マラソン代表・国内最速ヒロイン一山麻緒を生んだ「鬼メニュー」
オリンピック代表最後の1枠に滑り込んだシンデレラガールの素顔
「想定内ですね。(2時間)21分を切れると思っていました」
レース後の記者会見で教え子の記録について聞かれたワコール女子陸上競技部の永山忠幸監督(60)は、誇らしげにそう語った。
3月8日、東京五輪代表のラスト一枠を争う名古屋ウィメンズマラソンが開催された。招待選手中最年少の一山(いちやま)麻緒(22)が2時間20分29秒で初優勝。野口みずき(41)が記録した2時間21分18秒を上回り、17年ぶりに国内最高記録を更新した。
マラソン界に彗星のごとく現れた「シンデレラ・ガール」。高校時代はほとんど無名の中距離走選手だった彼女をここまで育てあげたのは、紛れもなく永山監督だ。
ロサンゼルス五輪日本代表で、スポーツジャーナリストの増田明美氏が話す。
「高校卒業後、’16年にワコールに入社した一山選手は、普通なら降参してしまうような猛特訓を永山さんに指示されました。今年のアメリカ・アルバカーキの高地合宿でも、5㎞のランを8本こなすなど、めちゃくちゃキツイ練習を乗り越えた。一山選手も『鬼メニュー』と言っていますが、性格がとても素直だからできるのです。
また永山さんは、’13年の世界陸上銅メダリストの福士加代子選手(37)と一山選手を、合宿のたびにあえて同じ部屋に割り当てていました。その結果、一山選手は福士選手からマラソンに対する姿勢など、強くなるために必要な様々なことを学ぶことができた。それも大きかったと思います」
互いの情熱がすれ違い、思うような結果が出ないレースも多かった。しかし、それでも信頼関係は揺るがなかった。一山がフルマラソンデビューを飾った’19年3月の東京マラソンでは、日本勢トップでゴールイン。そして、ついに今大会で東京五輪への切符を手に入れた。
「一山選手の走りは、ケニアやエチオピアといったアフリカ勢の走りと似ているんです。多くの日本人選手が歩数で距離を稼ぐ『ピッチ走法』で走るのに対し、一山選手は大きな歩幅で走る『ストライド走法』を得意とする。後者のほうが加速しやすく、世界標準の走り方。持ち前の長い脚と厳しい練習でそれをものにした一山選手が、東京五輪でメダルを獲る可能性は十分あります」(増田氏)
「2021年夏までに開催」と決まった「東京2020 オリンピック・パラリンピック」に向け、鬼コーチとの二人三脚は続く。
『FRIDAY』3月27日・4月3日号より
写真:アフロ