ドラマは最終回こそ真価!『テセウス』『恋つづ』は名作だったか? | FRIDAYデジタル

ドラマは最終回こそ真価!『テセウス』『恋つづ』は名作だったか?

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2020年冬ドラマは、3月22日の『テセウスの船』(TBS系)最終回で幕を閉じた。
ラストは視聴率を一挙に5%ほど上げ、「最高」「有終の美飾る」などの声がネットを賑わせた。

同じように最終回(3月17日)まで右肩上がり基調となった『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)。こちらにも「心臓もたない」「全お茶の間がキュン死」などの賛辞が寄せられた。

ところが大ヒットと言われたこれら2作の最終回に対して、全体から見ると少数かも知れないが、違和感を持った人も少なくなかった。

共に最終回の流出率(途中で番組を見なくなった人の率)が、通常より高くなっている。

視聴者の注目を集めるために、巧みな手を駆使して来た両ドラマ。ところが途中の仕掛けが巧妙であればあるほど、最後の着地は難しくなる。両ドラマのラストから、ドラマの真価を考えてみた(なお『テセウスの船』についてはネタバレがある)。

『恋つづ』の流出率

ビデオリサーチ関東900世帯の調査では、最終回の世帯視聴率は、『テセウスの船』19.6%『恋つづ』15.4%で、他のドラマを圧倒した。

ところが全国160万台のインターネット接続テレビで調べるインテージ「Media Gauge」で、毎分接触率や流入流出率をみると、平均視聴率の多寡だけでは判明しない“ドラマの真価”が見えてくる。

例えば番組中の接触率の推移。

ここでもTBSの2ドラマは他を圧倒した。ところが『恋つづ』は、最終回になっても番組終盤直前まで、接触率は右肩下がり基調が続いた(図1)。

話題を呼んだ『恋つづ』ではあるが、実はクール序盤から一貫して、途中の流出が大きく、毎分の接触率は番組途中までジリジリ下げていた。

同ドラマの視聴率は、初回から6話までほぼ横ばいだった。それが7話以降で上がり続け、最終回は初回より5.5%も高くなった。

評判を聞きつけ、途中から見始めた人がたくさんいたと思われる。

それ自体はドラマの実力として素晴らしいことだが、最終回まで途中の離脱者が続出していた。

漫画原作で「恋愛ドラマの王道を行く」と評価される作品だが、評判が気になって見てみたものの「自分の好みには合わない」と脱落する人が一定数いたようだ。

右肩上りの『テセウスの船』

一方『テセウスの船』は、視聴率も初回から最終回にかけて右肩上り基調で展開した。また各話の接触率も、右肩上りが基本パターンとなっていた。

つまり途中の脱落者が少なく、話題性から回を追うごとに視聴者が増える“理想的なパターン”だったのである。

主演・竹内涼真の「絶対に事件を起こさせない」という頑張りをはじめ、父・鈴木亮平や母・榮倉奈々がつくる家族の温かさ、そして主人公を支えた妻・上野樹里の熱演など、見る者の心を熱くする要素が随所に散りばめられていた辺りが、視聴率上昇に大きく貢献したと思われる。

さらに毎話内およびクール内で右肩上りが続いた最大の牽引力は、“最後の最後までわからない犯人”というミステリーの力だろう。

その意味では、19年春から2クール連続で放送した『あなたの番です』(日本テレビ系)と同じ様に、手の込んだミステリーが人を巻き込む力は絶大と言えよう。

実際に犯人がお笑いコンビ・霜降り明星のせいやと判明した後、SNS上では「意外だった」「犯人まさかすぎ」などの声が上がった。

大方の予想を裏切る想定外の展開という意味では、ストーリーは成功だったのである。

巧妙な「転」は両刃の剣

人の心を動かす名番組は、意外な展開を重ねつつも、最後には「その手があるのか!」と鮮やかな着地をみせる。

「起承転結」でいえば、「転」で突拍子もない方向に行くが、きちんと「結」に落ち着くから視聴者は納得し、ストーリーテラーの腕前に感動する。

その意味で「転」の振り幅は、大きければ大きいほど人の耳目を集める反面、「結」に戻って来られるか否かの難度は高くなり、着地に失敗する危険が高まる。

今回のドラマでは、犯人と思わせる要素を散りばめるための「転」が幾つも出て来た。そして「転」の数々が、最終回でどう着地したかが問われた。

村で起きた数々の事件は、小学生のみきお(柴崎楓雅)が犯人だったが、実は主人公の姉・鈴(白鳥玉季)の気をひくための犯行で、最終回では全てを自白し毒物を飲んでしまう。

動機は鈴にとっての正義の味方の父(鈴木亮平)が邪魔だったという。

そのみきおを溺愛してきた教師・木村さつき(麻生祐未)は、高1の時に妊娠した。中学時代の担任だった今の校長(笹野高史)に相談したが、赤ん坊を生むことは叶わなかった。

その後、教師になったが、基本姿勢は子供を守ること。みきおに対する過剰な振る舞いは、こうした経緯が背景にあった。

さつきの担任だった校長は、十年来、東京で暮らす息子と絶縁状態だったが、主人公親子に出会い、親子の絆を再認識する。そして孫が生まれたのを機に和解した。

実は良い人だったのだが、では過剰に不気味さを醸し出していた数々の演出はどうだったのか。

最終回の流出率が意味するもの

最終回の流出率推移をみると、『テセウスの船』には気になることがある。

CMでの流出率が高すぎるし、流出率の小さなピークが多すぎる。「誰が犯人か」の興味が強いために、最終回も視聴者は増え続けているように見えるが、実は途中の脱落者がかなりいた。

例えば小ピークの一つ、59~60分頃の脱落は、校長が親子関係を告白し、犯人ではなかったあたりで発生した。

根は善人なのに、なぜ過剰に不気味だったのか。腑に落ちずに心が離れた視聴者が少なからずいたようだ。

例えば71分に来る流出率の小ピーク。
12年前の村祭りで母が犯人扱いされたことへの恨みと判明したが、もみ合った末に犯人(せいや)のナイフが主人公に刺さり、落命してしまう。

これら幾つかの「転」の回収先としての「結」は、じゅうぶん説得力を持っていたのか。それぞれ怪しいと目された登場人物の真相や、真犯人の動機について、言葉ではいろいろ説明されていた。

ところが論理を超えて感情で納得できたかといえばかなり危うい。

流出率の小ピークが幾つも発生したのが、視聴者の本音の表れだろう。

そしてもう一つ、CMの度にそれまで以上の脱落者が発生し、しかも流出率が大きくなったことこそ、「転」の回収を急ぎすぎ、ゴチャゴチャしてついて行けなくなった視聴者が一定数出た理由と筆者は考える。

最終回は難しい

『恋つづ』にも似た側面がある。

恋愛ドラマゆえに、展開も結末も、ある程度想定されていた。

ところが途中で、上白石萌音と佐藤健による、“ハグ&背中ポンポン” “治療キス” “バックハグ”など、想定外の“胸キュン”新バリエーションが登場し、ハマっていった若者が多かった。

ところが最終回は、こうした強力なシーンが幾つも出て来た。

プラスのカードは、多ければ相乗効果で強くなる、とは限らない。
剛速球投手が、速い球を投げ続けるだけでは打者を抑えられないのに似ている。

やはり緩急の妙で、面白さは増す。

『恋つづ』も、CM時の流出率がそれまでより高かったし、小ピークが何か所かで見られた。「キュン死」した若者が多かったのだろうが、食傷気味で離脱した視聴者も一定数いたようだ。

尻上がりに多くの人を惹きつけて行くドラマは、宿命的に期待値がどんどん上り、最終回の「結」はむつかしくなる。

その意味で今クールのドラマで最高の収穫であった『テセウスの船』『恋はつづくよどこまでも』だが、その最終回は、途中の巧妙な手法が進化し続けたとも、扱ったテーマの意味が深化し続けたとも言い難い。

「本当の名作ドラマ」。その真価は、最後までよく出来ているか否かで問われるものと考える。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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