NHK職員が2カ月の停職…巨大組織を動かしたある学生の告白

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日本中がコロナ問題に揺れるなか、4月3日、NHKは制作局の20代ディレクターに対し、停職2か月の懲戒処分を下したことを発表した。このディレクターが昨年の7月から約半年間にわたり札幌市内の飲食店の経営にかかわっていたことを問題視し、「報酬は得ていなかったが、軽率な行動。職員倫理の徹底を改めて図ってまいります」と処分の理由を説明した。

2か月の停職は、決して軽い処分ではないが、NHKがこの処分を下すに至るまでには、ひとりの学生の奮闘があった。

NHK放送センター(写真・AFLO)

そっくりそのまま

話は2018年6月にまでさかのぼる。当時札幌放送局に勤務していたこのディレクター(ここではA氏とする)は、大学生が経営している札幌市内の飲食店が人気を集めていることを知り、取材を始めた。

店長は現役北海道大学生(当時)のIさん。大学入学後、学費を稼ぐために思い切って札幌市内に飲食店を開いた。学生らが中心となってワイワイ騒げる「コミュニティーバー」の形態を採り、Iさんのアイデアで、「希望すれば誰でも一日店長になることができ、その売上の中から、店長にギャラを配分する」などのシステムを導入したところ、これが大当たり。店長をやってみたいという人が続出し、その日の店長がたくさんお客を呼ぶことで、店は連日にぎわいを見せたという。

その噂を聞きつけたのか、現役北大生が飲食店を経営というモノ珍しさも手伝ってか、オープンからほどなくして、A氏が「NHKの番組で取り上げたい」と取材依頼にやってきたという。

「店の宣伝になるなら」と快く取材に応じたIさん。取材時に熱心に話を聞くA氏に対して、本来は隠しておきたい経営ノウハウをはじめ、すべてを包み隠さず明かしたという。

その様子は、同年8月20日の『おはよう北海道 土曜日プラス』のなかで「大学生が経営する人気の飲食店」として放送された。放送時間はそんなに長くはなく、Iさんが明かしたノウハウなどについては触れられなかったが、IさんはNHKの番組で自分の店が取り上げられたことに満足したという。

問題はここからだ。翌19年の7月、札幌市内にIさんの店とほとんど同じ形態をとるコミニティーバーがオープンしたのだ。ライバル店の登場に危機感を覚えたIさんがその店について調査したところ、なんと、ディレクターのA氏が経営者であることが判明した。

Iさんが、その時の驚きについて語る。

「多少似ている、ぐらいなら起こりうることかもしれませんが、1日店長を募集して宣伝と集客を彼らに任せる形態から、Googleカレンダーを用いたスケジュール管理・共有方法もまったく同じ。偶然では起こりえないと思いました。

僕に近い人がアイデアを真似したのかと思って調べてみたら、なんと店の経営者がA氏だと判明したんです。あの時に取材で根ほり葉ほりと聞いていたノウハウをそのまま使って店を開店したのだろうか…と思い、ぞっとしました」

NHKからの通達

Iさんの言葉をもとにすれば、A氏は取材で得た経営ノウハウをもとに店を開業したことになる。NHKの原則に照らすと、まず職員が別のビジネスに携わることが問題だ。そのうえ、取材で得た情報をサイドビジネスに生かしていたのだとすれば、報道倫理的にも問題があるだろう。

A氏は、自身のFacebookにもお店の投稿していました。NHKの職員でありながら、堂々と副業を宣伝していたことに苦笑しました」

憤りを抑えきれなかったIさんは、今年1月20日、NHK札幌放送局に電話し、「取材で得た情報を職員が別の場所で利用することは許されるのか」「NHKは職員の副業を認めているのか」などを問うたという。

Iさんのもとに札幌放送局の放送部長名義で文書が届いたのは、一週間後の1月27日。ちなみに、この通達と前後して、A氏の店は閉店している。

「その文書には、『取材で知りえた情報を私的に利用することは許されず、規則にのっとり厳正に対処していく』といったことが書かれていました。それはそうでしょう。当然、A氏からの謝罪もあると思っていたのですが、いつまでたっても連絡がない。

謝罪があればそれでおしまいにしようと思ったのですが……。納得のいかないことばかりなので、弁護士を立てて、3月に入ってから、NHK本社に内容証明郵便を出しました。A氏の店の開業に伴い損失を被った金額を弁護士と相談し、100万円の損害賠償を求める民事裁判を起こすことを伝える内容でした。経営ノウハウは僕にとって財産ですから、損害賠償を求めるのは当然だと思いました」

こうしたIさんからのアクションを受け、調査を行ったのだろう。NHKは前述のとおり、4月3日にA氏の懲戒処分を発表。同日昼のニュースでもこの処分について報道し、「飲食店の開業準備の過程で、運営を任せる知人と取材で得た情報の一部を共有していた」ことも、処分の理由として説明された。

どの程度の「模倣」があったと判断したのかはわからないが、最終的にNHK側はIさんの主張を認めたということだろう(なおフライデーデジタルの取材に対して、NHK広報局は「個別の職員に関することはお答えしていません」と回答)。

それを見たIさんは、驚くとともに安堵したという。

「少し時間はかかりましたが、NHKは厳正に対処してくれたのだなと感じました。その翌日には札幌放送局の幹部2人から電話で連絡があり、直接謝罪を受けました。

『停職2か月の懲戒処分』というのは非常に重い処分だと思いますし、NHKもキチンと謝罪してくれた。この2点を持って、今回のことは気持ちの整理がつきました。A氏への損害賠償請求も行わないことにしました。

理不尽だと思ったことに対しては、たとえ相手が大きな組織であっても声を上げ、行動に出る。それが重要なんだと皆さんにもお伝えしたいと思います」

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