観光客激減の大阪 キタ・ミナミで明暗がくっきり分かれた理由 | FRIDAYデジタル

観光客激減の大阪 キタ・ミナミで明暗がくっきり分かれた理由

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訪日客に人気だった大阪の今。地元の旅行ジャーナリストが現地レポ 

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界各国および日本への入国制限がかかる中、ここ数年、インバウンド(訪日)客がとても多かった大阪では、場所によって人の流れに異変が起きている。 

大阪は、観光庁が発表した2018年度の「訪日外国人消費動向調査」での地域調査結果(10-12月期)で、東京や千葉、京都などを抑えて訪問率1位となるなど、どの調査においても近年、上位にランクインされていた場所だ。 

大阪・道頓堀の戎橋。グリコの看板を背景に写真を撮る外国人観光客で賑わっていた人気のスポットが閑散としている
大阪・道頓堀の戎橋。グリコの看板を背景に写真を撮る外国人観光客で賑わっていた人気のスポットが閑散としている

梅田で知られる「キタ」は昼夜ともに以前とそれほど混み具合が変わらないようだが、道頓堀や心斎橋などがある「ミナミ」は目に見えて人の数が減っている。大阪における海外からの玄関口だった関西国際空港では発着便の大半が欠航し、ホテルの価格も下落して休業するところも出始めた。

大阪に生まれ、今も大阪を拠点とする旅行ジャーナリストが、大阪での最新の状況、なぜ地域で差が出たのかなどを現地よりお伝えする。

道頓堀が閑散、ミナミから外国人とともに人が消えた!

大阪でここ数年、中国人や韓国人をはじめ、欧米などからの訪日客にも特に人気が高かったエリアは、道頓堀や心斎橋、なんばなどがある「ミナミ」と呼ばれる場所。大阪らしい派手で大きなネオン、訪日客が“爆買い”するドラッグストアが乱立し、たこ焼きやお好み焼き、串カツなど大阪らしいグルメも味わえるエリアだ。

外国人観光客がとても多かった時期の大阪・道頓堀(2018年11月撮影)
外国人観光客がとても多かった時期の大阪・道頓堀(2018年11月撮影)
現在の道頓堀。歩いているのはマスクをした日本人(2020年3月撮影)
現在の道頓堀。歩いているのはマスクをした日本人(2020年3月撮影)

最盛期には、道頓堀にある戎橋の上は外国人観光客で埋まり、グリコの巨大看板と一緒に写真を撮る人が後を絶たず、周辺から聞こえてくる会話は中国語や韓国語が実に多かった。

地元に住む人々の間では「道頓堀はインバウンドで混んでいるから」という声も聞かれ、避けがちなエリアになったほどだ。2019年半ばごろから、韓国との関係がギクシャクし、韓国人が減ってきた後も中国人は変わらず、さらにタイやマレーシア、フィリピンからの訪日客が増え、相変わらず外国人が多い場所、という印象だった。

それが、新型コロナウイルスの流行とともに一転した。特に、政府が中国(香港、マカオ含む)や韓国などからの渡航に規制を設けて以降、ミナミの街を歩くのはほとんど日本人で、以前と比べるとまさに「閑散としている」状況だ。 

自粛ムードはどこに? キタは昼夜ともに今も人が多い

一方、JR大阪駅や阪急百貨店梅田本店、グランフロント大阪などがある「キタ」は、訪日客の激減し、政府がしばらくの間、不要不急の外出を控えるように伝えた後も、意外なほど人がいる。もちろん外国人ではなく、日本人が多い。ただ、百貨店やショッピングモールなどでは短縮営業は行われている。

JR大阪駅。平日の昼間にも多くの人々が終日行き交う。スーツケースを持つ人はほとんど見かけず、みどりの窓口も空いている
JR大阪駅。平日の昼間にも多くの人々が終日行き交う。スーツケースを持つ人はほとんど見かけず、みどりの窓口も空いている

例を挙げると、ランチ時は企業がテレワークを推進しているからか以前よりは入店しやすくなったものの、昼夜問わずいまだ行列ができる店舗なども見かける。筆者がよく行く「スターバックス」などは相変わらず、座席の確保に苦労する。ミナミであれば今ではすぐ座れるのと対照的だ。

キタとミナミで集客に大きな差がついた理由

大阪におけるキタとミナミ、それぞれの人出にどうしてこれだけ差がついたのだろうか。

ミナミはインバウンドで人気となる前、商店街は“シャッター通り”に近い状態となり、心斎橋のシンボル的存在だった百貨店「そごう」も2009年8月末で撤退した。しかしその後、中国や韓国などからの訪日客の人気を集めるようになり、空き店舗にはドラッグストアが次々とオープンし、中国語とハングルの表示がそこらじゅうで目につき、呼び込みの店員も中国語と韓国語。賑わいを取り戻した一方で、ドラッグストアばかり増えても、という地元民が行くのを避けるようになったエリアでもあった。

ミナミの商店街は近年、空き店舗に次々とインバウンドの客目当てのドラッグストアが開業。右に左にドラッグストア状態となっている
ミナミの商店街は近年、空き店舗に次々とインバウンドの客目当てのドラッグストアが開業。右に左にドラッグストア状態となっている

そして、キタはというと、2011年5月にルクア、2013年4月にグランフロント大阪、2015年4月にルクアイーレ、2019年11月にリンクス梅田などが新たに開業。さらに、阪急百貨店や阪神百貨店の梅田本店のリニューアルは、今も続く。

このエリアは「日本人がもともと多かった」のも、今回の新型コロナウイルスの影響がミナミと比べると少ないと見られる理由の1つ。大阪の百貨店といえば“うめだ阪急”が昔からブランドとして確固たる地位を築き、庶民派として阪神百貨店のデパ地下は人気が根強く、大丸梅田店も固定ファンを持つ。

JR大阪駅の北にあるヨドバシカメラマルチメディア梅田。2019年11月にはビルを増床してリンクス梅田が開業した
JR大阪駅の北にあるヨドバシカメラマルチメディア梅田。2019年11月にはビルを増床してリンクス梅田が開業した

関空では発着便の運休相次ぐ、中韓便は9割以上が欠航

大阪におけるインバウンドでの玄関口だった、関西国際空港。昨年10月末から今年3月末までの冬季ダイヤにおいて、中国便と韓国便が実に7割近くを占めていた。そして、政府が中国や韓国などからの入国制限を敷いた後、航空会社の運休や減便、機材の小型化などが相次いだ結果、同空港の公式サイトなどによると、国際線の大半が欠航しており、中国と韓国では9割以上の便が欠航となっている。

関西国際空港からの直通列車が発着する、南海難波駅。以前はスーツケースを持つ外国人が多かった週末もとても閑散としている
関西国際空港からの直通列車が発着する、南海難波駅。以前はスーツケースを持つ外国人が多かった週末もとても閑散としている
関西国際空港の発着便には欠航(CANCELLED)が並ぶ
関西国際空港の発着便には欠航(CANCELLED)が並ぶ

今後、その他欧米や東南アジアなどの便も、さらなる運休を発表する航空会社が多い。そのため、さらに発着数が減少することが見込まれる。南海難波駅ではつい先日まで大きなスーツケースを持つ中国人グループらがおなじみの光景だったのが、今は一切見かけない。関空行きの列車はとても空いている。

大手ホテルチェーンが1泊4000円台! 休業するホテルも

大阪におけるホテルの価格下落も激しい。特にミナミでは、訪日客に人気が高かった黒門市場近くを例に挙げると、「スーパーホテルなんば・日本橋」が4,000円、「相鉄グランドフレッサ大阪なんば」が4,411円など、GoogleMapでホテルを検索すると、大手ビジネスチェーンで4000~5000円という宿泊価格がよく目に付く。

報道によると、JR西日本は同社系列の「ホテルグランヴィア大阪」「ホテルグランヴィア京都」での3月前半の稼働率が約35%に落ち込んでいることを明らかに(2019年度の稼働率は8~9割) また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のオフィシャルホテル「ホテル ユニバーサル ポート ヴィータ」は3月19日から24日までの一時休館を発表した。USJは3月29日までの臨時休業を決めている。

大阪ミナミのホテルは価格下落が続く。ホテル稼働率も芳しくないと聞く(GoogleMapより)
大阪ミナミのホテルは価格下落が続く。ホテル稼働率も芳しくないと聞く(GoogleMapより)

一時期、大阪のホテルは宿泊価格が軒並み高騰し、出張時に予算内のホテル探しが大変だと苦労するビジネスパーソンも多かった。そのため、大阪ではさらなるインバウンド需要を見込んだホテル開業ラッシュが2020年以降も続き、今もホテル建設が続く。日本国内の出張も自粛傾向が見られる中、「これ以上ホテルを増やしてどうするのか」「2025年の大阪万博まで持たないのでは」と、地元の大阪でそんな声も聞かれる。

3月19日、日本政府観光局が発表した2月の訪日客数は前年同月比58.3%減の108万5100人だった。3月はより厳しい状況になるのは確実だ。日本各地の観光地からは、悲鳴に近い声も聞こえてくる。

大阪では、以前から日本人が多かったエリアは影響が少なく、一方、訪日客に頼っていたエリアは多大な影響を受けている、という結果がはっきり出た形となっている。事態の収束が見えない今、この傾向はしばらく続きそうだ。

■記事中の情報、データは2020年3月24日現在のものです。

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  • 文・写真Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。

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