都の制度変更で「マンションは管理を買え」の格言は実現するか?

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空から見た東京  写真:Natsuki Sakai/アフロ

定期総会出席者は3割強 「管理組合」の実態

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が発令された。今後、様々な活動自粛で感染者数を抑制し、医療体制を維持しつつ、やがてはワクチンの開発によって収束を迎えるだろう。問題は収束までの犠牲者数と時期だ。

ただ、コロナとの戦いと並行して、私たちの日常の暮らしも維持しなければならない。例えば住居。我が国の分譲マンション戸数は実に約700万戸に達しているが、最近「マンション管理」に関わる重要な動きがあった。その実態をマンション管理士である村上智史氏の寄稿で報告する。


「マンションは管理を買え」と言われて久しい。

しかし、分譲マンションの運営を担う「管理組合」の運営実態はその理想からは程遠い。年に1回開催される定期総会でさえ、当日の出席率は平均3割強(委任状等の提出を除く)にすぎない。

筆者・村上がマンション管理士としてプロのコンサルタントになって今年で8年目を迎える。お陰様で管理組合の顧問先も徐々に増えて今日に至っているが、そんな「民度」の高い(?)マンションでさえ、年度初めの理事会で行われる役員の互選では、「理事にはなるのは仕方ないが、理事長だけには絶対なりたくない」と考える人ばかりで、次の理事長ひとり決めるのもなかなか容易でないのが実情だ。

もはや死語だろうが、かつて不動産業界では「住宅すごろく」という言葉があった。

この言葉の意味するところは、マイホーム購入のステップとして、狭めのマンション ⇒ 広めのマンション と進み、最後は庭付きの一戸建てで「あがる」ことが理想とされていた。

このような考え方が成立した背景には、「地価は必ず上昇する」という土地神話の存在があった。ローンによる資金調達を前提に、土地のキャピタルゲイン(売買差益)を期待してマンションを購入し、うまく売り抜けながら広めの戸建て住宅を手に入れる。これが勝ち組サラリーマンの「夢」であった。

しかし、バブル経済の崩壊とともに低成長時代に突入し、少子高齢化や非婚化が進行したこともあり、マンションの永住志向が高まっていく。

国交省の最新調査(平成30年度「マンション総合調査」)によると、全体の6割以上が今住んでいるマンションに永住する意向があるという。

それは結構なのだが、安心して老後を過ごして永住できるように管理組合の運営に積極的に参加しようという方は、依然として超少数派である。

筆者が考えるに、その根底には「マンション管理を安心して他人に任せるために、自分たちは安くない管理費を毎月負担しているのだ」という意識が多分に影響しているように思われる。

しかし、残念ながらそれはまったくの考え違いである。誤った理解を改めないと、マンション購入者は経年とともに様々なリスクに直面することになる。

低すぎる分譲時の修繕積立金 最終的には4倍以上に増額も!?

最も深刻な問題が修繕積立金の不足に伴う増額リスクだ。なぜ積立金が足らなくなるのかというと、理由はきわめてシンプルで、単に販売当初の修繕積立金の徴収額が低すぎるからだ。

ほとんどすべての新築マンションでは、本来必要な金額の半分以下(専有面積 m2あたり月額90円台)しか徴収していない。最初が必要な金額の半分に満たないなら、その後の30年で帳尻を合わせようとしたら、最終的な仕上がりは当初の4倍以上になるだろうことは容易に予想がつく。

なぜ、当初の修繕積立金がそんな低い水準に設定されているのか?

それはひとえに売り主であるデベロッパーの都合である。マンションの分譲価格と管理費は、その系列の管理会社を含めて彼らの売上になる。もし修繕積立金を均等積立方式に基づく正規の金額に設定したら、購入者の毎月の可処分所得が減ってしまい、売主が売りたい価格でマンションが売れなくなるからだ。

それでも、修繕積立金が段階的に増額改定されていくマンションはまだよい。

だが、増額改定は別に「義務」というわけではない。改訂するかどうかは、あくまで管理組合の自主判断に委ねられている。たとえ販売時の長期修繕計画上では増額改定を予定していても、管理組合がその気にならない限り、当初の金額のまま見直されず放置されてしまうし、実際そういうケースも珍しくない。

修繕積立金の改定を怠ってきたマンションでは、2回目の大規模修繕の時期(築25年目前後)が近づく頃になって、ようやく資金不足に陥いりかねないことに徐々に気づいて慌て始める。

ただ、その頃には、当初の購入者がそろそろサラリーマンとして定年を迎える年代に入りつつあることが多く、大幅な増額を求められると組合の提案に抵抗するケースが見られる。

駐車場収入の減少で管理費会計もひっ迫?

それでは、購入者にとってもうひとつの固定費である「管理費」については見直さなくても大丈夫かと言うと、実はそんなに「安泰」でもない。その背景には消費税の増税もあるが、管理組合特有の事情として「駐車場収入の減少」が影を落としつつあるからだ。

実は、管理組合の収入源のうち管理費の次に大きな割合を占めるのが、敷地内の駐車場の使用料である。ただ、昨今の高齢化や若者のクルマ離れ、ならびに各種交通機関の普及や駅近物件の人気によっておしなべて稼働率が低下する傾向が顕著に現れている。

そのため、最近の新築分譲マンションでは、駐車場の附置率は総戸数の平均3割弱(東京23区内)まで抑えられている。今からほんの20年前は、なるべく全戸分の駐車場が用意することがマンションの早期完売のセールスポイントになっていたことを考えると隔世の感がある。

駐車場の稼働率低下に伴って使用料収入が減ると、組合の収入も減る。

その一方で、管理組合の支出については増税に加えて経年とともに修繕費やマンション保険料が増加する傾向にあるため、当初のような収支上の余裕はなくなり、ひどい場合は単年度で赤字に転落するケースも出てくる。そうなると管理費についても見直しを余儀なくされることになる。

こうした問題について、多くのマンション購入者は「管理会社がきっと親切に助言・サポートをしてくれるだろう」と期待しがちである。しかし、実際には「何もしてくれない」ことの方が多い。

なぜかというと、こうした管理組合の窮状は、管理会社の利害には直接的な関係がないからだ。彼らの売上である「管理委託費」が支払えなくなればさすがに慌てるだろうが、管理費の増額を容認してもらえば「問題」は解決するし、もしそれもできなくなった場合には、管理組合に解約を申し出て縁を切ればよいからである。

要するに、修繕積立金にしろ、管理費にしろ、管理組合の財政を支える収入とそこから支出する管理委託費や修繕費をどのようにマネジメントするかということが長期にわたって大切な資産価値を守るための「一丁目一番地」というべき最重要課題なのだ。

にもかかわらず、年に1回の総会すら参加せずに無関心を決め込んだり、管理会社に「丸投げ」していると、気付いた時にはもはや取り返しがつかない状況に陥りかねないリスクがあることを肝に銘じるべきである。

保険料高騰を機に登場した「マンション管理適正化診断サービス」

しかし、そんな無関心層の多いマンション管理組合の意識を変えようという複数の動きが徐々に生まれてきている。その一つが、マンション保険の引受け条件にかかる「管理状況の評価システム」の登場である。

これは日新火災海上保険の「マンションドクター火災保険」の発売(2015年)に端を発するものである。

ご承知の通り、近年地震・台風などの災害の頻発に伴って損害保険料は増額の一途にある。それに加えて、マンションについては経年劣化に伴って各所で漏水のリスクが上昇することから、高経年マンションの場合、契約更新に際して保険料が従前の2倍以上増額になることも少なくないのだ。

そんな中、損害保険会社の日新火災は、「高経年=高リスク」との判断にもとづいた同業他社の保険料の決定方法に対抗し、「良好な管理・修繕状況=高経年でも低リスク」と判断できる場合には、保険料を割引くという画期的な商品を開発した。

ただ、門外漢の損保会社が独力で対象マンションの管理が良好かどうかを判断することは困難である。かといって、そのマンションの管理会社に自己診断させると「お手盛り」になって利害相反のリスクが生じてしまう。

そのため、診断の担い手である第三者の専門家として「マンション管理士」に白羽の矢が立ち、日本マンション管理士連合会(日管連)と提携のうえ、国の定めたガイドラインをふまえた評価診断システム(マンション管理適正化診断サービス)を構築したのだ。

具体的な診断項目としては、

・総会・理事会などの開催状況
・滞納管理費の有無
・議案書や議事録の保管状況
・各種設備の点検状況
・大規模修繕の実施の有無
・消防計画の提出や防火管理者の選任の有無

など多岐にわたっている。

診断結果の良好なマンション 住宅情報サイトに掲載

管理組合からの依頼のもと、診断資格を有するマンション管理士が日管連から派遣され、管理組合の理事長らに問診しながら診断を行う。その後、診断結果にもとづく評価点に応じて割り引かれた保険料が提示される。

この診断は「マンションドクター火災保険」の見積もり提示と引き換えに「無料」で受けられ、累計契約実績は今年の1月末時点で7,000件を超える「ヒット商品」となっている。

受診した管理組合としては、その結果が良くても悪くても、今後、保険料の負担を増やさないということをモチベーションとして、管理の質を向上させようという意識が高まることが期待される。

なお、診断結果の良好なマンションについては、管理組合の事前の承認を得た上で、その診断結果が不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」にも掲載されることになった。

こうした仲介物件サイト上で情報開示が進んでいけば、管理状況の良いマンションは相対的に好条件で売れ易くなるし、あらかじめ購入検討者も管理組合の運営状況を概観できるので不安が軽減される。

また、管理の良し悪しが資産価値に反映されるという認識が広がれば、区分所有者も今までのように管理組合の運営に無関心ではいられなくなるだろう。

都の「管理状況届出制度」 管理不全マンションがあぶり出される!

ところで、政府は2月28日、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会へ提出した。

そこでは管理組合による「管理計画の認定制度」の創設が盛り込まれ、法案が成立すれば2年後の2022年に全面施行される予定だ。

本制度の担い手は、基本的には都区部、市単位の各自治体が想定されている。各自治体は、「修繕積立金が不足」「総会が適法に開かれていない」などの状況を把握しながら、管理組合に対して助言や指導、勧告を行えるようになる(罰則規定はなし)。

この制度に先行する形で、全国で最もマンションの多い東京都(戸数ベースで全体の26%強)では、今年1月「マンションの適正な管理の促進に関する条例」が制定された。

この条例の対象になるのは、1983年末以前に新築された高経年物件で、

・管理組合の運営体制
・管理規約
・総会の開催状況
・管理費及び修繕積立金の設定状況
・修繕の計画的な実施

などを今後5年ごとに届け出る必要がある。

また、都は正当な理由なく届出がない管理組合や区分所有者等に対し、管理組合等の協力を得て当該マンションに立ち入って書類その他の調査ができる。

築37年を超える高経年マンションが対象になっていることからも、今回の条例は都の狙いは、管理組合が設置されていない、あるいは設置はされていても機能していない「管理不全マンション」をあぶり出し、是正させるための指導を実施したいということだろう。

一方、2年後に施行される管理計画認定制度においては、修繕資金の積立てや管理組合の活動を計画通り実施する物件の物件については、税制上の優遇措置などを検討するという報道もなされており、今後、優遇策の具体的な内容が詰められる見通しだ。

現状は中古マンションを購入する際に、交通や日照条件、部屋の面積といった基礎情報以外に、修繕積立金の不足や管理組合の活動状況まで詳しく説明されることはきわめて少ない。本制度が施行されれば、マンションの管理状況も自ずと開示されるため、購入者の物件選びに大きく影響してくることは間違いない。

ましてや管理良好な物件が税制上の優遇が受けられるようになれば、ますます中古物件間の優勝劣敗が明らかになるため、管理組合や管理会社の意識改革が促されるだろう。

「マンションは管理を買え」という格言をようやく実現できる日が近づきつつあるのかもしれない。


◆文・村上智史

マンション管理士(東京都マンション管理士会所属)
1987年早稲田大学商学部を卒業後、三井不動産株式会社に入社。
2013年より株式会社マンション管理見直し本舗 代表取締役。

マンション管理見直し本舗のサイトを見る

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