「東京封鎖は現実的に不可能だ」交通問題のプロが解説 | FRIDAYデジタル

「東京封鎖は現実的に不可能だ」交通問題のプロが解説

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新型コロナウイルスによる感染症が世界に拡大。日本国内でも警戒(2020年2月28日)  写真:AFP/アフロ
新型コロナウイルスによる感染症が世界に拡大。日本国内でも警戒(2020年2月28日)  写真:AFP/アフロ

いよいよ東京でも新型コロナウイルスが本格的な流行期に入り始めた。東京都のコロナウイルス感染者数は、3月25日に1日当たり40人を突破すると、28日に63人、29日に68人と過去最多を記録している。

東京都の小池百合子都知事は25日、都庁で緊急記者会見を行い、ここ数日で感染者が急増しているとして、都民に不要不急の外出自粛を要請し、平日はできる限り在宅勤務を行うよう求めた。周辺の神奈川、千葉、埼玉、山梨の各県も県民に、東京都への不要不急の旅行の自粛を要請した。

東京都の外出自粛要請で話題となったのが、都市封鎖(ロックダウン)の可能性だ。小池知事は25日の会見で「このままの推移が続けば、ロックダウンを招く」として今後、都市封鎖を実施する可能性をにじませると、翌26日に東京都と周辺4県の知事と行ったテレビ会議で「ロックダウンなど最悪の事態を回避するため、断固たる決意をもって対策を進める」とした共同メッセージを発表した。

しかし、この「ロックダウン」という用語の定義は必ずしも明確になっていない。

都市封鎖という文言からは、中国湖北省武漢で行われた全道路、全交通機関の封鎖や、イタリアやスペインで行われている外出禁止令など、物理的な封鎖や行動の制限をもって感染拡大を防止する対策を想起するが、日本の現行法令では、法的な強制力を伴う形での都市封鎖の実施は不可能というのが専門家の見解だ。

法改正により、新型コロナウイルスも対象に含まれた新型インフルエンザ等特別措置法では、国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、都道府県知事は住民に対し、生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅から外出しないことなどを要請することができる、としている。

しかし交通の遮断に関する規定はなく、またあくまでも外出自粛の要請に留まっている。

また感染症法の第33条には、都道府県知事は感染症の蔓延を防止するために緊急の必要があると認める場合は、72時間以内の期間を定めて、感染症の患者がいる場所や汚染された地域の交通を制限し、又は遮断することができるとしている。

3月27日の政令改正によって新型コロナウイルスにもこの対象とされることになったが、これは本来、エボラ出血熱やペストなど致死率の高い感染症(感染症法上の「一類感染症」)が発生した地域を緊急に封じ込めるための規定であり、新型コロナウイルスの封じ込めで必要とされる長期間の都市の封鎖を想定したものではないため、これを根拠に交通を遮断することは困難という。

実際、東京を封鎖するということは現実的にも不可能である。

ニューヨークやロンドンを始めとする世界の大都市は、多くがその都市単体で都市圏を形成しているのに対し、東京都市圏は東京都を中心に、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県の一部までを含んでいる。

2015年に行われた大都市交通センサス(首都圏、中京圏、近畿圏で実施した大量公共交通機関の利用実態調査)によれば、東京23区を目的地とする通勤・通学者の総数は1日当たり約500万人。うち、東京都内から出発している人の数は約半数で、残り半数は周辺4県から東京23区に移動している人である。

また、これらの通勤・通学手段として、鉄道が分担する割合も、他国に例を見ないほどに高い。つまり東京の都市機能は、東京の人間だけでは半分しか維持できないのが実情である。鉄道輸送が経たれると、救命救急、物流、電力、ガス、上下水道、公共交通など、経済活動以前に止めることのできない都市機能が維持できなくなってしまうのである。

しかし、どのような企業の、どのような部署、人員が都市機能の維持に必要か、明確な線引きを行うことは不可能であるし、その時間的余裕もない。またそれを交通事業者側が判別する手段もない。となれば国及び地方自治体としては、引き続き、外出及び通勤の自粛を求めて、各事業者の取り組みを促すほかに、解決策はないだろう。

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトによると、都営地下鉄の利用者数は3月9日以降、7時30分から9時30分までのラッシュ時間帯で平常時の約25%減の状況が続いている。

コロナウイルス騒動が本格化した2月末には、通常時より利用者が増加していた6時30分から7時30分までのラッシュ前時間帯も、3月後半に入って減少がみられている。東京都が外出自粛を要請した3月25日以降はさらに減少が加速しているようだが、現状では通勤は3割程度しか抑制できていない。

できる限り感染拡大を押さえ、当面の医療崩壊を防ぐためには、新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態宣言を早期に行い、改めて外出自粛やイベント開催制限を要請するとともに、国民への現金給付などを通じて、真に必要な通勤以外を行わなくても済むような対策の実施が必要とされるはずだ。

それでは、感染防止を徹底した上で、鉄道輸送を維持する方法はあるのだろうか? 

2011年に国土交通省国土交通政策研究所は、車内で乗客が相互に2mの距離をとり、通勤ラッシュ輸送を行ったケースを想定した調査研究を行っている。それによると、1両(首都圏で標準的な20m車両)あたりの乗車可能な旅客数は18人で、これは定員約150人の12%に過ぎない。実際には混雑率約150%で約220人の乗客が乗車していることになるので、輸送力は通常の8%まで低下することになる。

今後、公共交通機関の従業員に感染が拡大した場合、所定の列車を運行する要員が不足し、こうした最低限の輸送すらも行えなくなる可能性もある。

列車本数が減少すれば、さらに輸送力は減少し、混雑が発生してしまう。インフラ系企業の従業員に新型コロナウイルスが感染拡大すれば、都市機能は絶たれ、新型コロナウイルスで失われる人命に加え、さらなる悪影響を及ぼす恐れがある。

こうした悪循環に陥る前に、首都圏で生活する私たち一人ひとりが意識と行動を変える必要がある。

  • 枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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