コロナで裏方さんはバタバタ…表面化したラグビー新リーグの課題

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試合中の動画を撮影する高橋信孝チームディレクター。多岐にわたる仕事の一部に過ぎない

日本ラグビー協会(日本協会)は3月、今季の国内トップリーグ(TL)の残された日程と5月下旬の日本選手権の中止を決定。今季は新型コロナウイルス感染拡大防止などのために延期と中止が相次いだ。不測の事態への対応力を問われたのはチームのスタッフだった。

NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(NTTコム)は、2010年からTLに加盟している。2018年には千葉県浦安市に3階建てのクラブハウスなどの「アークス浦安パーク」を設置し、広大な天然芝グラウンド2面はオフ日などに一般開放。しかし2月中旬からは、それまで歓迎していた平時の練習見学も当面中止とした。何よりチームスタッフは不測の事態への対応力を問われ、穏やかな休日の風景は記憶のかなたに追いやられていた。

というのも今季のTLは、度重なる延期と中止の発表を余儀なくされたからだ。最終的には、すべての公式戦をおこなわなくなった。

2016年7月に就任した高橋信孝チームディレクターは、この間に現場のためにしてきたことを控えめに振り返る。

「少しは、(これまでの献身が)選手に伝わればいいかなと。なかなか、僕たちからこんなに頑張ったんだよとは言えないのですが」

最初に延期が発表されたのは2月26日。新型コロナウイルスの感染拡大防止のためだ。同月29日、3月1日の第7節、続く7、8日の8節をそれぞれ3月21、22日、5月2、3日に実施されると決まった。

さらに中断期間中にあたる3月9日には、TLの太田治チェアマンは薬物による逮捕者が同年度に2度も出たことを重く見て「コンプライアンス教育の再徹底」という理由で同月中の3節分の中止を決め、コロナウイルスの感染拡大も終息の気配を見せないことから、3月23日に、史上初のシーズン不成立を決めた。

そのため各チームの裏方スタッフは、予め人数分のホテル、新幹線および飛行機などのチケットを予約するが、今回は通告のたびにすべてキャンセル。前身のNTT東日本などでプレーしていた高橋氏によれば、最初の決定から少し時間が経ってから「28名分」のキャンセル料のみを日本協会が補填することになった模様だ。もともとは、キャンセル料に関する話し合い自体がなされていなかったようで、チームが負担した満額は返ってこなかった。

さらに4月2日には、例年TL後に開催されていた日本選手権および同選手権出場決定戦も中止にした。加盟する16クラブは、これら2度の延期措置と1度の中止措置をそれぞれ正式発表日の3日前の夕方に共有。この際に実施されるテレビ電話会談は、クラブのマネジメントスタッフ同士の議論の場ではなく、太田チェアマンが決定事項を伝える場に近かったと複数の参加者は話す。

不測の事態とそれに伴う意思決定はまず、各クラブの現場に新しい仕事を生むこととなった。最たるものは、宿泊と交通のキャンセル業務だ。

試合をする際は、1チームあたり出場選手、バックアップ選手、コーチングスタッフ等40名超の前日宿泊と往復交通費を要する。最近では、在京チームが東京での試合前日にホテルへ泊まる例も多い。

NTTコムでキャンセル業務にあたったのは、後藤弘光主務。2月には第8節の代替開催に伴うゴールデンウィーク期間中の大型予約をしながら、すべてのリーグ戦をおこなわないことになった3月下旬にその時期を含む複数日程のキャンセルを旅行代理店に申し出た。相手の代理店がグループ企業だったとはいえ、綿密な連携が求められた。

「代理店の担当の方とはしょっちゅう打ち合わせをさせていただいて、信頼関係がありました。(予め)急に決まる(中止が)可能性もありますと言い続けて心構えをしていただいたためか、おかげさまで(キャンセル料の総額は)最小限に抑えられました」

試合中に交代選手を告げに行く後藤弘光主務。メーンの仕事は全く違う

TLは年明けからとみられる翌シーズンを最後に、新しい道を歩み始める。

日本協会は、各チームがホームグラウンドを持つ新リーグを2021年秋に発足したいとしているのだ。当初は完全プロ化を目指していたが、一部企業との連携不良などがあったためクラブの法人化を義務付けない形に落ち着きそう。新型コロナウイルス感染拡大や代表戦日程の変化に伴い新リーグの開幕時期も不透明ななか、現在のTLチームからは新リーグ側への提言も寄せられている。

実際、TL側には各加盟クラブの親会社からの出向組は多く、そのほとんどは競技経験者。しかし過去にはTL側にチーム運営経験者がいた時期もあったが、前述のキャンセル料金の件などを振り返れば、より現場への想像力が求められるのは確かだ。

さらに新リーグができる場合は運営サイドが別途法人を立ち上げる見通しだが、その人員がどれだけ現場の動きに敏感になるのかは未知数である。

高橋氏は「我々は決して協会を批判したいわけではありません」としながら、新リーグを立ち上げる際には各クラブの現場運営に携わった者の知見が必要だと述べる。

「TLでは定期的な代表者会議、運営担当者会議がおこなわれていますが、実際に色々なレギュレーションや仕組みを組む際に現場の声が反映されているのか。そもそも現場をご経験されている方が(意志決定グループに)少ないのかもしれないと感じる。であれば、各チームから現場側の人間が1人ずつ(出向及び長期出張のような形で)出て、意見をいつでも言い出せる場を作った方がいいのかもしれません。

僕たちのチームだけでも20名以上のスタッフがいるなか、それを束ねる協会が数名で運営されている。少ない人数で運営されているイメージがあって大変だと感じます。一般の会社と同じで、誰もがマルチタスクを持っているわけではない。誰かに集中しすぎている作業があるのであれば、時には人件費をかけて対応してもいいと思います」

後藤氏は、2017年3月まで日本協会と同じ建物で活動する関東ラグビー協会に在籍。ガバナンスと現場の両方を経験したうえで、こう思うのだった。

「協会にいた時の私にとっては、チームは試合会場に来て、終わって、帰ってゆく存在でした。ただ、その中に入ってみると、試合に至るプロセスでものすごい量の準備をするとわかりました。協会にいた頃には『また、チームがわがままを言っているよ』と思っていたことも、こちら(チーム)からしてみるとわがままではないんです。

細かいことですが、会場の駐車場を(幅広く)確保するにしても、(以前は)『そんなに止めなくてもいいでしょ』と思っていましたが(現在は)『応援してくれる役員の方に見てもらいたいから』とわかる。そのチームを勝たせるため、よいものを求める。そこに、スタッフは意識を傾けているんです。私が協会にいた頃にしたことは、まだまだ足りなかったなと感じています」

新型コロナウイルス感染などにともなうトラブルは、日本ラグビー界にとっては課題という名の財産となりうる。

高橋信孝チームディレクター(左)と後藤弘弘光主務
  • 取材・文・写真(3枚目)向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 撮影高見博樹(試合中の2枚)

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