仙台「高校教師撲殺事件」不倫相手に殺人依頼した鬼嫁の怨念 | FRIDAYデジタル

仙台「高校教師撲殺事件」不倫相手に殺人依頼した鬼嫁の怨念

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第44回

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逮捕された美代。高校時代は殺害された松本さんの教え子だった
逮捕された美代。高校時代は殺害された松本さんの教え子だった

約10年前に起きた仙台の高校教師撲殺事件。容疑者として逮捕されたのは、教師の妻だった。しかも殺人を依頼したのは自身の不倫相手だという。愛憎の末に起きた惨劇の背景を、ノンフィクションライターの小野一光氏が追う。

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2010年4月30日、宮城県仙台市にある自宅敷地内で、同市内の私立高校に勤務する数学教諭・松本保志さん(仮名=死亡時56)が何者かに撲殺される事件が発生した。

その後、同年8月になってこの事件が動いたとの一報がもたらされる。同月8日に松本さんの知人である松山哲士(逮捕時38、以下同)と梅原啓(27)が殺人容疑で逮捕され、さらに12日には松本さんの妻の美代(44)も、同容疑で逮捕されたのである。宮城県警担当記者は話す。

「美代と松山はかねてより親密な関係で、犯行当日は彼女が携帯メールで、彼に夫の行動予定を知らせていました。その情報をもとに、松山は自分のことを”師匠”と呼ぶ梅原に携帯メールで犯行を指示し、殺害が実行されています。

梅原は松山がかつて塾講師をしていた頃の教え子で、松山の自宅ビルの1階を借りて出前専門の寿司店を営むも、店の経営がうまくいかず、’09年にバイク事故で入院したことも重なって資金繰りに苦しみ、松山に多額の借金をしていました。犯行時は仕事を掛け持ちして仙台市内のホストクラブで働き、借金返済に充てているような状況で、松山の依頼を断れなかったと見られています」

同記者によれば、美代と松山が知り合うきっかけを作ったのは、被害者の松本さんだったという。

「実家が資産家の松山は、母親が立ち上げた不動産会社の役員なのですが、その傍らに仙台市内の学習塾で英語を教えていました。(事件の)約15年前に松本さんもその塾で数学の講師の仕事をしたことが縁で、ふたりは知り合っています。じつは松本さんも実家が資産家で、株や不動産投資などへの関心が強かったことから、不動産の仕事もやっている松山と意気投合。

10年ほど前に家族に紹介していました。やがて松本さんが長女の家庭教師を松山に頼んだことで、彼が家に出入りするようになり、’09年からは妻の美代も松山に英語を習い始めるなどして、いつしか不倫関係に発展したようです」

松本家の周囲では、美代と松山が仲睦まじく寄り添って歩く姿が目撃されていた。近隣住民は語る。

「松本家の近くで、クリーム色のベンツをよく目にするようになったんです。それと同じくらいの時期に、夫婦のように親し気にして犬を散歩させる、奥さん(美代)と男の人(松山)を見かけるようになりました」

この近隣住民によれば、事件で亡くなった松本さんの四十九日が終わった7月頃からは、松本家の玄関脇にある自宅駐車場に、松山の乗る同色のベンツ500SELが、堂々と停められるようになっていた。前出の記者は犯行前の松本家の夫婦関係について説明する。

「松本さんはこれまでの財テクでかなりの収入があったにもかかわらず、資産状況について妻である美代には教えず、毎月手渡す生活費もわずかでした。そのため事件前、美代は周囲に『夫と別れたいが離婚に応じてもらえない。弁護士に相談している』とこぼし、松本さんからDVを受けていることも明かしていました。一方の松本さんも知人に『離婚は時間の問題』と話していましたが、自身の名義で入手していた一軒家や、複数のマンションの部屋などの資産を分割することに抵抗があり、離婚に難色を示していたようです」

夫の女性問題に“恨み”が重なり……

実行犯の梅原。仙台市内のホストクラブで「上杉圭」の名前で働いていた
実行犯の梅原。仙台市内のホストクラブで「上杉圭」の名前で働いていた

高校時代に松本さんの教え子だった美代は、卒業後に地元の地銀に就職。預金の勧誘のために母校を訪れたことで、松本さんと再会して交際を始め、結婚に至っている。1男2女を授かり、松本さんの出勤時にはキスをして送り出すなど、当初こそ周囲には仲の良い夫婦だと映っていた。だが、ここ数年は夫婦関係が破たんしていたと、在京のワイドショーディレクターは明かす。

「じつは松本さんは若い女性が好きで、これまでに教え子などに手を出し、問題になったことが何度かあったとの話が出ています。事件の前にも、女子大生との不倫騒動が持ち上がったとの情報もあります」

我々も松本さんの周辺について取材してまわったところ、彼の元教え子で、在学中にスキーに誘われたという、40歳代の女性から話を聞くことができた。

「高校1年生のとき、(松本)先生に月山(山形県)への春スキーに誘われました。私の家まで車で迎えに来てもらって行ったのですが、学校の職員の人からは、『松本先生はあなたのことが好きだから、変なそぶりを見せたらダメよ』と注意されました」

犯行動機とされる、金銭的な理由による離婚話が難航したことへの”恨み”のなかには、美代による、こうした夫の女性問題についての鬱憤が含まれていた可能性は否めない。そしてその”恨み”は、予想以上に深かったようだ。というのも松本さんは、4月30日の犯行の約2ヵ月前に、逮捕された3人の共謀によって実行犯の梅原に襲われ、大けがをしていたのである。

その”事件”が起きたのは3月1日の夜のこと。泥酔した松本さんは、帰宅途中の公園で何者かに木製バットで襲われ、頭の骨と前歯を折る重傷を負う。翌日、血まみれで学校に出勤した彼は、異様な姿に驚く同僚に対して、理由は不明だが「酔って階段で転んだ」と説明。そのため事件化はされず、救急搬送された病院に入院していたのだった。

そして松本さんが退院した日こそが、2度目に襲われることになる、4月30日だったのだ。この際も美代を含めた3人は事前に犯行の相談をし、自宅玄関脇の駐車場で実行犯の梅原が、帰宅した松本さんの頭部を今度は金属バットで殴りつけ、死に至らしめたのである。

3人の逮捕後、松山と梅原のふたりはすぐに事件への関与を認めたが、美代は「一切関係ありません」と関与を否定していた。仙台地検は逮捕から約2ヵ月後の10月18日に、「松本さんを殺害したことを隠して死亡保険金を請求するための関係書類を6月に提出し、保険金2810万円をだまし取ろうとした」として、美代と松山のふたりを詐欺未遂罪で追起訴。その際に梅原に対しては、松本さん殺害後に彼らから”報酬”が支払われることになっていたことも明らかになった。

この事件については、翌’11年に仙台地裁で開かれた裁判で、美代に懲役11年(求刑懲役20年)、松山に懲役23年(求刑懲役30年)、梅原に懲役18年(求刑懲役20年)の判決が下されている。

美代と不倫関係にあった松山。事件後は堂々と美代の家に通っていた
美代と不倫関係にあった松山。事件後は堂々と美代の家に通っていた
  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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