外出自粛のいま読みたい「新型コロナを知るための6冊」

「疫学」を知ればニュースの理解が深まる。科学ジャーナリスト川端裕人氏が選んだオススメ本

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舞台は東京近郊にある架空の町・崎浜(さきはま)。疫学者のヒロイン、ケイトはこの町で発生した疫病の謎を追う。子供たちが罹(かか)っても軽症だが、大人が感染すると爆発的な熱に襲われ、重篤な肺炎に陥ってしまうのだ――。川端裕人(ひろと)氏による小説『エピデミック』に描かれた光景は、現在の新型コロナをめぐる事態と酷似している。

「今回のようなことになると、感染症をテーマにした本が〝予言〟したかのように言われます。ただ、これは予言でも何でもなく、感染症の専門家の方々に取材した時『こんな病気があったらイヤだろう』と考えたことを書いたにすぎないのです。

 新興感染症は、情報が少ないのが当たり前で、すべて手探りで対策しなければなりません。その中でぎりぎり科学的な思考をしていくにはどうすればいいかということを、フィールド疫学者は意識的に行っている。これはちゃんと書いておきたいと感じたのです」(川端氏)

川端氏は、アジア人類進化学をテーマにしたノンフィクション『我々はなぜ我々だけなのか』(講談社)で’18年に講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞を受賞した気鋭の科学ジャーナリストだ。

そんな川端氏が、外出自粛の今、腰を落ち着けて読みたい本を推薦する。

「現在、連日流れている専門家からの情報発信の9割は、実は疫学がベースです。疫学とは集団の中で発生する病気の原因や予防、制御方法などを研究する学問のこと。疫学的常識を踏まえた上でエンタメとして優れている2冊と、基本的な知識が学べる3冊を選びました。

一般の方が専門書を読む時のコツは、ディテールをすべて理解しようと思わなくていい、ということ。書いてあることを大掴みできれば、ニュースなどで流れる情報の理解が進みます。じつは私自身、そうやって読んでいるのです」

『エピデミック』 川端裕人(角川書店)

川端裕人氏(上)による2007年刊の小説『エピデミック』。執筆にあたり、国立感染症研究所の医師団や現「新型コロナウイルスクラスター対策班」データ解析チームの西浦博氏に取材をしている

天冥の標(てんめいのしるべ)Ⅱ 救世群 小川一水(ハヤカワ文庫JA)

(川端評)これまで様々な感染症小説が書かれてきたものの、現在の新型コロナ感染症のスケールに比べたら、「小説の方がまだマシ」と思える状態になってきた。しかし、本作で登場する「冥王斑ウイルス」は、それ以上だ。地球規模(のちには宇宙規模)になっていく感染症と人類の物語が、とんでもないスケール感で描かれる。絶望的な感染症を前にした際の究極の防疫方法、社会につきまとう差別問題といったテーマが、著者の疫学理解の的確さに裏打ちされて、これでもかというほど注ぎ込まれている

リウーを待ちながら 朱戸(あかと)アオ(講談社・イブニングKC) 電子書籍あり

(川端評)ドラマ化された『インハンド』の作者によるアウトブレイクコミック。架空の町・静岡県横走市で起きた新興感染症感染拡大の顛末がテーマで、タイトルの「リウー」は、カミュの名作『ペスト』に登場する医師の名前にちなむ。

 また作者には他に『Final Phase』(PHPコミックス)という同じくアウトブレイクをテーマにした作品がある。いずれも臨床医が主人公だが、疫学調査もこなしているという設定だ。都市封鎖などがリアルに描かれており、我々の現況とシンクロする部分がかなりある。それゆえ、心揺さぶられすぎることがあるかもしれないという点には、ご注意を

感染症疫学ハンドブック 監修・谷口清州(医学書院) 電子書籍あり

(川端評)現在、各都道府県の医療現場では、新型コロナに感染した人からのリンクをたどって接触者をつきとめ、検査をし、さらにリンクをたどる地道な活動が続けられている。そういった「フィールド疫学」を実践的に紹介するほぼ唯一の日本語書籍。今、必要な疫学的な「常識」がかなりカバーされている。フィールド疫学者を養成する国立感染症研究所のFETP-J出身者が執筆しており、「ハンドブック」を超えたライヴ感がある。この瞬間にも、本書を片手に飛び回っている保健所職員も多いはず

基礎から学ぶ楽しい疫学(第3版) 中村好一(医学書院) 電子書籍あり

(川端評)医大生が最初に疫学に接するテキストとして人気の書。ニュースを読み解く際にも役立つ。例えば、今回、「BCGワクチンが、新型コロナウイルス感染症の予防に効果があるのでは?」という話が出た時に、この発想はどういう研究デザインに相当して、突き詰めればどれだけはっきりと言い切れるか、が即座に分かる。また、今や誰もが知っておくべき、研究に忍び込む様々なバイアス(=データの歪み)なども記述されている

パンデミック・シミュレーション 感染症数理モデルの応用 大日康史ほか(技術評論社)

(川端評)感染症の流行メカニズムを数式で表す「数理モデル」は、もはや、知らずには済ませられない要素だ。2009年のインフルエンザ(H1N1型)パンデミックの際のシミュレーションを解説した本書は、数理的な記述を最小限にとどめているので、とても読みやすい。当時のシミュレーションでは、学校の休校よりも、外出自粛(休業者の自宅待機)が大きく効くことが分かっていたなど、今回に通じる部分が大きい。クラスター対策班などの専門家がどんな情報をもとにどんな検討をしているか、その概略がイメージできるようになる

『FRIDAY』2020年4月24日号より

  • 撮影結束武郎 神谷美寛

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