娘に性的虐待の実父が逆転有罪 「一審が無罪になった2つの問題」

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実の娘への準強制性交等罪に問われていた父親(50)に対して、名古屋高裁は3月12日に一審・名古屋地裁岡崎支部の無罪判決を破棄し、逆転有罪の判決を言い渡した。

19歳だった実の娘に性的暴行を加えたとして、準強制性交等罪に問われた父親の被告の控訴審判決を受け、勝訴と書かれた紙を掲げる(左から)北原みのりさん、山本潤さんらフラワーデモ参加者=12日、名古屋市中区の名古屋高裁前  写真:時事

これは2017年、愛知県において当時19歳の実の娘に対して性的暴行を加えたとして、父親が2件の準強制性交等罪で起訴されていた事件である。

一審・名古屋地裁岡崎支部で、検察は父親に懲役10年を求刑していたが、昨年3月26日の判決で無罪が言い渡された。これに検察側が控訴。名古屋高裁で控訴審が行われていた。

今年3月12日の判決において、堀内満裁判長は一審を破棄し、一審での求刑通り「懲役10年」の判決を言い渡した。

父親が問われている2件の準強制性交等罪は、

・2017年8月12日、父親の勤務先が事務所として使用していた建物において娘と性交に及んだ

・同年9月11日、車に乗せた娘に対してホテルに行く旨告げた上、父親の運転する自動車でホテルに行き、同所において娘と性交に及んだ

というものであり、これらはいずれも一審においても事実と認定されている。

始まりは、娘が中学2年の頃だった

父親は、娘が19歳当時の、上記2件の罪でのみ起訴されているが、これより何年も前から、暴力や性的虐待を繰り返していた。始まりは娘が中学2年の頃だったと一審判決文には記されている。

彼女が寝ている時に、父親は陰部や胸を触ったり、口腔性交を行ったりするようになり、その年の冬頃から性交を行うようになった。これは娘が2016年に専門学校に入学してからも続き、頻度は入学前から増加して週に3〜4回程度に。

この頃、娘は弟に父親の行状を打ち明け、弟と同じ部屋で就寝するようになった。すると父親からの性交はしばらく止んだものの、2017年に入って弟が同じ部屋で寝るのを止めるようになると、父親は再び娘の寝室に入り込んで性交を含む性的行為を行うようになった。その頻度は以前よりもさらに増加したのである。

起訴されたのはいわば、父親による長期にわたる性的虐待のうちの、ほんの一部でしかない。

一審公判でも検察側はこの状況を鑑み「娘は中学2年の頃から被告から性的虐待を繰り返し受け、事件当時は被告に抵抗することが著しく困難な状態だった」と主張していた。

ところが一審判決で名古屋地裁岡崎支部・鵜飼祐充裁判長は、性交について同意はなかったと認定する一方「被告は娘に長年、性的虐待等を行って精神的な支配下に置いていたといえるが、強い支配従属関係が形成されていたとは認めがたい」、抵抗が著しく困難な状態だったかどうか「断定するにはなお合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡したのだった。

一審で「抗拒不能」で認められなかった2つの問題

一方、この3月12日に逆転有罪判決を言い渡した名古屋高裁は、事件当時の娘を「抵抗する意思を奪われ、抗拒不能(身体的・心理的に抵抗するのが著しく難しい)状態だった」と指摘している。一審と二審の判断が真っ二つに分かれたのは一体なぜだったのか。この事件をどう判断したのか。性犯罪被害者支援を主に行う、らめーん弁護士に聞いた。

「一審には2つの問題があったと考えられます。ひとつは『学習性無力の過小評価』、そして『「抵抗することが著しく困難な状態」についての高いハードル』です。

一審でも、二審と同じように、被害者に対して精神鑑定が行われていました。

鑑定人も『被告人による性的虐待等が積み重なった結果、被害者においては、抵抗しても無理ではないかといった気持ちになっていき、心理的に抵抗できない状況が作出された』と証言しています。

この状態を『学習性無力』といいますが、岡崎支部がこの鑑定を尊重していたら、一審でも抗拒不能が認められ有罪になった可能性は十分あります」

さらに一審の判決では、なぜか「抵抗することが著しく困難な状態」について、他の類似事件よりも高いハードルを設けていたと同氏は指摘する。

「一審では『抗拒不能の裏付けとなるところの強い離人状態、解離状態にあったと判断できない』と、抵抗することが著しく困難な状態である“評価”を独自に設定しています。

解離状態というのは自分をもう一人の自分が見ているような、体も動かせない感覚にあることなのですが、一審ではそこまでいかなければ『抗拒不能』とはいえない、と判断している。なぜこんなにハードルを上げたのだろうと、とても不思議に思います」(らめーん弁護士 以下同)

逆転有罪となった二審判決は、被害者である娘と、加害者である父親との関係を適切に見極め評価した結果であり、同罪の量刑相場よりも厳しい判決が言い渡されていると、同氏は言う。

「準強制性交等罪の法定刑の下限が5年。2件の起訴ですので、相場的には懲役7年前後です。

被告人が被害者の『実父だったから』ということもありますが、この父親は逮捕事実を否認している。ゆえに被害弁償無し、反省無しということで7年より重くなったのではないでしょうか」

フラワーデモやmetoo運動がもたらす意義

一審で無罪が言い渡された昨年3月は、他の性犯罪事案においても無罪判決が相次いだ。これを受け、翌月に始まったのが「フラワーデモ」だ。各地で花を持ち、または花柄の服を身につけて集まった参加者たちは、過去に自身が受けた性被害について語ることもあれば、プラカードで思いを表明することもあった。

metoo運動に加え、こうしたアクションによる司法の変化はあったのだろうか。

「フラワーデモやmetoo運動が役に立つのはこれからです。

性暴力被害者は、加害者や共感性少なめの人たちが思っているよりも、もっとささいな暴行脅迫で抵抗できなくなるということが周知され、知識として当たり前のことになれば、今後裁判所も、『抵抗することが著しく困難な状態』についての判断を変えてくれる可能性がある。

今後同じような被害が出た時には大いに役に立つと思いますし、私はすごく感謝しています」

この父親は二審判決を不服として14日付で上告している。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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