「マスクあります」外国人向け雑貨店がマスク販売する泣ける理由
JR大久保駅、新大久保駅近辺で潜入取材
「マスクあります」
3月上旬、夕方のJR大久保駅南口(新宿区)。暗がりでひっそり営業する南アジア系食材店の入り口に張り出された、たどたどしい文字。この張り紙を見て、次々と仕事帰りの日本人が吸い込まれていく。
店内にはスパイス、米、菓子などインド、ネパールの食材が所狭しと並ぶが、レジの前にたしかにあった。いまや日本のどこに行っても手に入らないマスクが売られているのだ。
「トルコにいる友人から現地製のマスクを送ってもらいました」
そう話すのはバングラデシュ人の店主、ラハマさん(37)。一枚300円という値段設定でも、買う人は少なくない。ラハマさんは「トルコからの輸送費を考えるとギリギリの値段。今朝から400枚売りに出している。買うのはみんな日本人だ」と語った。
東京・新大久保には、こうしたアジア系雑貨店がいくつも並ぶ。JR新大久保駅そばの通称「イスラム横丁」と呼ばれる一角で、ハラル食材店『ジャンナット・ハラルフード』を営むバングラデシュ人のライハン・カビール・ブイヤンさん(39)も、先日、祖国からマスクを仕入れたという。
「日本はいま困ってるからね。なんとか自分ができることで助けたくて」
50枚入りで一箱2600円。3月8日にはバングラデシュでも初の新型コロナ感染者が確認された。現地でもマスクの品薄が予想されることに加えて輸送費もかかるため、どうしても割高ではある。
「儲けは少しだけど、利益も得るし、サービスもする。それが商売人だ」
ブイヤンさんはそう語り、胸を張る。
マスク不足に悩まされるいまの日本では、こうした外国人向け雑貨店が意外な穴場になっているのだ。

『FRIDAY』2020年3月27日・4月3日号より
文・写真:室橋裕和