伯母の「孤独死」で自分の人生に初めて向き合った30代独身女の話

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新型コロナウイルス感染拡大が続き、生き方、死に方を考える機会が増える中、3月に「孤独死」という深刻なテーマの新作を発表した漫画家のカレー沢薫氏。

今回、裁判傍聴をライフワークに、事件を通して人間の深い業を描いた著作の多い、ノンフィクションライター高橋ユキ氏によるインタビューが実現した。


コラムニストとしても活躍する漫画家・カレー沢薫氏の新作『ひとりでしにたい』が話題だ。

「孤独死」がテーマの本作は、35歳独身女性の主人公・山口鳴海(なるみ)が、伯母の孤独死をきっかけに、死に方、そして老後の心構えやお金について考え、生き方を見つめなおすという物語。

そんな重いテーマを扱いながらも、アイドルの追っかけに勤しむ鳴海をはじめ、魅力ある登場人物らによって、笑いを交えながら読み進められる作品となっている。

子供の頃憧れていたバリキャリの伯母が孤独死したと聞き、衝撃を受ける鳴海。追い討ちをかけるように、実の弟である父親の「生涯独身で、子供も産まず好き勝手に生きてきた罰…」という発言に打ちのめされーー

2年前に、会社員との兼業作家から専業作家となり、執筆活動を続けるカレー沢氏に、新作への想いを聞いた。

ーー「Dモーニング」読者としては『やわらかい。課長起田総司』がカレー沢先生の作品として印象深く記憶に残っていますが、そちらはED(勃起不全)に悩む男性が主人公で、今回は「孤独死したくない」という女性主人公ですね。このテーマは以前から温めていたのでしょうか?(高橋ユキ氏 以下同)

「孤独死とか将来のことは前々から考えていたんですが、漫画にしようというのは、次の連載を何にしようと話し合って決めました。作品のイベントなどを通じ交流のあった原案のドネリー美咲さんは、私より世代が少し上の女性なんですが、独身で働いていて、マンションを買って、という主人公の設定とかぶるところがあります。やっぱり将来のことも不安だし、実体験を交えて漫画にできるんじゃないかというところから始まりました」(カレー沢薫氏 以下同)

ーー「孤独死」がテーマだとなんとなく読後感が暗いものをイメージしていたのですが、良い意味で裏切られました。また話が進む中で、時折、福祉や行政についてなどのレクチャー的な要素が入っているのは、エンタメながらも学べるところを作ろうと意識されていたのでしょうか。

鳴海が務める公設美術館に、官庁から出向してきた新卒エリートの那須田。伯母の孤独死をきっかけに婚活に走る鳴海に、「結婚すれば将来安心って、昭和の発想」と辛辣な言葉で否定した後も、何かと絡んでくる

「そうですね、問題提起ばかりで全く答えがないと、やっぱり不安になって終わりになってしまうから、提示している内容が全員に役立つわけじゃないですけど、じゃあどうすればいいんだっていうのも多少描いていきたいという気持ちがありました」

ーー独身の時に、主人公の鳴海のように老後や死に際について不安をお感じになられた?

「どっちかというと結婚して、ここ数年で考えたことです。結婚したことにより安心してしまいがちですが、冷静に考えてみれば、どちらかが先に死ぬので残されたほうは孤独死ということですよね。全く独身者だけの問題ではない。

そして、『孤独死=即死』でもない。孤独死っていったらバタッと倒れて腐って発見、みたいな想像をしがちだと思うんですけど、体の調子が悪くなって、誰も助けてくれない中、苦しみながら死んでいくこともあって。『死んだ後のことはもういいか』と思ってはいても、死ぬまでの長い苦しみについては考えていない人が多いと思うんですよ。

孤独死の現場には、苦しんだ形跡が認められるケースが多いらしいです。助けを呼ぼうと玄関の方を向いているとか。『一人で死んでもいい』ということは、『最後に苦しんで死んでもいい』と思えるかどうかということですね」

両親が処分しようとしていた、ダンボールたった一箱の伯母の遺品の中に、女性用バイブを発見した鳴海。さらに、定年まで勤め上げた財産も、怪しい投資や宗教に散財して失くしていたと知り、伯母の深い孤独に思いを馳せるとともに、「孤独と不安は人の判断力を鈍らせる」という事実に気づかされる

ーー作品のなかでその通りだなと思ったのは「孤独死する人はすでに生きる気力を失っている人が多い」というところなんですが。

「『孤独死』のことを扱った本を読んだりしていると、人との関わりがなくてお金もなく、部屋を片付ける気力もなく、ゴミ屋敷みたいになっていたというケースが多い。社会的に生きていた人がバタッと突然倒れて孤独死……ということもあるにはあるんですが、やっぱり多くの場合は、前述したような前兆があります」

ーーだんだん弱っていき、人との関わりもなくなっていくということですか?

「そうですね。長く発見されないというのも、周りとの関わりが一切ないからということなんですね。関わりがあれば、一人で亡くなっても早い段階で見つかることが多いんですけど」

婚活しても、30代半ばの鳴海には親の介護や自分の世話を求める男性しかこないこと、結婚相手が死ねば最後は一人であること、子供が面倒を見てくれるとは限らないことなど数々の現実を語り、一刀両断にする那須田。鳴海にひとりで生きて「ひとりでしにたい」と決断させた瞬間だ

ーー主人公の鳴海は今後の展開で、自分なりの老後や死に方を考えていくんだと思いますが、先生は、ご自分が死ぬ時にどう死にたいという考えは決まりましたか?

「漫画では『こうしたらいい』と描けるんですが、実際、自分ができるかというと結構難しいなというのはあります。私は、コミュニケーション能力が本当にないから、絶対に周りとの関わりがなくなって死ぬパターンだというのは予想はつくんです。

だからコミュニケーション能力を活かして、地域と絆を作って、みたいなセーフティネットで乗り切るのは難しいなと。私みたいな人間は、歳をとったら見守りサービスとか施設に頼るべきなんだろうなとは感じています」

ーーたしかに、同年代の友人は、死んだ時に見つけてほしいからヤクルトを毎日配達してもらっていると言ってました。最近は新型コロナで配達が止まっているそうですが……。

「でもそういうのが大事なんですよね。何か外部との繋がりがあれば、まあ、最悪、早めに見つけてもらえるんじゃないかなって」

ーー自分もおそらく家族に先立たれたら孤独死しそうな予感がありますが、やっぱりお金を貯めておくことは必要ですよね。

「確かに、お金があれば手厚いサービスを利用できるというのはありますが、じゃあお金がない人はどうしたらいいのか。お金がないなら地域の絆で乗り切れと言われたら、ある程度のコミュニケーション能力が必要。じゃあ、お金とコミュ力の両方ない奴は孤独死するしかないのかということになるので(笑)。

でもまあそういうとき、行政にこういうサービスがあるなどの知識があれば、またちょっと違ってきますよね。もう『お金とコミュ力がなかったら情報で乗り切る』みたいな…その3つが大事かなという感じですね」

ーー鳴海のように女性一人で生きていく覚悟をしている人たちも多いと思います。先の見えない世の中、老後について、何か明るい展望はありますか?

「明るい話題は一切ないのですが、でもまあ、『独身女は老後悲惨だぞ』と言われたりしますけど、私に言わせれば『誰もが悲惨だよ』と。だから、『結婚しなかったからダメなんだ』と独身女性が悲観的になる必要はないと思います。

妻に先立たれた男性が地域と交流を持たず、家事もできず、孤独な老後を送る可能性もおおいにあります。『結婚しないことが問題なのではない』ということは伝えていきたいです」

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『ひとりでしにたい』1~3話

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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