192cmの落語家・林家木りん「大河の選考、落ちちゃいました」
『麒麟がくる』なのに、「木りんは来なかった」?

長谷川博己演じる明智光秀を主人公に描かれるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。裏番組に高視聴率を大幅更新中の『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)などがあるために、視聴率こそ16.5%(3月22日)と、さほどではないものの、久しぶりに戦国時代を舞台にしたドラマだけあって高評価を集めている。
例の事件で降板した沢尻エリカの代役の川口春奈をはじめ、本木雅弘、染谷将太、門脇麦、岡村隆史などキャスティングの斬新さも注目されている。さて、このドラマのタイトルにちゃっかりと便乗している若手落語家がいる。林家木りん(キリン)である。
「僕、『麒麟がくる』っていうんで行ってみたんですけど、残念ながら木りんは来なかったんですね」
開口一番、妙なことを言い出した。いったい何のこと?
「ははは。実は僕、『麒麟がくる』の俳優のオーディションを受けたんですよ。NHKに木りんは行ったんだけど、オファーが来ることはありませんでした(笑)」
なるほどそういうことか。そのオーディションには、過去の大河ドラマに出演していた俳優が数多く参加していたらしい。
「すごいんですよ、みんな。“’16年の『真田丸』で●●の役をやらせていただきました”なんて人ばっかし。そんな中で僕だけまったく役者の経験ゼロで、“落語家です。『麒麟がくる』に木りんが来ました!”なんて自己紹介したんだけど、“ダダ滑り”でした(笑)。そんな空気じゃないんですよ」
全員に台本が渡され、1時間ほどで覚えて演技をさせられたと言う。
「みんなうまいんですよ。“間”の使い方がね。僕、台本うろ覚えだったから、何か言おうとしたら言葉が詰まっちゃって。落語家って自分の間で喋るから、人の間で喋るのって難しいな、と思いました。でもいい勉強になりましたよ」
身長192cm、世界一背の高い落語家

林家木りんは、『笑点』(日本テレビ系)で“黄色い着物の木久ちゃん”でお馴染みの林家木久扇の8番目の弟子である。‘89年2月、東京都文京区に生まれ、浅草で育つ。
生まれがすごい。父は、秋田県出身で元大関の『清國』なのだ。大鵬や柏戸の時代の人気力士で、木りんが生まれた頃は、七代目伊勢ヶ濱親方として伊勢ヶ濱部屋を継承していた。
「そう。僕は相撲部屋で育ったんです」
浅草にある4階建てのビル。1階は広い土間になっており、土俵があった(現在もあり、時々使用される)。2階は部屋のお相撲さんたちが生活する大部屋で、家族は3、4階で寝起きしていたと言う。
現在では、父は引退し、実家の2階では7代目伊勢ヶ濱部屋親方夫人である母親が、1日1組限定の相撲茶屋を営んでいる。
彼の身長は192cmである。落語家は基本的に日本にしかいないので、自称“世界一背の高い落語家”である。あの大リーガーの大谷翔平が193cmだから、ほぼ同じ身長だといつも落語の『まくら』で言うらしい。
父親譲りの体格で「将来は関取に」と周囲から期待もされたのだが、父の友人だった林家木久扇に’09年に入門。前座修行を経て’13年に二ツ目昇進を果たした。
長身と爽やかな容貌で“イケメン若手落語家”の1人と称され、『笑点』の“若手大喜利”を始め、テレビ、ラジオで活躍。もちろん寄席や全国各地の落語会に出演している。得意な噺は、『動物園』『金明竹』『七段目』などの爆笑ネタだと言う。
彼は’18年、落語家修行と師匠・木久扇とのエピソードを綴った本『師匠! 人生に大切なことはみんな木久扇師匠が教えてくれた』(文藝春秋)を発表。
ひょんなことから木久扇一門に入門した経緯から、前座修行中の苦労話、相撲部屋で育った幼少時代など、落語界、相撲界の空気が感じられる一冊となっている。
「よく、落語家ってどんな生活してるんですか? なんて聞かれますが、この本を読めば、そのディテールがすごくよくわかります。落語家入門にもうってつけの本だと思いますよ」
競馬大好き。93.1倍を見事的中!
寄席、落語会と飛び回る木りんだが、落語の世界でも新型コロナの影響で、出演の場は減っているという。
「それでも、スーツ専門店でトークやったり、パチンコの人気台『花の慶次』のファン感謝デーイベントで落語やったり忙しくしてますよ」
そんな木りんは、競馬好きとしても知られている。
「僕、小学校の頃から『ウィニングポスト』というゲームが大好きで、大人になって馬券を買うようになってからますます競馬が好きになりました。昨年の日本ダービー、獲りましたよ。ロジャーバローズ、93.1倍単勝で。めっちゃ嬉しかった。
その日、僕は相撲を観に行ってたんです。トランプ大統領が来る日だったんだけど、一番前の升席で、一人でラジオ聞いていて飛びあがりましたよ。でもその馬、怪我ですぐ引退になっちゃったんですけどね」

競馬好きということもあり、最近ではJRAから仕事をもらうこともある。
「こないだは、ジャパンカップの前日、元女性騎手の細江純子さんと競馬新聞の方と僕とで予想をしました。今度の4月5日に行われるウインズ浅草の70周年記念『浅草特別』というレースでも予想しますよ」
YouTuberデビューで収入を引退馬支援に
彼は、これから始めようとしていることがあると言う。
「競走馬って引退したら、強い馬こそ種馬として繁殖に回されたりするんだけど、弱い馬というのはよっぽど気性のいい馬以外は、殺されちゃう運命を辿るんですよ。それでね。僕の主宰する落語会に募金箱を置いているんですよ。募金で殺処分される馬を救うために。
今度、YouTubeも始めようと思っています。主に僕のことをやるんだけど、そこでも馬のこともやろうと思っているんですね。もし収益が出るようになったら、引退馬支援に回して行こうと思っているんですね。たった3000円でも馬の餌代になる。それでもいいじゃないですか」
どんなYouTubeになるのだろう。
「よく聞かれることに“落語家さんってどうやって落語覚えるんですか?”というのがある。すごい聞かれる。それって説明するのが面倒くさい。ちゃんと説明すると結構複雑になっちゃうんですよ。
そこで、『落語覚えてみた』というタイトルで動画を作っちゃおうと。その演目を得意とする師匠にお稽古をお願いするところから始まって、ちゃんとお土産を持って行くことなんかもね。
それで、稽古つけてもらって、ノートにその噺を書き起こして、覚えて、一度見てもらって、『上がる(落語として完成していると認められること)』までの一連の流れをYouTubeの動画として出そうかなと思っているんです。
あとJRAは『馬券の買い方』ってちゃんと解説してないんですね。詳しくない。競馬を見る人って買うのが当然だからなんでしょうね。初心者に対するサービスがない。競馬人口を増やすためにも、そういうのもあってもいいな、と思ってます」

毎年2か月に1度、独演会を開く。
「これまでは、明治神宮外苑の絵画館でやっていたんですが、今年はオリンピックの影響で使えないから、江戸東京博物館でやります。毎回、ゲストがすごいんですよ。ミュージシャンのIZAMさん、Mr.マリックさん、占い師の星ひとみさんとか。次はまだ決まっていないんですけどね」
次の独演会は、5月31日に開催される予定である。もしかしたら、『木りんがくる!』のはこれからかもしれない。
木りんが開始したYouTubeチャンネル『キリんチャンネル〜ときどき立川かしめ〜』はコチラ
取材・文:小泉カツミ