コロナ騒動の中、石川のツーリングイベントに応募者が殺到した理由

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日本海に沈む夕日。この美しい景色を見たいがために、参加するライダーも多い

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、東京五輪の延期が決まり、7都府県に緊急事態宣言が出された。各所で自粛要請が出されて閉塞感が増す状況下で、5月に開催が予定されていたバイクツーリングイベント「サンライズ・サンセット・ツーリングラリー」(SSTR)も10月への延期を決めた。

日の出とともに太平洋岸をバイクでスタートし、当日の日没までに日本海の砂浜を目指すイベントで、申し込み受付が開始された3月8日の午前6時20分から、わずか約6時間で定員5000台のエントリー枠が埋まり、さらにキャンセル待ちもいる。新型コロナの感染拡大をよそに、なぜ中高年ライダーはSSTRに熱狂するのか。自身も250ccのバイクに乗るフリーライターの佐藤修氏が、その魅力を探った。

10月に延期が決まってもキャンセル待ち

「太陽、雨、風、そして寒さと暑さ。地球の『原理原則』を受け入れながら走ったライダーは、ヘトヘトになってゴールします。しかしその一方で「今日一日を精一杯生きた」という達成感に包まれるのです。その感動が、社会の荒波に揉まれてきた中高年ライダーの琴線に触れるんですね、きっと」

こう分析するのは、SSTR主宰者で冒険家の風間深志(かざま・しんじ)氏だ。22歳から約8年間、バイク雑誌の敏腕編集者として活躍後、「冒険家」としての活動をスタート。1980年、アフリカ・キリマンジャロ峰のバイク登山に挑戦、1982年、第4回「パリ・ダカールラリー」に日本人ライダーとして初出場を果たした(総合18位)。

1984年、85年には、2年連続でバイクによるエベレスト(8848m)登山にチャレンジし、北壁直下高度6005mの世界最高度記録を達成。1992年には、バイクによる史上初めて南極点にも到達した。

SSTRは2013年春、風間氏が友人たちと計16人で、石川県羽咋(はくい)市の「千里浜なぎさドライブウェイ」をゴールに設定した、内輪のバイクツーリングを行ったことがきっかけで始まった。

東京・お台場を一斉にスタートし、各々が自由に設定したルートで石川県を目指し、日没前にゴールで落ち合う内容のツーリングだった。千里浜なぎさドライブウェイは、砂浜の海岸を走る約8㎞の観光道路で、絶景の夕日スポットとしても知られる。

「東京から約440㎞。休憩時間も含めて10時間以上走る。ようやく千里浜なぎさドライブウェイに到着した時、日本海に沈む真赤な夕日に魅了されたんです。『これはいい、素晴らしい!』と感動したと同時に、この景色は必ずライダーの心に響くと確信しました。夕焼けに照らし出された千里浜海岸の景色は、世界でも有数のオフロードレース『パリ・ダカールラリー』(パリダカ)の景色を彷彿とさせるもので、過酷なパリダカに参戦したことのあるボクだからこそ、ライダーにはたまらない景色だと確信できたのです」

その狙いは的中した。2014年の第1回SSTRは、参加台数こそ127台に留まったが、毎年確実に増えていき、第8回目の今年はとうとう5000台に到達。さらに現在、キャンセル待ちが1700台を超える。ゴールの千里浜なぎさドライブウェイを抱える羽咋市の商工観光課は嬉しい悲鳴を上げていたが、「開催日予定の5月23-24日は千里浜までバイクで走る」と公言するライダーもいるため、延期の知らせに動揺を隠せない。

「大きなイベントに成長したのは嬉しいのですが、市内のキャンプ場、民宿、旅館など全ての宿泊キャパが約1000人しかないので、宿を求める多くのライダーが、近隣市町村に“流出”してしまう。これには、忸怩たる思いを抱いていました。延期が決まっても、当地にいらっしゃるライダーがいる場合は、個人旅行として泊っていただくしかない。来ていただくのはありがたいが、全国の感染拡大の様子をかんがみると、痛しかゆしとしか言いようがない。歓迎のための特別な対応もできないんです」

同市の試算によると、4000台のバイクがエントリーした昨年のSSTR経済効果は、羽咋市だけで約2000万円というから、石川県全域に及ぼす影響は計り知れない。

パイオニア的な存在の冒険家、風間深志氏らを中心とする大会事務局が今年の開催の可否をギリギリまで検討するという

コロナの恐怖を吹き飛ばすもの

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、それでもなぜライダーはSSTRに熱狂するのか。過去に3回参加した60代の男性ライダーがこう明かす。

「太平洋岸を出発し、延々と走り続けているといつの間にか、自分と並走するたくさんのバイクがいて『同じ目的のライダーが、こんなにいる!』と鳥肌が立つほど感動する。そして千里浜なぎさドライブウェイに到着すると、全国から集まってきた数千人のライダーとバイクがいて、その向こうに日本海と夕日が見えてね……。

『なんだこりゃ、オレもバカだけど、みんなもバカだなぁ』と思うと同時に笑いがこみあげてきて、その後に涙があふれてくる。『こんなに純粋な感情が、まだ残っていたのか』と、忘れかけていた本来の自分が蘇っていることに気づくんです。この感動の前に、コロナウィルスの恐怖も吹き飛んでしまいますよ。しかし、当日に現地へ向かうかどうかは、再考しなければなりませんね」

風間氏は、こんな秘話を明かしつつ、苦渋の表情。

「過去に参加したライダーの中に、結婚記念日とSSTRの開催日が重なった人がいた。奥さんに『ごめん。どうしても出たい』と謝って参加したのですが、走っている間、『悪いことしちゃったな』という後ろめたい気持ちが拭えず、複雑な心境でゴールポストを走り抜けた。

しかしそこには、奥さんと娘さんがいた。『パパ、お疲れ様。頑張ったね』と手を振って家族が迎えてくれた。結婚記念日を袖にした、夫であり父のゴールを家族が待っていてくれた。このように、様々なドラマが生まれるのもSSTRの魅力の一つですが、今回ばかりは延期にするしかなった」

普段は仕事と生活に追われる大人が、童心に戻ることができる魅力がSSTRにはあるようだ。それはタイムを競うレースでなく、排気量や馬力による階級分けもなく、50ccの原付バイクがゴールしても大型バイクに乗ったライダーたちが心から称える。そして、ゴールした主役を地元住民が炊き出しで迎え入れる。お互いに称えあった砂浜には、いつまでも温かい余韻が残るのだ。風間氏が続ける。

「開催の10月まで、まだ約半年もある。ライダーたちに忸怩たる思いがあるのは分かるが、それまでにプランを練り直すなど、エネルギーを10月に注いでもらいたい」

風間氏は「当初の開催日にも走る」と公言するライダーに対しては、あらためて自粛を呼び掛ける予定でいる。

新型コロナに振り回される日本。SSTRの開催を心待ちにしていたライダー約5000人にとっては、延期開催予定の10月へ向け、悩ましい時間が続くに違いない。

ゴール直後の砂浜には地元の人が温かく出迎えてくれる
  • 取材・文佐藤修

    1963年生まれ 産経新聞社では営業局や事業局を経て、取材記者に。千葉県警、千葉県政、千葉市政担当記者、サンケイスポーツ社会面担当記者として活躍。2012年10月からフリー。取材活動の傍ら、千葉市中央区で古民家カフェ「アオソラカフェ」を営む

  • 写真提供風間深志氏

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