「コロナDV」妻を殴って家庭崩壊した40代男性の告白
床に散乱した食器類、怯える妻の眼差し……。都内に住む40代の男性A氏は、我を忘れた自分の暴挙を心の底から後悔した。
「一度も手を出したことのない妻を殴ってしまった……」
ここで紹介するのは、新型コロナウイルスの感染拡大や政府の緊急事態宣言の影響で、外出自粛を余儀なくされている一般の人が実際に起こしたDVの悲劇だ。
中堅出版社に勤めるA氏。会社からは3月中旬以降リモートワークを推奨され、自宅で過ごす時間が圧倒的に多くなった。だが日を経るにつれ、専業主婦の妻に対しストレスを感じるようになったという。A氏が語る。
「ちょうど仕事もうまくいっていなかった時期でした。担当した書籍に記載された人名が間違っていたり、コメントをもらった大学教授から出版後に『発言の趣旨が違う。訂正して謝罪しろ』とクレームが来たり……。気持ちが塞ぎ込みがちだったんです。
さらに在宅勤務でずっと妻と一緒にいると、ちょっとした一言が引っかかるようになりました。『会社に行かなくて大丈夫?』『他の人も家で仕事しているの?』と聞かれると、『当たり前だろ』と思い無視したりしてね。以前は、そんなにイライラすることなかったんですが……」
自宅はマンションの2LDK。結婚して20年ほどになるが、子どもはいない。妻が掃除や洗濯をしている横でパソコンをいじるのも、なんとなく居心地が悪い。
「カチンと来たのが、妻の『ついでに』という言葉です。『新聞を買いに行くなら、ついでにゴミを捨ててきてよ』『トイレに行くなら、ついでに台所のガスを止めて』……。なんだよ『ついで』って。こっちだって遊んでいるワケじゃなく忙しんだぞと感じ、つい『わかったよ!』と声を荒げてしまうこともありました」(A氏)
決定的になったのが、食事中の妻のセリフだ。妻は「家事を手伝わないなら、もっと稼いでよ」と言ったのだ。
「尊厳を傷つけられた気がして……。頭に血が上り、気がつくとテーブルの上の食器を払いのけ、妻の頬を平手で殴っていました。妻はイスから転げ落ち、頬を真っ赤にして放心状態。身体を震わせながら、怯えた目で私を見ています。私は自分の行動が怖くなり、『ご、ごめん。つい……』と小さく謝りましたが後の祭です。
以後、妻は私と目を合わせようともしない。冷え切った空気が、家の中を覆っている感じで毎日苦しい……。家庭崩壊ですよ」(A氏)
関心は寄せても干渉はしない
外出制限によりストレスがたまり、海外ではDV被害が急増している。英紙「ガーディアン」の報道では、3月下旬の2週間に警察に寄せられた虐待被害は英国で21%増、フランスでは36%も増えているのだ。
日本も他人事ではない。NPO法人「全国女性シェルターネット」によると、全国の自治体相談窓口にはコロナの影響と思われる暴力被害相談が多数寄せられているという。
被害者の大半は女性パートナーだ。なぜ自宅勤務の男性は、暴力に走りがちなのだろう。家族問題評論家で、横浜八洲学園大学教授の池内ひろ美氏が解説する。
「原因は二つあります。一つは、男性に課題解決タイプの人が多いこと。男性はトラブルが起きると、有効な方法を考え問題を解決しようとします。しかしコロナには、明確な解決法も特効薬もありません。トラブルを解消したいが具体策がないというジレンマに陥り、ストレスがたまる。そこに妻から厳しい言葉を投げかけられると、自身の能力を否定されたような気分になりキレてしまうんです。
二つ目が生活習慣。以下はあくまで男性が働きに行き、女性が専業主婦として家事にあたる場合の話ですが、男性は普段、朝出社し夜帰宅するというリズムで生活しています。家庭は妻のテリトリーで、昼間は会社員の夫にとってアウェー。近所との人間関係も妻にはあるが、夫にありません。居心地の悪さや疎外感が、ストレスにつながっているのでしょう」
夫の自宅勤務は、女性側の心理にも大きな影響があるという。池内氏が続ける。
「夫は一日中パソコンに向かっているようですが、仕事をしているのか趣味のサイトを見ているのわからない。一日3食の食事も料理するのは自分で、夫は食べるだけ。『家事もしないの? 結局なんの役にも立たないじゃない』と、不信感を募らせ夫の能力に疑問を持つようになるんです。女性が暴力に訴えることは稀ですが、言葉で相手を責めることはありえます」
対策はあるのだろうか。
「相手を理解しようとしないことです。理解できないから不満が募る。わかり合おう、相手は理解してくれるだろうと考えるから、逆の結果が出た時に怒りが爆発してしまうんです。相手に関心は持っても、お互いに干渉しない。ずっと家に一緒にいても、ある程度の距離感を持って接することが大切です」
コロナウイルスの影響で一日中家族と一緒にいる人の一部は、大きなストレスを抱えている。取り返しのつかない悲劇を起こす前に、一度冷静に自分自身を見つめなおすべきかもしれない。