独占告白 仏移籍のラグビー代表・松島が明かす「心のパートナー」

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日本開催のW杯で活躍した松島幸太朗。2023年W杯を見据えてフランスに渡る

ラグビー日本代表の松島幸太朗は今夏、2023年のワールドカップ(W杯)の開催地でもあるフランスへ渡る。ASMクレルモン・オーヴェルニュと2年契約を交わし、約10か月の間でレギュラーシーズン26試合、プレーオフ最長3試合という長丁場のプロリーグ、トップ14に参加する。過密スケジュールへの対応方法や達成したい夢、自分の足元を見失わない作法について単独取材で語った。

2月26日に27歳になった松島幸太朗は、これまでW杯へ2大会連続で出場中。日本のサンウルブズ、オーストラリアのレベルズなどの一員として南半球主体のスーパーラグビーという国際リーグにも挑んできた。身長178センチ、体重88キロの身体で、リズミカルかつ力強い走りを繰り出す。

昨秋のW杯日本大会で5トライを挙げてからは、新しいステージを経験したいと考えた。ターゲットを北半球諸国に絞り、数あるオファーとのマッチングにおいては「キックじゃなくてパスが多い、自分に合ったチームがあるのであればチャレンジしてみたい」と自らのプレースタイルに合うかどうかを重視した。

かくして掴んだのが、次回のW杯の開催地でのチャンスだった。2年契約を結んだASMクレルモン・オーヴェルニュは、フランスのトップ14と呼ばれるプロリーグの名門だ。現所属先のサントリーで練習していたある日、松島はこう明かした。

「環境が変わる年にもなる。(フランスに)行ってから準備するのではなく、いまからできる準備はしっかりする。特にサントリーが終わってからはそう(意識)して、うまくスタートダッシュが切れるようにしたいです」

いまできる「準備」のひとつには、過密スケジュールへの対応が挙げられよう。

トップ14は約10か月の間でレギュラーシーズン26試合、プレーオフ最長3試合がおこなわれる長丁場。さらにスーパーラグビーと違い、各国のテストマッチ(代表戦)期間中にも公式戦がある。

加えて松島が初出場した2015年のW杯イングランド大会後、テストマッチとスーパーラグビーと国内トップリーグで出ずっぱりだった一部選手が勤続疲労によりパフォーマンスを落としている。

これらの事象や経緯を踏まえているから、松島は2023年までのセルフコントロールを念頭に置く。

サントリーの同僚でトップ14のトゥーロンにもいたマット・ギタウからは、現地の過ごし方などについて助言を得る。今後いかに日本代表と関わるかについても、指揮官のジェイミー・ジョセフらと綿密に話し合うようだ。いくつかの問答を介し、このように説明した。

「代表に入りたての時だと『うまくならなきゃ』という思いが自然に出てくる。そこがオーバーワークに繋がったり、メンタルに影響したりする。言い方は悪いですが、僕自身は前回のW杯(イングランド大会後の過ごし方)を踏まえどこで(力を)抜き、どこで意識してやるかというオンオフの使い方を学んだ。(今後の代表活動については)ジェイミーと話したりしている。となってくると思う。

やりたい気持ちはあると伝えましたし、(最終的には)僕が年間の試合数とかで決めて…となると思います。ヨーロッパではトップリーグ(2020年シーズンが予定通り実施されれば最大で17試合)の倍近く試合をやるので、そこがキーポイントになると思います」

2020年以降の代表活動に向けて現場責任者との対話が許されるのは、これまで結果を残してきたからと言えよう。

ボールを追う松島(左から3人目)にとって、マット・ギタウ(同2人目)は良き相談相手

W杯日本大会で存在をアピールした松島は、ファッション誌の表紙を飾るなどして全国区の知名度も獲得。サントリーの練習場に多くのファンを集めるだけでなく、なじみの飲食店でも握手やサインを求められるなど立場を激変させた。

しかし当の本人は「天狗にならないように、謙虚にやりたい」と宣言する。かねて地に足の着いた選手として知られているとあって、指導者や国民の視線が変わるなかでも自分を変えたくない。

そのために講じた対策は、お目付け役の設置だった。

昨秋のうちに、松島は惜しくも大会出場を逃した元代表の浅原拓真と食事をしている。過去の代表ツアーの合宿で同部屋となるなど、2人は仲が良かったのだ。5学年上ながら気兼ねなく話し合える浅原に、松島はこう告げたのだった。

「バズ、もし俺が天狗になっていたら教えて」

映画『トイ・ストーリー』に出てくる「バズ・ライトイヤー」に似ているために「バズ」と呼ばれる浅原は、迷いなく「もし天狗になったら引っぱたいてやるから、大丈夫だ!」と応じた。

この人は別の場所でも、「あいつはずっと変わらない。だって、昔から態度でかいじゃないですか! それが、あいつのいいところなんです」と語る。松島が他者に流されない選手であることを、実感を込めて伝えている。

とにかく、松島は自分を過信しない。だからこそ「天狗にならない」ための客観的視点を確保すべく、本音の言い合える先輩選手を頼ったのだ。

思えば昨秋の日本代表にも、目付け役の力を借りて結果を出した側面がある。

指揮官のジョセフは、W杯日本大会のアイルランド代表戦を前に親交の深い藤井雄一郎強化委員長へ相談。直近の初戦で本調子ではなかったリーチ マイケルを先発から外すかどうかで迷っていたが、最後は藤井の「それくらいで壊れるほどやわなチームじゃない」「勝つためにはどうしたらいい? それにはマフィ(リーチに代わって先発させたアマナキ・レレイ・マフィ)だろう」との言葉もあってリーチを控えに回した。

当日、尻に火のついたリーチは前半途中から登場して好タックルを連発。19―12での歴史的勝利を掴んだのである。

そして、その試合にも出ていた松島もまた、自身の歩みを止めないために周りの力を借りる。言いにくいことを言ってくれる人を大事にする。

いまのところ一時停止中のトップリーグが再開されれば、以前と変わらないかそれ以上の走りを披露するだろう。文句なしの活躍を置き土産にして、新しい国に旅立つ。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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