五輪延期で高級マンション「晴海フラッグ」購入者が地獄を見る恐れ

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完成が迫る「HARUMI FRAG」 撮影:平行男

東京2020の「レガシー」となる予定が

新型コロナウイルスの感染拡大で、延期や中止の可能性が高まる東京オリンピック・パラリンピック。その動向次第で大きな影響を受けそうなのが、東京都中央区晴海に建設中の超大型開発「HARUMI FRAG(晴海フラッグ)だ。

「HARUMI FRAG」は、13万平方メートル超の広大な敷地に建設されている24棟のマンションおよび商業施設群。住宅の総戸数は5,632戸で、このうち4,145戸が分譲住宅となる。一部の住宅は選手村として活用された後、改装されて分譲マンションとして販売される計画だ。「オリンピックのレガシー」が売りのマンションである。

2019年7月から街区ごとに段階的な販売が始まっており、2020年6月以降には第2期および新街区第1期の販売が予定されている。

ところが引き渡しは早くても2023年の3月で、タワー棟に至っては2024年9月下旬となる予定。つまり、契約してから入居まで4年もかかるケースがあるということだ。

近隣の築浅タワーマンションが3DK70m2で7,500万円を超える物件も多い中、「HARUMI FRAG」は、3LDK・72m2で5,700万円台からという「お得感」もセールスポイントとなって、第1期のセールスは堅調に推移していた。

不動産関係者も注目するこの巨大プロジェクトが、オリンピックの延期または中止によって、どうなってしまうのか。不動産事業プロデューサーでオラガ総研の牧野知弘氏に話を聞いた。

何らかの補償が得られる可能性は低い

「仮に東京五輪延期なら、すでに販売した分の引き渡しは、1、2年伸びるわけです。子どもの就学などのライフイベントを見据えて購入を決めた人にとっては、プランが大きく狂うことになります。しかし延期になったからといって、デベロッパー(以下、デベ)から損害賠償金の支払いなどが行われるかというと、難しいところでしょう」

一般的な売買契約書には、地震など天災を原因とする引き渡し延期について、デベ側は責任を追わないと明記されている。今回のケースも「天災」に該当するなら、引き渡しが1、2年延期されたとしても、デベ側の過失とはいえない。

たとえば7,000万円の部屋なら、購入者が契約時に支払ったであろう手付金は700万円から1,400万円。手付金を放棄して契約解除する選択はさすがにないので、購入者は引き渡しを待つしかない。つまり、多額の資金を4、5年もの間預けたままにすることになる。

金利上昇リスクも心配だ。住宅ローンの金利は通常、引き渡しの時点のものが適用される。史上最低水準にある現在の状況を考えると、4、5年後には金利が大幅に上昇する可能性もある。購入者にとって、不安が拭えない数年間となるだろう。

「デベが一社単独で財務に余裕があるなら、ペナルティなしで契約解除してもいいと購入者に提案することもあるでしょう。私が責任者ならそうしますね。でも今回は、難しいかもしれません」

と牧野氏。なぜなら今回は、売り主として10社(三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産、住友商事、東急不動産、東京建物、NTT都市開発、日鉄興和不動産、大和ハウス工業)が名を連ねているからだ。この全社の同意を取るのは容易ではないだろう。

完成が迫る「HARUMI FRAG」 撮影:平行男

「中止」になればブランド価値が下がる?

一方、オリンピックが延期ではなく中止になった場合はどうか。この場合は、スケジュール通りに引き渡しとなるので、購入者はむしろホッとするかもしれない。しかし、当初から展開してきた「オリンピックのレガシー」というブランディングがまったく意味をなさなくなるばかりか、物件自体のイメージダウンも懸念される。

それでなくとも、新型コロナを発端に世界的な景気後退が危惧されるような状況だ。現在行われている販売活動に影響が出ることは必至だ。しかし、たとえ販売が不調になったとしても、すでに購入した人のことを配慮すると、値下げして早期に売りさばくという判断はしづらい。

購入者や検討中の人にとってさまざまな不安がつきまとう物件だが、デベ側にとっても「行くも地獄、戻るも地獄」だ。経営陣は頭を抱えているに違いない。

「そもそもこの物件は、眺望の良さや坪単価の低さなどの魅力はあるものの、交通の便に問題があります。最寄り駅は都営大江戸線「勝どき」駅ですが、一番近いSEA VILLAGEのE棟でも徒歩16分、一番遠いSUN VILLAGEのA棟だと徒歩21分です。また供給戸数が多すぎるため将来の価格下落リスクもあります」

と牧野氏は語る。

世界経済に暗雲が立ちこめている昨今、購入を検討している人は慎重に考えるべきだろう。

◆牧野知弘(まきの ともひろ)

東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、1989年に三井不動産入社。不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任し、J-REIT市場に上場。2009年、オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任する。著書に『空き家問題』(祥伝社新書)、『2020年マンション大崩壊』(文春新書)、『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)、『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)などがある。

◆取材・文:平 行男(たいら ゆきお)

フリーライター。社内報などの企画制作会社を経て2005年からフリーランスに。企業の広報・販促コンテンツの制作を支援するほか、各種メディアでビジネス、IT、マネー分野の記事を執筆している。ブックライティングも多数。

ビジネスライター・平のブログ

完成が迫る「HARUMI FRAG」。住民が暮らし始めるのはいつか?  撮影:平行男

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