最終回に息子が”ナレ死” 朝ドラ『スカーレット』こだわりの秘密

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放送期間が半年に及ぶ朝ドラで、ヒロインうを演じきった戸田恵梨香

愛する息子の死も、「いつもと変わらない特別な1日」として描き切ったNHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』。

3月28日に放送された最終回では、桜の花びらが舞い散る中、愛する息子・武志はナレーションの説明だけの”ナレ死”。しかしこれこそ、「死ぬことよりも、どう生きたかを描こう」と心に決めた脚本家・水橋文美江氏の矜持なのかもしれない。

「今回の朝ドラ『スカーレット』では、父・常治(北村一輝)、夫・八郎(松下洸平)、そして息子・武志(伊藤健太郎)との別れが描かれていますが、息子との別れは特別なもの。脚本家・水橋氏は自身のインスタグラムで『喜美子の作品は全て(陶芸家)神山清子先生の作品』とした上で『大切な作品をお借りして喜美子の作品と謳っているからには、その思いに全く触れずにいることは同じ物作りの端くれとして敬意に欠ける』として白血病で亡くなられた神山先生の息子さんへの思いを込めて、3つ目の別れを描いていくと綴っています」(ワイドショー関係者)

さらに水橋氏は、大切な友人を‘19年7月に失っており、そのショックを断ち切るために家を出て脚本を大阪のホテルで執筆してきたことや、母親を癌で亡くし、息子が幼い頃、病気で生死を彷徨っていたこともなどもインタビューで告白。そうした死への特別な思いがあったからこそ、朝ドラとしては異例とも言える”闘病”というテーマをあえて取り上げ、愛する息子の死すらも「いつもと変わらない特別な1日」として描くことに成功したのである。

息子を亡くした母・喜美子を演じる戸田恵梨香にも、称賛の声が寄せられている。

「不安に打ち震えながらも、感情を抑え武志(伊藤)に対して“ぶっきら棒”に接するシーンには、何度も目頭を熱くしました。特に最終週の3月23日の放送回。感情が高ぶり『おれは生きたい』と涙をこぼす武志の気持ちをしっかり受け止め、頭を抱きしめるシーンは母の姿そのもの。戸田はこの作品の前に、ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と〜』(TBS系)に出演。その中で若年性アルツハイマーのヒロインを演じ、透明感あふれる演技が話題を呼びましたが、今回の朝ドラでまた新境地を切り開きましたね」(制作会社プロデューサー)

「生きたい」と涙をこぼす武志を観て、私は神山清子さんをモデルにしたある映画を思い出した。それは、田中裕子主演で2005年に公開された映画『火火』である。

この映画で田中は芸術家として、母として女として火のように生きる神山清子を熱演。その中で、末期の白血病で苦しむ息子・賢一(窪塚俊介)が病院のベットの上で喀血。『怖い、怖い』と喘ぐ息子を後ろから抱きとめ、気丈にも『なんも怖ない。先行って待っとれ。おかあはん、仕事済ませたらすぐ行くから』と答える鬼気迫る場面が登場する。

もしこの場面を戸田が演じていたら、どう演じていたか。キャリアも年齢も異なる二人だが、戸田恵梨香の中に田中裕子の幻影を見てしまったのは私だけだろうか。

「この映画で神山さんは、作陶指導は勿論、映画に登場する数百点に及ぶ作品も手作り。寸越窯(穴窯)や自宅も撮影に提供。みずから先頭に立って日本初の公的な骨髄バンクを設立するなど、最後まで必死に生きた息子の姿を残すことに執念を燃やしました。そういった思いが映画『火火』には詰まっている。同じ人物を扱いながらも、朝ドラ『スカーレット』と映画『火火』は、全く違うアプローチから出来上がった作品。そういった意味でも、興味深いですね」(前出・制作会社プロデューサー)

しかし「いつもと変わらない特別な1日」を描き切った『スカーレット』にも、焦がすような熱い想いが隠されている。ドラマに先立って作られたSuperfly(越智志帆)が歌う主題歌「フレア」誕生秘話について、越智がこんなコメントを残している。

「1月に放送された音楽番組『SONGS』(NHK)で、戸田恵梨香から『フレア』の歌詞について質問された越智は、制作スタッフから”喜美子像”を聞き、『女性の強さ、優しさを兼ね備えた人』。そして何より『負けるもんか』というフレーズが最初に思い浮かんだと答えています。出来上がった歌詞には繰り返し『負けるもんか』というフレーズが印象的に使われています。喜美子の中には”負けじ魂”の火が灯っているのでしょうね」(放送作家)

9作ぶりに、全話平均視聴率20%には届かなかった『スカーレット』。しかし、これまでの朝ドラの歴史に一石を投じたことは間違いなさそうだ。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • 写真アフロ

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