パンの耳で空腹をしのぐ…コロナで追い詰められた路上生活者の苦痛

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自粛前に配給されていた菓子類

相次ぐ「炊き出し自粛」

路上生活者が集まる山谷地域では毎日、市民団体によって炊き出しや弁当の配給が行われてきた。場所は曜日によって異なるが、教会や公園、商店街の路上などだ。ところが新型コロナウイルスの感染が拡大し、3月半ばごろから外出自粛要請が高まったことに伴い、各団体は、

「急ですみません コロナのため休みます」

「コロナウイルス感染拡大のため5月7日までお休み致します。ご理解とご協力をお願いします」

などと書いた紙を張り出し、相次いで自粛に踏み切った。

山谷のあちこちには、炊き出し自粛を説明するこうした張り紙が見られる

東京都によると、山谷界隈にいる路上生活者は昨年8月時点で約100人。このまま炊き出しの中止が続けば、それを拠り所に生きている路上生活者たちを直撃することになる。このため、一部の市民団体は「路上生活者を裏切れない」「自分たちの都合で止めることはできない」などと、今も炊き出しを続けている。

ただし、感染リスクを避けるため、炊事というこれまでのやり方から、弁当やおにぎりの配給に変更するなどの対策を講じた。アルコールによる消毒も欠かさず、並ぶ時はソーシャルディスタンスを保ってもらう。

「炊き出しは平常時の4割ぐらいまで減ってしました。あそこの教会もダメでしょ、あそこもダメでしょ……」

自粛した団体を1つずつ数えながら語るのは、路上生活者の西川さん(仮名、60歳)。雑炊の炊き出しがなくなったため、配給されるアルファ米、乾パン、いわしの缶詰、そしておにぎりなどで凌いでいる。派遣労働で稼いだ小銭で、近くの売店でパンの耳が入った袋を50円で買い、ジャムをつけて食べる時もある。

「タオルやシャツなども炊き出しでもらえましたけど、今は炊き出し自体が少ないから本当に大変です。食べ物がないと免疫力もつかないですからね……」

西川さんは、東北地方出身の独身。30歳の頃、関東へ出てきた。最初は自動車部品工場で働いたが、やがて土木関係の仕事を覚え、千葉県の飯場(土木工事現場などの近くにある宿泊所)暮らしを長年続けた。

しかし、2年前の夏、熱中症と胃潰瘍で倒れ、生活保護を受けて緊急入院。退院後、生活保護受給者が集まる施設に入ったが、酒乱の入居者たちがいる環境に馴染めず、自ら路上に出た。

マスクを使い回し

炊き出しの相次ぐ自粛に加え、路上生活者にとっての憩いの場も、「3密」(密閉、密集、密接)を避けるために閉鎖された。そこは労働者に職業紹介などを行う公益財団法人「城北労働・福祉センター」にある娯楽室で、閉鎖期間は4月3日から5月6日まで。娯楽室は平日午後8時半まで開放され、路上生活者らが雨露をしのいだり、テレビを観たりしてくつろぐ場所だった。

しかし、閉鎖によって路上生活者たちは追い出され、行き場所を失った。

「今までは娯楽室のお湯を使っていましたけど、今は外の冷たい水で顔を洗い、歯を磨いています。雨が降ったらビルの軒先か橋の下で雨宿りですね」

そんな西川さんは、ジーパンにガウンといった、一見小ぎれいな格好で、とても路上生活者には見えない。仕事に有り付くため、清潔感を保っているのだ。銭湯には週3回は通っている。

派遣の仕事内容は、家具の積み卸しや配管工事の補助などの単純労働で、日当は5〜6千円。これまでは週4〜5日のペースで働いてきたが、コロナの影響で、週2日ほどに減ってしまった。それでも生活保護は受けていない。

「仕事の現場に行く時は、歩いて電車賃を削ったりしてね。そうやって日銭を浮かしていく。ちりも積もれば山となるから」

路上生活者の中には、感染予防のためのマスクを十分に持っていない人もいるが、西川さんは、支援団体や派遣労働先から無料で支給されるといい、今のところストックは12枚。同じマスクを数日、使い回しているという。

炊き出しの際は、支援者がマスクや手袋をして食事を提供してくれるため、それほど気にはしていないが、「感染した時はしょうがない」と、半ばあきらめている。

「この大変な状態は夏ぐらいまでは続くんじゃないかなあ・・・」

西川さんはそうぼやいた。

「自己責任!」の声高まる

こうした路上生活者の窮状に対し、台東区は生活保護を受給するよう勧めている。しかし、9割方は断られるという。その理由について、同区保護課の担当者はこう説明した。

「毎月100人ぐらいに路上で声を掛けていますが、『役所の世話にはなりたくない』『自分で頑張るから大丈夫』と言われます」

仮に相談に来られても、扶養義務のある親族に支援を求めて連絡しようとすると、途端に敬遠されてしまう。このほか、区が紹介した民間の施設に入所させると、門限などのルールがある集団生活に馴染めないといった事情もあるようだ。

一方、路上生活者たちの中には「施設に入れられると、生活保護を搾り取られ、手元にはほとんど残らない。貧困ビジネスだ」と主張する者も多く、区と路上生活者の間で生まれる齟齬が、生活保護の受給につながらないようだ。

西川さんも、生活保護受給には消極的だ。

「意地を張っているわけではないですが、体が動く限りは自分で働きたいです」

ひょっとしたら生活保護を受けることに対する、世間からの負い目もあるのかもしれない。特にコロナ感染の拡大以降、路上生活者に対する世間からのバッシングは一層強まっている。彼らの窮状を訴える記事が掲載されるだけで、

「納税していないのに助ける必要はない!」
「感染前に飢え死にしてもらうしかない!」
「あまえるな、自己責任!」

といった声がネットで飛び交っている。あるいは記事を書いた記者本人が「そこまで言うならお前が助けろよ!」と非難される有り様だ。

小池百合子東京都知事が「夜の店」への立ち入り自粛を要請し、安倍晋三首相が緊急事態宣言を出して以降、経営が立ちゆかなくなった個人事業主からは悲鳴が挙がっている。「収入が減った」、「仕事が無くなった」という市井の声も日に日に高まる中、皆、心に余裕がなくなり、社会全体に優しさが失われているのではないだろうか。

結果、路上生活者ら社会的に立場の弱い人々にその矛先が向かう。非難する側にとってもいつ何時、路頭に迷い、彼らのことを他人事に思えなくなる日が来るかも知れない。

そんな殺伐とした空気もまた、コロナによって生み出された「見えない敵」なのだろう。

  • 取材・文水谷竹秀

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