん(左)

◆生姜醤油ラーメン「波音食堂」

所在地:千葉県館山市上真倉1584 TEL:非公開

営業時間:午前11時―午後2時半(材料が無くなり次第終了)

定休日:月、火

著名政治家や著名な芸能人も訪れるもつ料理店

大量のタマネギがしんなりとしてくると食べごろ。モツの歯ごたえを楽しみつつ、トロトロのタマネギとスープを絡めて口に運ぶとすき焼きのような上品さに驚く

「新型コロナウィルスの影響?うーん、店は相変わらずてんてこ舞いの忙しさです。もつ鍋のテイクアウトが伸びているのは、もしかしたらそのせいかな」

そう話すのは、千葉県横芝光町のもつ料理店「おばこや」の田中修さんだ。同店は、千葉市の中心部から車で1時間ほどの幹線道路沿いにあり、同じ県内の千葉駅から最寄りの駅・JR横芝駅まで総武本線で58分。これといった商店もみあたらない閑散とした風景の中に、忽然と現れる感じだ。1975年4月、当地で修さんの祖父と父親が開業し、今年で創業45年。修さんは22歳の頃、脱サラして店に入り、今は、兄で社長の智さんらと、家族経営で切り盛りしている。

横芝光町は養豚業が盛んで、新鮮なモツが安価に入手できる。当初は、塩味の「カシラ」、タレ味の「シロ」など、5種類のモツ焼きを1本20円で提供し、人気店となった。開業約2年後、濃口醤油と合わせ味噌などで作り上げたモツ鍋をメニューに加えた。薬味はタマネギのみ。韓国産唐辛子を使用した自家製豆板醤でアクセントをつけると「美味い!」「クセになる」と常連客のハートをつかんだ。現在は1日平均で約15頭分のモツ(約100㎏)を消費し、店内販売で1日約70食、テイクアウト販売で約130食が売れる。週末は、開店15分ほどで約70席の店内が満席になり、予約しないと入店できない日もあるという。

「祖父と父が開業した後は、アナログではあるけれど、コツコツと地道なサービスに努め、地元の皆様に愛されてきました。私がSNSなどのネット対策をスタートさせてから、マスメディアに取り上げられる機会もあり、認知度も上がったみたいです。親から子、子から孫へとバトンが繋がったことで、50年近くも営業を続けることができているのだと思います」

最寄りのJR横芝駅から1.5km以上のところにある。千葉駅から横芝駅も約60分かかる
開店は午後3時。昼食でも夕食でもない時間帯だが、開店前は列ができる

創業3年後から「自宅でもおばこやの味を楽しんでもらいたい」と、テイクアウトのモツ鍋販売を開始。その後、修さんが店に入り、インターネットを利用した顧客のフォローとして、ホームページを立ち上げてチャット機能の活用で交流を深めた。さらに「Facebook」「Twitter」を連動させて情報発信し続けたところ、テイクアウトのもつ鍋販売も伸びた。新型コロナの影響で市街地では外出を控えて客足が一気に引く傾向がみられる中、15日には60代の主婦が「東京から里帰りした息子に食べさせたい」とテイクアウトで購入していた。顧客エリアも拡大し、遠くは関西や東北地方から訪ねてくる客もいる。修さんが続ける。

「営業時間中はてんてこ舞いしているので、焼酎の注文が入った際、ドンと一升瓶で出しちゃう。好きなだけ飲んでもらい、消費量に応じて精算するという『量り売り』で対応していたら、女性のお客さんが『インスタ映えする』と言って喜んで、一升瓶を抱えてスマホで撮影するようにな光景も見られるようになりました」

また、「0858」(おばこや)という数字で店名を記したオリジナルのロゴTシャツは2016年の販売以来、計100枚以上が売れた。しかし、ネット戦略やグッズ販売が好調でも、修さんは接客業の基本を忘れない。

「インターネット戦略は無視できないけれど、一番肝心なのは常連様を大事にすること。常連のお客様が連れてきてくださるご新規様がいて、そこから口コミで広がる形が最強の集客戦略。だから有料広告は一切使いません。お客様にとっては『安い、敷居が低い、美味い』の3要素がクリアされていると、その次に、『人に教えたい』という欲求に繋がるようです。常にその流れができるよう、お客様の記憶に残る店を心がけています」

今では、有名タレントやラジオ番組の人気男性DJ、そして著名政治家も「おばこや」のリピーターとなっている。

手前味噌になるが、千葉市の中心地から離れた住宅街で私が営む古民家カフェ「アオソラカフェ」も、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、かえってお客様が増加している。取材した2店には遠く及ばないもの、週末(土日)にしか望めなかった集客が平日にも及んでおり、新規のお客様も増えた。売り上げに換算すると、2倍近くなる手ごたえだ。

常に外食を余儀なくされる人たちが、新型コロナウイルス対策として多くの人が行き交う繁華街を避け、市街地から離れた個人営業の店舗を目指す傾向が生じているのではないか。お客様の声を聴くと、「食事を摂るなら、食べたいものを気に入った店で・・」という志向が強まっている。結局は、人と人のコミュニケーション能力が時代やアクシデントに左右されない骨太な店を作り上げ、勝敗を分けると感じている。

22歳で店に入った田中修さん。生まれる前から創業していた店を、家族経営で切り盛りする

 

◆もつ料理「おばこや」

所在地:千葉県横芝光町宮川4400-3 TEL:0479-84-1012

営業時間:午後3時―7時半(入店が7時半まで)

定休日:年中無休

  • 取材・文・撮影佐藤修

    1963年生まれ 産経新聞社では営業局や事業局を経て、取材記者に。千葉県警、千葉県政、千葉市政担当記者、サンケイスポーツ社会面担当記者として活躍。2012年10月からフリー。取材活動の傍ら、千葉市中央区で古民家カフェ「アオソラカフェ」を営む

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