新型コロナで「アジア人」差別も…ルポ・アメリカ南部のいま | FRIDAYデジタル

新型コロナで「アジア人」差別も…ルポ・アメリカ南部のいま

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新型コロナ感染症の拡大後、失業申請のためソーシャルディスタンスを取りながら労働力センターに並ぶ失業者たち(2020年4月6日)。  写真:ロイター/アフロ
新型コロナ感染症の拡大後、失業申請のためソーシャルディスタンスを取りながら労働力センターに並ぶ失業者たち(2020年4月6日)。  写真:ロイター/アフロ

感染者はニューヨークの10分の1だが状況が激変した南部の州

何か大きなことが起きる以前と起きた以後で、明らかに変わってしまうことがある。

9・11の時、たまたま住んでいたハワイのパールハーバーで「アメリカが攻撃された!」と人々が言っているのを聞いた。3・11の時には、日本の神奈川にいてあの地震を経験した。そして今回、筆者はアメリカの南部で新型コロナパニックを体験している。

「どこに住んでいるの?」と聞かれ答えても、毎回「それどこ?」と返ってくるだけの知名度が全くない州に住んでいる。日本人が極端に少ない地域なので身バレ防止のため州名は控える。観光客もあまり来ないし、もともとの人口数も少ないので、今回のコロナウイルスの陽性患者数も少ない。

周りの州に比べても1/2から1/3ほどである。ニューヨーク州の約1万人にも及ぶ陽性患者数に比べたら、およそ1/10ほどである。なので日本ではわが州が報道されることはまずないであろう。

しかし、そんな誰も気にしない地方都市ですら、新型コロナウイルス以降、状況は一変してしまったのだ。リアルなアメリカの一断面をお伝えしよう。

「予防でマスク」を、アメリカ人が知らなかった頃

新型コロナウイルスについて初めて耳にしたのは、誰もがそうであったように、中国の武漢で患者が急増しているというニュースだった。

その後、日本のスーパーマーケットからトイレットペーパーが消えたというニュースを聞いた時も、アメリカ在住の筆者にはどこかまだ対岸の火事であった。他の一般アメリカ人は、そのニュースも取り立て気にしていなかったように思える。その頃に取りあえず除菌ジェルだけでも買っておくかと思い手に入れた2本。これが、後に非常に良い決断をしたと思う事になった。

コロナウイルスについて、アメリカの雰囲気が一変した瞬間がある。

明らかにその前日とその後の状況が違った。NBA選手ルディ・ゴベアに陽性反応が出て、NBAはその後の試合を全て中止にした3月11日である。そして同日には、『フィラデルフィア』でアカデミー賞主演男優賞を受賞している俳優トム・ハンクスとその妻の陽性が発表された。

翌日、仕事中の家族から電話を受けた。筆者が住む所よりも大きな都市部に住んでいる義兄の所では、もう既にトイレットペーパーなどの消耗品の買い貯めが始まって売り切れなので、こちらでまだ売っていれば買っておいてほしい、という内容だった。

嫌々ながらスーパーに出かけると、見たこともない状況だった。レジに長蛇の列が出来ていて30分待ち。その状況にテンパってしまって倒れた人が出たようで、救急車まで出動していた。

その倒れた人以外は、みな冷静であった。ニュースなどで見たことのある方もいるだろうが、感謝祭後の「ブラックフライデー」と言われるセール時の物を争奪するという、ああいう感じではなかった。逆に恐ろしい程の静けさが漂っていた。この日から、生活の全てが一転した。

ニューヨーク州などの早くから陽性患者が出た州では、早速学校などが休校になっていたが、私が住む州は長らく陽性患者がゼロで、学校や会社は普通に行っていた。

ただ、スーパーはいつも混んでいた。この頃はまだマスクをする者がおらず、筆者の近くで買い物していた男性がマスクをしていたところ、別の男性に「症状が出ているなら、家にいろよ!」と罵倒されているのを目撃した。そのマスク着用の男性は私が見ていた限りでは、咳などしておらず体調も悪そうでなかったし、男性も「違う」と反論していた。

マスクは予防のためにも使われているということを、まだ多くのアメリカ人は知らないのだろうと、それを目撃して感じた。そして、最初の頃はマスク使用に躊躇する人たちが多かったように思えた。

筆者のマスクを見て、「私もマスクを持っているのだけど、恥ずかしくてできない」と言ってきた白人女性もいた。

トランプ「中国ウイルス」呼び アジア人の被害が2週で1000件突破

アメリカ政府が「マスクをするように」と呼びかけた後の現在は、マスク使用者が非常に増えており、日に日にその数は増えている。州内にあるアメリカ軍基地内では、現在、マスク使用なしでは入ることも出来ない。マスクへの理解度が上がっているようだ。しかし、それでもマスクをしない人はいる。

そして、トランプ大統領による「中国ウイルス」呼びが始まり、アジア人への目がきつくなった。

フィギュアスケート選手で中国系アメリカ人のミシェル・クワンが、中国ウイルス呼びをしたトランプに激怒したというニュースを目にした方も多いだろう。それから、アメリカにいるアジア人系が誹謗中傷や暴力の被害に遭っているニュースを多く聞くようになった。

報道によれば、報告があるだけで1000件以上の差別や暴力などの被害に遭っている。「ロサンゼルス・タイムズ」では、コロナウィルスの報道が出始めた1月ごろから校内や公共交通機関、またはネットでのアジア系への嫌がらせが始まり、トランプ大統領の「中国ウイルス」発言以降は、さらに増えたという。

またアメリカに住むアジア系団体「アジアン・パシフィック・ポリシー・アンド・プランニング・カウンシル(A3PCON)」は、そういった被害に遭った報告をアジア人やアジア系に呼びかけている。

3月26日の最初の報告によれば、1日に約100通の報告があり、女性被害者は男性被害者の約3倍、口頭での人種的嫌がらせがその2/3を占め、会社や一般店舗で被害に遭うことが多かったとのことだ。

次の週(4月3日)での報告もほぼ同じ数で、2週間で計1135件あったという。その中には、道を歩いていたら白人男性に目の前に近寄られ、わざと咳をしながら「俺のウイルスがうつればいい」と言われたケースもある。

さらに暴力が加速し、テキサス州ヒューストンでは2歳児と6歳児を含むアジア系家族が、中国系と思われて刺されるという事件まで発生した。そういった状況が増え、FBI(連邦捜査局)ではアジア人やアジア系アメリカ人に注意を呼びかけている。

アジア人女性は配偶者に付き添われて買い物

筆者が住んでいる州は、白人至上主義団体クー・クラックス・クランの本部が今でも存在する。60年代の公民権運動で白人と黒人との激しい対立の舞台となり、指導者のキング牧師も何度か訪れた場所だ。

今でも、近所のNAACP(全米有色人種地位向上協会)の事務所では「ニガー(黒人蔑視語)は出ていけ」という落書きがされたことがニュースとして告知される土地柄である。

コロナ禍によって、外で買い物をするのは正直怖いと感じていたが、そのようなニュースが非常に多くなってきたので、ついに家族からも一人で買い物に行くのを禁止された。実際、筆者以外のアジア人女性たちも、配偶者に付き添われて買い物している人たちが非常に多い。

それだけ、アジア人というだけで危険を感じないといけないということなのだ。その自衛のお陰で、今のところは被害に遭っていない。同じ州に住む日本人やアジア系の知り合いにも聞いてみたが、幸いにも被害には遭っていない。

現在、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のオフィシャルサイトでは、各州の陽性患者数だけでなく、人種別の割合も発表している。

CDCの公式サイト(新型コロナウイルスの陽性患者数を州別や人種別で発表している)

なぜ人種別の割合を発表しているのかは、当初は分からなかったが、その報告後に明らかになったのが、アフリカ系アメリカ人の陽性患者と死亡者数が人口の割合に比べて多いということだ。

その日のニュースでは様々な論議がされていたが、概ね「アフリカ系アメリカ人は人と接する仕事についている人が多い。アフリカ系アメリカ人の居住地区の医療施設が粗末である」などの理由が挙げられていた。

その日を境に、アフリカ系アメリカ人の視線が痛い。何かを言ってくる訳でもないし、何かをされた訳でもない。知らない人でもいつもは目が合えば「こんにちは」と挨拶してくれたりするが、最近は挨拶もしてくれず、ただじっと私の顔を見つめるのみ。筆者の思い過ごしなら良いが……。

外出禁止令が出ていないのは、わずか5州

筆者が住む州では未だ外出禁止令が出ていない。

4月20日現在で、外出禁止令が出ていないのは50州のうち現在5州のみ。州知事がCNNに出演し、新型コロナウイルスに備えて用意した8000床の病床が、未だ80床しか使用しておらず、余裕があるのが理由だ、と語っている。

州によって対応がさまざまだが、わが州では、ニューヨーク州やニューオリンズなどの陽性患者が多い州や都市から帰ってきた人々には、14日間の自主隔離を要請している。それ以外は比較的自由に州間の移動はできており、飛行機やバスなどの公共交通機関もソーシャルディスタンスや除菌を薦めているだけで禁止や運行休止にはしていない。

何せアメリカはクルマ社会なので、長距離運転が苦痛でなければ、個人での移動を止めることは不可能であろう。そして、どこにでもモラルが欠如した人間はおり、4月17日はフロリダ州ジャクソンヴィルの海水浴場が再び解放され、集まった人の多さに呆れる声が多くあがっている。

素早い現金支給 トランプ再選狙いで患者へ補償 

コロナウイルスの影響で、早くから経済への打撃が懸念され、3月27日はトランプ大統領が景気刺激法案に署名した。確定申告をした大人一人に対して、1200ドル(約12万円)の給付金(特別定額給付金)を支給。第一弾は、4月15日に支払われている。筆者の家庭も、とっくに支給を受けた。

また、下院民主党からは、月2000ドル(約20万円)を6ヵ月給付するという法案が提出されたが、これから下院と上院で可決され承認されなければならず、その後に大統領がサインするので、まだ先のことのようだ。国レベルでは、一番必要となる現金支給という一番手っ取り早い方法で国民へ支給している。

ところでコロナ禍が始まり、懸念されたのは医療保険だ。

アメリカでは、国民健康保険がない。最初のころは、陽性判断テストの費用が高く、カンザス州でテストだけ受けた男性は約900ドル(約9万円)を請求され、ペンシルバニア州で陽性となり入院した男性は約4000ドル(約40万円)もの莫大な医療費を請求された。

オバマ前大統領時代に、通称「オバマケア」と呼ばれる国民健康保険に似た全員加入を目指した保険が開始されたが、トランプ大統領は「オバマケア」解体を目指して大統領になったほどなので、今回のコロナ禍でもその姿勢は変わっていない。それでも次期大統領選を踏まえて、保険に加入していない患者の補償を検討しているという。

学校、教会もバーチャル 竜巻シーズン到来で集団避難に不安

私が住む地域の学校は3月13日から休校となり、小学生は家で課題をし、中学・高校生はGoogleクラスルームを使って課題を行っている。大学は、即座にオンライン授業が開始となった。そして通常なら現在は高校の卒業シーズンだが、多くの学校がバーチャルにて卒業式を行った。

そして、バイブルベルトと呼ばれる教会が非常に多いところではあるが、教会も閉鎖が続き、先日のイースターもインターネットを介してバーチャルで行ったところも多い。

部の居住者にとって一番怖いのはこの時期から増える竜巻だ。4月13日には複数の南部の州で竜巻が発生し、大きな被害が出ている。コロナ禍が始まってから懸念されているのは、竜巻の被害により集団避難となった場合だ。これには今から多くの州知事や市長などが頭を悩ませている。

米南部で竜巻相次ぐ(2020年4月13日) 提供:THE CITY OF MONROE, LOUISIANA/AFP/アフロ
米南部で竜巻相次ぐ(2020年4月13日) 提供:THE CITY OF MONROE, LOUISIANA/AFP/アフロ

最初に消えたコメ! マスクはもともと売っていない

現在のニューヨークの状況を世紀末のようだと言う。

筆者が住む南部は、そこまでには達していない。しかし、生活が一変したのは一緒だ。同じようにトイレットペーパーなどの消耗品はスーパーの棚から消え、一向に戻る気配はない。いいタイミングで買えた除菌ジェルも、もうすぐなくなるが、除菌ジェルも除菌ソープは何週間も見ていない。

大切なマスクも売っていない。そもそもコロナ禍が始まる前から、店舗でマスクを売っているのを見たことがない。医療関係者がつけるようなマスクをつけた人を見かけるが、恐らくネットで買ったものと思われる。それ以外の人は、手作りマスクや、バンダナ、Tシャツを引きちぎったもの、などをしている。最近では、手作りマスク用のゴムなどは、店舗でもオンラインストアでも品薄状態が続いている。

そして、コロナ禍による買い占めが始まってから、一番最初に消えた食品がコメだった。これはとても意外だった。アメリカ人が好むと言われているパスタや肉よりも先になくなっており、意外と冷凍ピザは売れ残っていた。

米南部特有かもしれないが、フライドチキンに使う鶏肉がなかなか手に入らない状況が続いている。バーベキュー用の豚肉のスペアリブは、最初は棚から消えたが、今は比較的に買いやすい状況となっている。

レストランは閉鎖され、テイクアウトのみなので、職を失った人の数も同じようにいる。

街にある失業保険を申し込む事務所には、見たことのない長蛇の列が出来ていたと聞く。何よりも、どこにいて、どういう状況で、どの人種だろうが、同じようにウイルス撲滅を祈り、戦っているということだ。

何か大きなことが起きた後のことは、ポスト○○などといわれる。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件(9・11)、そして2011年3月11日に起きた東日本大震災(3・11)などもそうだ。

現在進行形である新型コロナウイルスも、ポスト新型コロナとか言われるようになるのだろう。しかし、それは半年後、数年後、それとも十数年後だろうか?

  • 杏レラト

    (あんずれらと)アメリカ南部在住。雑誌「映画秘宝」(扶桑社)、「ユリイカ スパイク・リー特集」(青土社)、「ネットフリックス大解剖」(DU BOOKS)などに執筆。著書に『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)。

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