コロナの「治療薬」開発はどこまで進んでいるか…医師が解説

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日本のコロナウイルス感染者数が累計1万2000人を超えた。このままでは、日本の緊急事態宣言も当初の予定よりも長引くのではないかという不安を感じる中、<収束には18ヶ月必要><何もしなければ42万人が死亡>などの報道が不安に追い討ちをかける。

一方で世界の研究者は、治療薬の開発に懸命に取り組んでいる。コロナの収束には、治療薬、ワクチンの担う役割が非常に重要となることは言うまでもない。

イギリス在住の免疫学者の小野昌弘医師は自身のツイッターで、

<コロナ問題はある時点で急に解決がつくのではなく、人類が徐々にコロナを恐れる必要がなくなることで少しずつ問題解決されると考えています。治療薬を複数手にすれば重症化を恐れなくてよくなる。ワクチン開発後も少しずつ改良されていき集団免疫に近づく。科学の力で人類はコロナと共存するのでしょう>

との見解を示している。

世界で治験開始

新型コロナウイルスの治療薬として候補にあがっている中でも注目されるのは、エボラ出血熱の治療薬としてギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬のレムデシビルである。

アメリカの医療関連ニュースサイトの「STAT」は16日、

<レムデシビルの臨床試験を進めているシカゴ大学医学部の内部報告会によると同病院に入院する新型コロナ患者125人にレムデシビルを投与したところ著しく病状が改善し、1週間以内に、死亡した2人を除く全ての患者が退院できた>

と報じている。アメリカのみならず、世界100施設程度の医療機関が参加し、4000人を対象に臨床第3相試験(P3)が行われていると、発表されている。

レムデシビルはコロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており、COVID-19の治療薬として最も有望視されている薬剤の1つ。日本でも国立国際医療研究センターでP3が進められており、その結果に注目が集まっている。

既存薬が特効薬になりうるか?

レムデシビルをはじめとして、現在、ウイルス作用について各国で治験が進められている既存薬を表に示した。このなかから、どの既存薬がどの程度期待できるのかを、埼玉みらいクリニック院長で呼吸器科の岡本宗史医師に聞いた。

「まず、現時点では、COVID-19 の抗ウイルス薬による治療に関する知見は限られています。世界各国で新薬の研究開発が進められているが、実際には創薬から臨床試験を経て使用できるまでには、莫大な時間と費用を必要とします。

そこで行われているのが既存の抗ウイルス薬の応用です。過去には重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)患者に対して既存の抗ウイルス薬が使用されてきました」

COVID-19に対する治療薬の知見は日々刷新されているため、現時点(2020年4月21日)での考えと前置きしたうえで、岡本医師は次のように続ける。

· ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)

「ロピナビルは HIV-1 に対するプロテアーゼ阻害剤として有効性が認められています。動物実験でMERSに有効性が示されたことから、COVID-19に対するロピナビル・リトナビルのRCT(ランダム化比較試験)が進行中です。

しかし、New England Journal of Medicine(NEJM)誌オンライン版の記事(2020年3月18日掲載)で、『重症COVID-19入院成人患者において、抗HIV薬のロピナビル・リトナビルは標準治療よりも有効とはいえない』との見解が199例を対象に行った非盲検無作為化比較試験の結果から示された、とありました。

非盲検ではありますが、比較試験において『ロピナビル・リトナビルはCOVID-19には有効でない』と示されたことから、今後臨床現場でロピナビル・リトナビルが使用されることはなくなってくるとも考えられます」

重い副作用が出るケースもあるとのことで、期待通りの効果が得られないとなれば、治療薬候補からは外れてくるだろう。

· ファビピラビル(商品名:アビガン)

「ファビピラビルは日本国内で開発されたRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤です。効能・効果は『新型または再興型インフルエンザウイルス感染症 (但し、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)』とされていましたが、作用機序(生体内で変換された三リン酸化体が、ウイルスのRNA ポリメラーゼを選択的に阻害する)から、インフルエンザ以外の他のRNAウイルスにも効果を示すと考えられます。

2020年4月18日に開催された日本感染症学会の緊急シンポジウムにおける藤田医科大学の土井洋平教授の発表によると、ファビピラビルを投与された300名のうち、投与開始14日後に重症患者の6割、軽症患者の9割の改善が認められたと報告されています。

ただ、これでファビピラビルの有効性が証明されたことにはなりません。なぜなら、対照群(標準治療)が置かれていない観察研究であり、アビガンを使用しなくてもよくなった可能性は否定できないからです。今後のランダム化比較試験の報告が待たれます」

· レムデシビル
「最近の報告では、レムデシビルは培養ヒト肺細胞における中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の複製を抑制、それに感染させた霊長類モデルで肺損傷を軽減したとの報告がありました。

また、『New England Journal of Medicine(NEJM)』誌オンライン版の記事(2020年4月10日掲載)では、レムデシビルを投与した重症患者53名(日本での9例を含む)のうち36例で効果があり、人工呼吸器を装着されていた30例のうち17例が抜管できました。

しかし、この結果からレムデシビルの有効性を証明できるものではありません。対象が重症患者に限局されている点、また前述通り対照群(標準治療)が置かれていないからです。ファビピラビルと同様今後のRCTの報告が待たれます」

医学的な効果を証明するには、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することが必要となり、そのためランダム化比較試験(RCT)が必要となる。期待は持てるが、確信的なことを言えるのはまだ時間がかかる、ということだ。

 

<サイトカインストーム抑制>

新型コロナウイルス感染により重症化する原因の一つは、免疫の過剰反応が起こること。医学的には「サイトカインストーム」と呼ばれる現象だ。サイトカインストームにより急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全などが起こり、最悪の場合、死に至ることもある。

このサイトカインストームを抑制する効果が期待されるのが下記の薬である。

(注:クロロキンは日本未承認)

岡本医師は、関節リウマチの治療薬として多くの患者が使用するトシリズマブ(アクテムラ)に注目するという。

「2020年4月8日、中外製薬株式会社は、トシリズマブの新型コロナウイルス肺炎を対象とした国内第III相臨床試験の実施を発表しました。

トシリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体と呼ばれる分子標的薬であり、記述の抗ウイルス薬とは概念が全く異なっています。

トシリズマブは炎症性サイトカインの一種であるIL-6の作用を阻害する働きを持ち、関節リウマチを代表とする膠原病で主に使用されています。COVID-19では、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応が肺炎、肺損傷の急激な悪化の一因でないかと考えられていますが、その上流に位置するIL-6を抑制することでサイトカインストームをコントロールし、肺炎の進行抑制に効果があるのではないかと期待されています」

中国が作成したCOVID-19治療ガイドラインでも重症例にトシリズマブ(アクテムラ)の使用を推奨しており、今後の治験の結果に期待したい。一方で、どの段階で使用するかということも重要であると思われることも付け足しておきたい。

<抗体療法>

抗体療法とは、回復期患者の血液から中和抗体を取り出し、患者へ投与するという治療法である。

「『The Journal of the American Medical Association(JAMA)』誌オンライン版(2020年3月27日掲載)では、重度の呼吸不全に陥った5名の患者に対して、回復期患者の血漿輸血を行ったところ、4名の患者の体温が3日以内に正常化し、ウイルス量も減少。輸血後12以内に陰性となり、5例中3例が退院し、残る2例も輸血後37日時点で安定している、と報告されています。症例数も少なく安全性も確立されたものではないですが、これを応用した免疫グロブリン製剤の開発が始まっています」

現在、多くのメーカーが血清から取り出した中和抗体を取り出し製剤とする研究を進めている。武田薬品工業は、2019年に買収したアイルランドの製薬大手シャイアーとともに既に3月初め、抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発に着手しており、早い段階での治験、承認が期待される。

以上が4月中旬までに分かっている「治療薬の現状」だ。楽観視はできないが、確実に研究は前に進んでおり、悲観的になりすぎる必要はない。必ず収束する日が訪れる。それまで我々ができるのは、感染予防、感染拡大阻止に努めることであることは、いうまでもない。

 監修:埼玉みらいクリニック院長 岡本宗史
 URL http://www.om-clinic.jp/
 twitter https://twitter.com/saitama_mirai

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