逆風スタートの朝ドラ『エール』が、序盤から涙と共感を集めるワケ

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新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、朝ドラ『エール』は3月30日のスタートから粛々と放送を続けている。

脚本家の降板騒動にはじまり、重要な役で出演予定だった志村けんさんの死去、物語に関連した東京オリンピックや聖火リレー、プロ野球や選抜高校野球大会の延期・中止、さらには収録が中断に追い込まれてしまうなど逆風ばかり。しかし、ここまで視聴者の評判は、むしろ好意的なものが圧倒的に多い。

最終的に名作の誉れ高い『スカーレット』がそうであったように、まだ登場人物に愛着のない朝ドラの序盤は好意的な声があがりにくいものだが、視聴者の支持をつかんでいるのではないか。

では、いったい何が支持されているのか? 第3週までの物語を振り返ってみると、「ネタバレ」と「1話1テーマ」という2つの勝因が見えてくる。

NHK朝ドラ『エール』で主人公・古山裕一を演じる窪田正孝/写真 アフロ

作風を決定づけた第1話のラスト

第1話の放送後、「冒頭から驚かされた」という声があがっていた。確かに紀元前1万年の原始人や、現代のフラッシュモブによるプロポーズはインパクト十分だったが、そこに当作の本質はなく、ただの遊び心にすぎない。深読みしたとしても、「これくらい自由な脚本・演出でやっていきますよ」という前振り程度だろう。

オリンピック・マーチを作曲しながらも不安のあまり開会式から逃げ出そうとした古山裕一(窪田正孝)に警備員(萩原聖人)が、「先生の曲は人の心を励まし、応援してくれます。先生の晴れ舞台ですけん。どうか会場で!」と語りかけるシーン。

さらに、意を決してスタジアムに歩みを進める裕一と妻・音(二階堂ふみ)の姿こそが当作の本質。「この夫婦がいかにしてこのような二人になったのか。そこには長い長い話がありました」というナレーションも含め、“ネタバレの物語”という感がある。

2010年代から朝ドラは実在の人物をモデルにした作品が多く、いずれも成功が約束されたネタバレの物語だった。2020年代最初の『エール』もその流れに沿った作品だが、モデルの古関裕而は「オリンピック・マーチ」「栄冠は君に輝く」「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」「紺碧の空(早稲田大学第一応援歌)」「君の名は」などネタバレの数がとびきり多い。

「各曲のエピソードがどこまで描かれるか」はわからないが、第1話に成功の象徴であるオリンピック・マーチを持ってきたことからも、「視聴者が安心して、いい意味でのネタバレを楽しめる作品」というムードを漂わせているのは確かだ。

1話1話にはっきりとしたテーマ

『エール』のようなネタバレ型の作品で必須条件となるのは、長所より短所のほうが多い主人公のキャラクター。実際、子ども時代の裕一は、運動や武道も人と話すこともすべて苦手で、いじめられっ子だった。“できる人間の成功物語”では愛着が湧かず、視聴意欲をかき立てられないため、この設定は当然なのだろう。

一方の音は言いたいことをはっきり言う快活な女性として描かれている。そのことがわかった瞬間、「この朝ドラは音楽の才能豊かな夫を妻が気丈に支える物語なのかな」とイメージした人は少なくなかっただろう。さらに言えば、視聴者にそれをイメージさせたのは、子役たちの演技が素晴らしかったからにほかならない。

あらためてここまでの物語を順に見ていくと、「1話1話にはっきりとしたテーマがあり、前振りのみで終わる軽いエピソードがない」ことに気づかされる。

たとえば第1週は奇抜な第1話にとらわれがちだが、2話―10歳の裕一(石田星空)が音楽と出会う。3話―運動会で初めて音楽でエールを送られる。4話―音と出会い、初めて作曲する。5話―恩師から音楽の才能を認められる。

第2週は、6話―村野鉄男(込江大牙)との友情が芽生えたが、まさかの夜逃げ。7話―音(清水香帆)がオペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)と出会う。8話―音が琴をやめて歌を志す。9話―音の父・安隆(光石研)が亡くなり、家業が危機に陥る。10話―家族一丸で危機を乗り切り、学芸会でかぐや姫を演じる。

第3週は、11話―17歳になった裕一は商業学校へ進むが、養子に出す話が持ち上がる。12話―所属するハーモニカ倶楽部で作曲に挑み、会長に勝って認められる。13話―演奏会で見事に指揮者を務めるが、養子に行くため音楽をあきらめる。14話―銀行で働くことになり、ある女性に恋をする。

毎話はっきりとしたテーマがあるだけに、序盤から名シーンが続出。たとえば、10話の音が舞台上から亡き父に向けて「朧月夜」を歌うシーン、13話の悲しみをこらえて最後の演奏会に挑むシーンは視聴者の涙を誘った。幸せな日々以上に、「いじめ」「家業の危機」「養子縁組」「父の死」「夢を断念」などの辛い出来事をきっちり描いているから泣けるのだろう。

しかも「裕一と音が出会い、恋に落ちる前の幼少期を週単位で交互に見せる」という難易度の高い構成に挑んでいる。裕一の物語も、音の物語も、1話1話に見応えがあるから、視聴者は違和感なく見られるのだ。

NHK朝ドラ『エール』公式サイトより

一方で「朝ドラはじまって以来の異変」も

スタッフとキャストが噛み合った上々のスタートを切ったが、「この先も順風満帆か」と言えば、そうとは言えない。志村さんが亡くなったことで、裕一に多大な影響を与える作曲家・小山田耕三の登場シーンに影響が出ているという。

また、脚本家の交代があったことで、「中盤に朝ドラはじまって以来の異変が見られる」とも聞いた。ネタバレを避けるべくここで詳細はふれないが、新型コロナウイルスの感染拡大による収録の中断も含め、好スタートを切りながら尻つぼみに終わりかねない不安も感じさせる。

それでも窪田正孝と二階堂ふみの技量に疑いの余地はなく、さらに森山直太朗、山崎育三郎、野田洋次郎、柴咲コウ、古川雄大、井上希ら“歌えるキャスト”の存在が“聴いて楽しい朝ドラ”としての裏付けとなるだろう。声優の津田健次郎が務めるナレーションも含め、目だけでなく耳に訴えかける作品になるはずだ。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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