こんな時代だからこそ近田春夫の“おふざけ魂”に学ぶ
「さあみなさん、こんなご時世でございます。明るくいかなきゃつまんないじゃないですか!」
近田春夫さんは不思議な人だ。ロック界のレジェンドでありながら最先端を走り続け、何をやっても10年、20年、ヘタすりゃ30年後に、やっと時代が近田さんに追いつく始末。加えていたずら心を忘れない、少年のような一面もある。
音楽業界が窮地に立たされた今、近田春夫さんは何を思うのか。永遠の“夢先案内人”に緊急インタビューをおこなった。
利権絡みのオリンピックにNO! 世界規模のお祭りを音頭で応援
2020年2月16日、近田さんはYouTubeで新曲「近田春夫のオリパラ音頭」を発表した。この「いきおいで勝手に作った東京2020の非公式テーマソング」は、誰でも許可なく自由に使用することができる。
曲を聴いてまず感じたのは、コロナ疲れでゲンナリした毎日に風穴を開けるスカッと感。「あ〜この軽さとバカバカしさ待ってた!」というのが正直な感想だ。
近田さんが「オリパラ音頭」に着手したのは去年のこと。「最近のスポーツ大会のテーマソングには真面目くさっているものが多いかな」と感じたのがきっかけだったという。
「僕の場合“鉄の意志でふざけ続ける”というのが基本的なモットーなので、そういうスタンスでオリンピック・パラリンピックの応援ソングが作れないかなという気持ちがありました」(近田春夫さん 以下同)
ではどこまでふざけているのか、ちょっくら聴いていただこう。まずは、8ビートのロックンロールver.から。
1964年の東京オリンピックでは、三波春夫の「東京五輪音頭」が大ヒット。昭和の時代にはクレージーキャッツを筆頭に、バカバカしく楽しい曲やノベルティ・ソングがたくさんあり、自身の中に眠るそんな音楽の記憶を「オリパラ音頭」に反映させた。
「昔のオリンピックはアマチュアスポーツの祭典だったけど、ロサンゼルス五輪以降、アメリカの放送局の利権とかがからんできた。だんだんプロの人もやるようになっちゃって、自分が子どもの頃に思い描いていたオリンピックの純粋性っていうものがなし崩しになっていく中で、もう一度クーベルタン男爵が言った“参加することに意義がある”をキーワードにして歌ったら、けっこう意地悪くできるんじゃないかな、とも思いまして」
避けて通れない嫌なことなら楽しむ方法を考える。たとえそれが空元気でも
オリンピックは世界でいちばん大きい運動会。商業主義に牛耳られた大会ではなく、祭りとして楽しみたい。祭りなら当然音頭でしょう、と曲作りを始めた近田さん。ところが、そこにやってきたのがコロナ禍だった。
「コロナもオリンピックも門外漢の僕なんかが何かを言うのは僭越だと思うので、意見を言うつもりはないんです。ただ純粋に、当初の目的とはちょっとスライドしてきてるけど、こういうときにはちょっとふざけたものが気晴らしになるとは思うんですよ。
嫌なことはなるべく避けて通りたい。でもどうしても避けて通れなくなったら楽しめ。これはSF作家のフィリップ・K・ディックの言葉だけど、ホントにそうだなァと思って。例えば僕が死刑囚で、今が死刑執行の5分前なら、その5分をどう楽しむかを考える。
今は打って出るというか、強い気持ちを持つことが大事。めげてるとどんどん取り込まれちゃうから、空元気でもいいと思うんです」
音楽やその他のイベントに関しても、無観客状態が続くかもしれない。この状況を、どうやって打破すればいいのだろうか。
「今回ほどのパンデミックは、誰もこれまで経験したことがない。だからこそ、今までとは違う発想が生まれてくるんじゃないかと感じています。人から教わるのではなく、自分で考えてそういうものをいち早く発見できる人間っていうのがかっこいいし、その競い合いがちょっと楽しみでもあります。
SNSもひとつの武器になるだろうし、いろんな人が無料配信してるよね。“言霊”を信じるわけでもないけど、みんなそれによって何かが鎮められたり、和らげることができるなら、という思いでやっているはず」
一連のパラダイムシフトであっという間に暴露された世の中の本性
世界中で起こった数々のパラダイムシフトは、自分の頭で考えることの大切さを痛感させた。
「地球ってものがどれくらい華奢で脆弱なのかがわかったよね。例えば社会は今、経済を中心に動いているけど、経済の構造は結局自転車操業でねずみ講なんだってこともよくわかった。いったん止まると途端にツケが払えなくなり、たった1〜2週間で大企業が倒産したり。
お金が回ってるように見せかけてるだけで、“僕はあなたに100円貸します。ありがとうじゃあ貸してください”っていうのを1億円単位で回してるだけですもん。本性が見えた気がしました」
各国のリーダーの発言にも「え、そういうこと言っちゃう?」とがっかりさせられることが多い。
「どこの国のリーダーも、言質とられないようなことしか言わないんだよね。こないだ言ってたことと全然違うことをしゃあしゃあとした顔で言われると、“なんかこの人やっぱりずるいんじゃないのかな”って。あれを見てると“な〜んだ、日本だけじゃないんだ”と。
“あんときはそう言ってましたが、話は変わりました”っていうのはナシにしてもらいたいですよ。みんな自分の非を認めないし、誰も“話が違うじゃん”と突っ込まない。ひとこと“ごめんなさい”と言ってからやってくださいって思います。誰も怒らないからさ」
各国に比べると、今はギリギリ持ちこたえているようにも見える日本のコロナ対策。「いろいろなとらえ方があるが」と前置きをした上で、近田さんはこう話す。
「安倍晋三って人は、森友・加計問題などで国民に非常に不誠実な対応をしてきた。だから不信感はすごくあります。でもそれとは別に、いわゆる一国のリーダーという専門職としては、この状況の中ではよくやってるなと僕は思います。日本特有の中途半端で煮え切らない、どっちつかずでいろいろやってるのが功を奏してる部分もあるかもしれませんが。後手後手とかぬるいとか批判は簡単にできるけど、“じゃあおまえやれるの?”っていう部分では評価してあげないと。…あげないとっていう言い方も失礼だけど、そこはある程度尊敬してやってかないと、本人もやんなっちゃうと思うんだよね。
ただ、それと一連の不誠実な対応は別のことだから、これが終わったら決着つけてもらわないと」
人類にはコロナ騒動を教訓として進んでいく英知がきっとある
無理が通れば道理がひっこむ。それを権力者は平然とやり、開き直ればなんでもまかり通るということを今回は目の当たりにしたと、近田さんは言う。コロナ騒動は、人類が改めて世の中全般をじっくり考えるために与えられた、過酷で長い休暇なのかもしれない。
「でもね、エイズが出てきたときも、みんな絶望的な気持ちになったけど、今は不治の病ではなくなりましたよね。だから今回もきっと人類は克服して、いい教訓として進んでいくだけの英知を持っている気がするんですよ。ただ自分がそこで何がやれるかといったら、オリパラ音頭ぐらいしかないんですけど(笑)」
東京2020は来年開催される。その日に向けて盆踊りの振り付けを考えておくくらいの心の余裕が、今は大切なのかもしれない。
「アレンジしたいならアカペラのみの音源をお届けするし、自分の歌を吹き込みたければカラオケを送りますから、ぜひYouTubeに上げてください。この宇宙をこれ以上深刻にさせないっていうのが自分の役目と思ってるんで、おもちゃにしてもらってけっこう。世界平和のためにもみんなで遊んでください!」
ということで、最後は「正調 近田春夫のオリパラ音頭」で締めたい。“あっぱれ日本晴れ”って感じのナイスな踊りを考えつつ、この苦境を乗り切っていこう!
近田春夫(ちかだはるお) ’75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてレコードデビュー。タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、プロデューサーとしても活躍。’81年にビブラトーンズを結成、’87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを始動し、日本語ラップシーンの黎明期を支えた。一昨年、ソロ名義としては38年ぶりとなるアルバム『超冗談だから』(ビクター)をリリース。近年は元ハルヲフォンのメンバー3人によるバンド「活躍中」、ディスコ×テクノユニット「LUNASUN」を展開。
取材・文:井出千昌撮影:安部まゆみ