コロナ感染者続出の「ナイル川クルーズ」内側はこうなっている | FRIDAYデジタル

コロナ感染者続出の「ナイル川クルーズ」内側はこうなっている

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連日報道される「ナイル川クルーズ」参加帰国者の新型コロナ感染

「ナイル川クルーズ」に参加した感染者のニュースがほぼ連日報道されている。エジプトのナイル川をクルーズ船に滞在しながら楽しむ、日本人観光客に人気のこのツアー。なぜ今、このナイル川クルーズでの感染が続出しているのだろうか。

エジプト観光で人気が高い「ナイル川クルーズ」は大小400以上の船があると言われる
エジプト観光で人気が高い「ナイル川クルーズ」は大小400以上の船があると言われる

エジプトツアーに数年前参加し、ナイル川クルーズも体験した筆者が、クルーズ船での様子をはじめ、感染が広がりやすいと考えられる船内環境、日本人向けエジプトツアーの実態などをリポートする。

ナイル川クルーズ3泊4日のスケジュールは過酷

ナイル川クルーズは、エジプト中部のルクソールから南部のアスワンの間を、ナイル川のクルーズ船で宿泊しながら移動する。中には逆のルート、カイロ~ルクソール、カイロ~アスワンなどのクルーズもある。日本の主な旅行会社が販売するエジプトツアーの多くで、ナイル川クルーズが組み込まれている。

筆者が乗船したクルーズ船「AL KAHILA」では乗客全員が日本人観光客だった
筆者が乗船したクルーズ船「AL KAHILA」では乗客全員が日本人観光客だった

主なクルーズ船でのスケジュールは、【1日目】ルクソール東岸観光(ルクソール神殿、カルナック神殿など)後に停泊するクルーズ船に乗船。【2日目】ルクソール西岸観光(王家の谷など)の後、エドフに向けて出航。【3日目】ナイル川を南下しつつ、エドフ観光とコム・オンボ観光。【4日目】アスワンで下船、という流れだ。3泊4日のパターンが多い。

「AL KAHILA」の船内ダイニング。食事の際、座席はすべて埋まっていた
「AL KAHILA」の船内ダイニング。食事の際、座席はすべて埋まっていた

食事はすべてクルーズ船でのブッフェ料理(朝・昼)とコース料理(夜)だった。遺跡観光や土産店巡りのほか、船内でのカクテル・パーティー、ベリーダンスのショー、ガラベイヤ(※)パーティー、ティー・パーティーなどがクルーズ中に設定されている。※ガラベイヤはエジプトの民族衣装

クルーズ滞在中は朝・昼・夜すべて船内での食事となる。朝と昼はブッフェ
クルーズ滞在中は朝・昼・夜すべて船内での食事となる。朝と昼はブッフェ

アガサ・クリスティの推理小説でも有名なクルーズ

ナイル川クルーズの船は大小400以上あるといわれる。最も有名なのが、イギリスの作家アガサ・クリスティの推理小説『ナイルに死す』に登場するカルナック号がモデルの蒸気船スーダン号だ。ナイル川クルーズといえばアガサ・クリスティをまず思い浮かべる人も多いだろう。スーダン号は現在復元され、今もナイル川でクルーズ船として営業している。

アガサ・クリスティの推理小説に登場する船を復元した「スーダン号」(中央)
アガサ・クリスティの推理小説に登場する船を復元した「スーダン号」(中央)

筆者が乗船した「AL KAHILA(アル・カヒーラ、総定員144名)」は、ランク的には最高の5つ星とのこと。1階から5階まであるうち、1階にダイニング、2~3階が吹き抜けでエントランスとロビー、4階がラウンジ、5階がプール付きのサンデッキといった構成。客室は1~4階にあった。

参加したツアーのほか、日本の大手旅行会社2社のツアーも一緒だった。つまり、エジプト人ガイドを除くクルーズ船の乗客全員が日本人、まさに日本人ツアー客による貸切状態で、しかも満員だった。

窓が開かない客室、淀んだ空気、ツアー客は60歳以上が大半 

筆者の客室は、1階。つまり一番下の階で、客室の窓は開かないばかりか、窓のカーテンを開くと水面スレスレだった。値ごろ感がある価格帯のツアーだったので、客室の割り当ては致し方ないとすぐ諦めはついたのだが。

筆者が滞在した客室。一見、ホテルと変わらないが、カーテンを開くと水面ギリギリ
筆者が滞在した客室。一見、ホテルと変わらないが、カーテンを開くと水面ギリギリ

客室に入った瞬間、淀んだ空気が漂ってきた。しかも客室の窓は開かず、外気の入れ替えが自力でできない、狭い廊下にも窓はなく、寝る時とシャワー以外で客室にいることはなかった。水回りも決して良いと言えず、セーフティボックスに至っては壊れていて、ベッドや調度品などもけっこう年季が入っていた。

「AL KAHILA」1階部分。船内の廊下の両側に客室があった
「AL KAHILA」1階部分。船内の廊下の両側に客室があった

他の日本人ツアー客は、60~70代の中高年が大半で、ごくたまに新婚旅行のカップルがいた程度。中高年は特に朝が元気で、朝6時半からの朝食会場となっていたダイニングの前に開場前から待ち、ブッフェの料理を楽しそうに食べていた。毎朝、みそ汁などの和食も置いてあり、これは明らかに日本からの観光客向け。逆に、夜9時を過ぎると船内から人が消えて閑散としていた。

遺跡巡りは疲れが溜まる、まさに体力勝負

エジプトの遺跡観光は、けっこう体力が要るものだと、現地へ行って実感した。太陽がさんさんと降り注ぎ、時おり砂も舞う中を歩き続ける上、遺跡内部などは高低差があり、休憩スポットも充実しているとは言い難かった。その合間に土産店へ連れて行かれ、客引きにも遭う。さらに船内ではパーティーやショーが連日ある。

エドフ神殿での観光。ガイド1人に観光客が大勢集まって解説を聞いていた
エドフ神殿での観光。ガイド1人に観光客が大勢集まって解説を聞いていた

当時30代の筆者は、船内でのフリー時間であるナイル川航行中は、屋上のサンデッキで過ごしていた。しかし、他のツアー客の姿をその間、ほぼ見かけなかった。遺跡巡りに疲れてしまい、客室で休憩しているのだろうと推測した。

夜のガラヘイヤのパーティーなどは、決して広くないラウンジで、ツアー客が従業員らと一緒になって踊り、カクテルを片手に盛り上がる。日中は朝早くから、バスに乗っての遺跡と土産店巡り。中でも、アスワンからアブシンベルへのバス移動は、片道3時間半ほどかかり、途中で舗装が良くない場所を一気に走る。まさに「濃厚接触」のリスクだらけだったと、今振り返ってとても思う。

クルーズ船内では連夜パーティーやショーなどが行われ、ツアー客は全員参加していた
クルーズ船内では連夜パーティーやショーなどが行われ、ツアー客は全員参加していた

過密スケジュールな上に、団体行動のオンパレード。いくら元気と自信があっても、年齢を考えると体力的に厳しい。体力が落ちると免疫力も落ちる。船内の換気がしっかり行われていたかどうか、今考えても疑わしい。

しかも、乗船したクルーズ船は当時、喫煙OKだった。隣りに停泊していた欧米人旅行者が乗るクルーズ船は全館禁煙で、なぜ違ったのかは不明。さらに、海と違って川は流れが緩やかとはいえ、地上のホテルよりは疲れも溜まりやすく、ましてエジプトだ。

「AL KAHILA」のサンデッキ。手前のプールは水が入っていたが、ジャグジーはずっと空のままだった
「AL KAHILA」のサンデッキ。手前のプールは水が入っていたが、ジャグジーはずっと空のままだった

筆者が乗船したクルーズ船は、5つ星どころか2つ星程度では、と今でも思っている。船内のWi-Fiは有料かつとても高かったため、ほぼ誰も利用していなかった。食事の際のミネラルウォーターやコーヒー、ビールなどもすべて有料で、エジプトの市価より高め。ちなみに「AL KAHILA」での3泊4日のクルーズ、クルーズ単体での代金を調べると329ドル(約36500円)から、となっていた。

ツアーは1人40万円超、お金と時間に余裕がある人向け

一方、日本の主な旅行会社が販売するエジプトツアーはどのくらいの価格かというと、例えば、JTBが販売する「<成田発>ナイルの船旅と神秘の古代遺跡をめぐる 悠久のエジプト周遊」だと、ナイル川クルーズ3泊を含む8日間(直行便利用、全食事つき)で439900~529900円。経由便利用だと、ツアー代金は少し安くなる。クルーズ船やホテルなどのランクなどでもツアー価格は異なってくるが、日本人向けは基本すべて5つ星が用意される。

値段や日程を考えると、フルタイムで会社勤めの社会人が参加するのは厳しい。それもあって、この手のツアーに参加するメインは中高年で、今もキャンセル待ちになるほど人気が高い。成田-カイロの直行便を運航するエジプト航空は、近々増便予定となっていた(現在は新型コロナウイルスの影響で運休)。

ナイル川の上から眺めるエジプト中南部の光景は素晴らしいものがあった
ナイル川の上から眺めるエジプト中南部の光景は素晴らしいものがあった

もしクルーズの途中で体調が悪くなっても、すぐ下船して病院で治療が受けられるかも厳しい。エジプトの中では医療機関がまだ揃っている首都カイロは、ルクソールからでも飛行機で1時間超かかる。一方、ナイル川の中~南部は発展途上の小さな町ばかり。少し体調が悪くても、無理にでも先の旅程を進んでいくしかない。 

ナイル川クルーズでの感染者の情報を見ると、2月20日過ぎからのエジプトツアーの参加者が大半を占めている。この時期はまだ日本でもエジプトでも渡航禁止などの措置が出ておらず、ツアーも通常通り催行されていた。自主的にキャンセルすると規定通りの手数料がかかり、ツアー代金が高いのもあって、エジプト行きを強行した人も多いのではと考えられる。 

■記事中の情報、データは2020年3月23日現在のものです。

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  • 文・写真Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。

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