新型コロナで隔離 日本人写真家「恐怖と衰弱の14日間」体験

西アフリカ・リベリアで取材に行った花井亨氏による現地ルポ

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施設職員の体温チェックを受ける筆者。微熱があった3月3日は深夜まで1時間おきに検温されて疲労困憊

2月23日夜8時、リベリアの首都モンロビアに到着した。私を迎えに来ている今回の取材対象、『国境なき医師団』のメンバーと合流するため、足早に入国管理局へ向かうと、マスク姿の職員が体温計を手に待っていた。パスポートを手渡す。

「JAPANESE?」

「YES!」と答えるや、私は列から外された。その後、空港の外に停まっていたボロボロの小型バスに乗せられた。パスポートは取り上げられたままだ。やがてバスは発進。街灯も交差点もない真っ暗なメインストリートを走り始めた。2時間近く走っただろうか。鉄条網が張り巡らされた高い塀に囲まれた施設のゲートをバスがくぐり、病院跡のような不気味な建物に到着した。部屋に通されて私は呟(つぶや)いた。「刑務所だろ、ここ……」。

家具はパイプベッドと扇風機のみ。どこから湧いて出るのか、無数の蚊が飛んでいる。サウナのように蒸し暑く、息苦しい。マラリアが怖い。だが、長袖長ズボンでは熱中症になってしまう。結局、Tシャツに長ズボンで横になった。

蚊に何ヵ所も腕を刺され、下半身は汗でグッショリ。不快極まりない。部屋を出てシャワー室に入るも、水は出ない。

だが、朝になれば『国境なき医師団』が迎えに来るだろう。翌24日、荷物をまとめて待機していた私はこう告げられた。

「2月23日から、新型コロナウイルス感染者が100人以上いる国からの渡航者を14日間、隔離することになった」

当初の滞在予定は1週間。帰国後、すぐに次の仕事が入っていたのだが、そちらも新型コロナウイルスの影響でキャンセルになったのは不幸中の幸いだった。

2月25日、『国境なき医師団』の現地スタッフが炭酸飲料とフルーツ、パンにチーズを差し入れてくれて喜ぶ。施設で出される食べ物は正直厳しい。メニューは毎日同じ。朝はタロイモとバナナを蒸したものに辛いソースが少量付く。昼と夜はイモの葉のドロドロ炒めと、鶏の足の骨と魚をヤシ油と香辛料で煮た料理。現地米のクセの強さもあって、次第に少食になった。

気づけば、周囲が騒がしくなっていた。どうやら私の後に収容されたリベリア人留学生が劣悪な環境にキレているようだ。彼らが暴徒化する恐怖に怯(おび)えていた私に、救いの手が差し伸べられた。リベリアを管轄する在ガーナ日本国大使館の姫野勉大使らの働きかけによって、「ホテル」に移動できることになったというのだ。

待ち焦がれた送迎車がやってきたのは、隔離5日目となる27日。エアコンの風で肌がサラサラになるのを感じながら、走ること1時間。着いたのは「ホテル」とは名ばかりの廃墟だった。それでも部屋には夢にまで見たエアコンが付いていた。吹き出すのはカビ臭くてヌルい風。トイレもシャワーの水も流れないが、蚊がいないだけマシだ。

2月28日、前夜は5日ぶりによく眠れたが、出された朝食はやはり、タロイモとバナナ蒸しであった。夕刻、3月1日にリベリアを出国できるとの吉報が入る。日本の外務省は凄い。素晴らしい!

帰国に備えて荷造りをしていた29日の朝10時過ぎ、ブランド物のサングラス、金時計、手にスマホとシステム手帳を持った身なりのいい男が訪ねてきた。「保健副大臣」と名乗るその男はこう詫(わ)びた。イタリアからの渡航者から陽性反応が出たので出国は白紙になった、と――。

私がリベリアを出られたのはそれから8日後の3月8日。恐怖と絶望で衰弱し、問答無用の検疫に怒りも覚えたが、思い出すのは保健副大臣が何度も口にした「私たちの苦い経験」という言葉。かつてエボラ出血熱に苦しめられた国だからこそ、新型コロナウイルスに毅然と立ち向かったのだ。翻(ひるがえ)って日本はどうか。14日間の苦難を振り返りながら、複雑な思いで私は祖国の地を踏んだのだった。

ロビー、トイレ、シャワーなどへ移動は自由だが、施設外には出られない。中庭(手前)には監視役の職員、フェンスの外には武装した兵士が立っていた
隔離部屋は刑務所のような無機質さ。たびたび停電になるため扇風機は使えず、酷暑と蚊の襲撃で睡眠不足に
献立は毎日同じ。こちらは昼と夜に出される「鶏の骨と魚のヤシ油&香辛料煮」。調理器具は野ざらしにされていた
本誌未掲載カット 新型コロナで隔離 日本人写真家の「恐怖と衰弱の14日間」体験 隔離された施設の外には武装した兵士が立っていた
本誌未掲載カット 新型コロナで隔離 日本人写真家の「恐怖と衰弱の14日間」体験 「ホテル」とは名ばかりの廃墟

『FRIDAY』2020年3月27日・4月3日号より

  • 撮影・文花井亨

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