「ボクシング界の八村塁」東京五輪延期でも狙いは金メダルのみ
山形出身のハイブリッドボクサー・岡澤セオンの独占インタビュー
「これ、うまいづねえ!」
好物の寿司に山形弁で舌鼓を打つこの青年の名は、岡澤セオン(24)。東京五輪のボクシング69㎏級(ウェルター級)に内定している期待の新鋭だ。
岡澤の母校・中央大のボクシング部OB会会長である荒井英夫氏が言う。
「ガーナ人の父と日本人の母を持つ岡澤はアウトボクシングを得意としています。そのセンス抜群の戦いぶりは、まさに天才。中大のみならず、ボクシング界全体が注目している逸材です」
だが、意外にも競技を始めたのは高校生になってからだという。
「母はいわゆる教育ママで、僕は国立の山形大附属に幼稚園から中学まで通っていました。で、高校は山形県内の有名進学校を受験したんですが、まさかの不合格になってしまって(笑)。それで日大山形に進学した。何となく格闘技をやりたいなと思っていたので、強豪だったボクシング部に入部しました」(岡澤)
高校時代は全国ベスト8止まり。進学した中央大でも国体準優勝が最高と、日本代表を狙える選手ではなかった。広告代理店に内定も得て、社会人になったらボクシングは辞めるつもりだった。
「でも、どこかでボクシングへの情熱が捨てきれなくて。そんなときに鹿児島出身の後輩から、『県の体育協会が’20年の地元国体に向けて指導員を探している』と聞いた。親にも話さず内定を蹴り、かばん一つで鹿児島に行きました」
鹿児島のジムでメキメキと力をつけた岡澤は、全日本選手権を2連覇すると、昨年のアジア選手権では、日本人としては36年ぶりとなる銀メダルを獲得した。今年3月にヨルダンで行われたアジア・オセアニア予選では5位に終わったが、岡澤はこう自信をのぞかせる。
「この大会で優勝したのは地元・ヨルダンの選手でした。彼にはアジア選手権で大差で勝っていますから、結果はあまりに気にしていません。ボクシングで地元選手が有利になるのは常識ですからね。
東京五輪でライバルになるのは、ロシアの選手くらい。しかしロシアはドーピングで出場できない可能性が浮上しています。金メダルを狙いますし、少なくとも50%は獲れると思っています」
もはや岡澤の敵は一つだけ。新型コロナウイルスである。東京五輪の延期が決定したなか、モチベーションに変化はないのか。
「僕は決定に従うのみ。五輪に向けて練習を重ねています」
山形出身の秀才ボクサーは、虎視眈々と牙を研いでいる。
『FRIDAY』2020年4月10日号より
- 撮影:小松寛之
- 写真:日本ボクシング連盟提供(2枚目写真)