コンプラゆるき時代に出版された愛すべき「プロ野球バカ本」を読め

いまの時代ならとても出せない「プロ野球バカ本」を4冊ピックアップ!

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かつて、プロ野球選手は自著を出すことが一つのステイタスだった。「子どもの野球離れ」とも、「出版不況」とも無縁だった時代、「プロ野球本」は百花繚乱の時代を謳歌していた。現在のようにコンプライアンスやモラルと無頓着だったため、令和の視点で見れば、これらの「プロ野球本」は「こんなこと書いてもいいのか?「こんな本を出して問題にならないのか?」といった本ばかりだった。

こうした本を、僕は「プロ野球バカ本」と名づけて、今もなお慈しみ、そして愛でている。2018年に『プロ野球バカ本 まったく役に立たないブックレビュー!』(朝日新聞出版)という本を上梓し、108冊の「プロ野球バカ本」を取り上げたが、そこで紹介できなかった「プロ野球バカ本」はまだまだあって、その中からここに幾つか紹介したい。

プロ野球開幕の見通しが立たず、交流戦の中止も正式に決まった。野球に飢え、人間の四大欲求の一つである「野球欲」が枯渇している今だからこそ、あらためて振り返りたい。「ノーコンプライアンス、ノーモラル」の愛すべき「プロ野球バカ本」たちを!

ルーキー時代の原辰徳によるラジオDJバカ本

①『原辰徳――青春そして音楽』
(ラジオ日本、読売新聞社編/読売新聞社/880円/1982年8月15日発行)
原辰徳が超人気選手だった1980年代前半。この頃に発行された「若大将本」にハズレなしなのだが、1981(昭和56)年10月から翌82年4月まで、ラジオ日本で放送されていた番組をそのまま収録したこの本もかなり面白い。

副題にあるように「音楽」にスポットを当て、巻末には「ぼくの好きな曲ベスト8」と題して、なぜか唐突に『関白宣言』(さだまさし)や、『チャンピオン』(アリス)といったヒット曲が、歌詞だけでなく、楽譜まで掲載されている。注目すべきは10月17日の第2回放送。番組冒頭で我らの若大将は言う。

「いよいよ今日から、日本シリーズが始まりました。勝つことはすべてでなくとも、やっぱりプロ野球は勝たなくてはダメです。まだまだ試合は残っているのですから、明日はきっと勝ちます」

……えっ? 生放送なの? 調べてみると、確かにこの日は巨人対日本ハムの第1戦が行われ、5対6で巨人は敗れている。試合開始は13時00分で試合時間は3時間1分。ということは試合終了は16時1分だ。そしてこの放送は18時30分からの30分番組。試合が終わってすぐにラジオ局に駆けつけたのか?

ちなみにこの日の若大将は5打数0安打。それにもかかわらず、「好きな女性のタイプは?」というリスナーからの質問に対して、「やさしさ、やさしい人がいちばんいいですね」とノホホンと語っているのだ。今なら「練習しろよ」と大バッシングだろう。

また、リスナーからはこんな質問も寄せられている。長くなるが引用したい。

〈辰徳君の好きなバストは、つぎの中からどれでしょう。選んで記号で答えてください。①超大型、烏丸せつ子ぐらい、②大型、わたしぐらい、③普通、松坂慶子ぐらい、④小型、古手川祐子ぐらい、⑤超小型、松田聖子ぐらい、⑥どのくらいでも、女のオッパイならよい、⑦女の胸には興味なし、男が好き〉

こんな質問に対しても、我らが若大将は真っ向から受けて立つ。

〈えー、⑦。ま、それは冗談なんですけど、やはり③番ぐらいがいいですね。ぼくは、あんまり大きい人っていうのはねえ、なんか年とっちゃって、だらしなくなっちゃうような気もするんで。えー、やっぱりですね、大きくもなく、小さくもなく、ふつうの型がいいですね〉

「ビニ本やポルノ映画を見たことはありますか?」という質問に対しても、正々堂々と「あります」と答え、「ぼくのね、人生においても、ひじょうに、大切なことではないかと思っていますんで、いろいろと勉強しています」と回答。どんな質問に対しても逃げることなく、爽やかさを失わない原辰徳は、さすが永遠の若大将なのだ。

サイン盗みから盗聴まで、危ない話のオンパレード

②『プロ野球が危ない 絶叫メッタ斬り!!』
(若菜嘉晴/学研/1000円/1992年4月30日発行)
西鉄ライオンズ入団後、阪神移籍で全国区の人気選手となった若菜嘉晴。現役引退直後に発売された本書は「書籍版R指定」としたいほど過激なエピソードのオンパレード。阪神時代について言及した箇所にはこんな一文がある。

〈大きな声ではいえないが、その頃タイガースは、センター後方のスタンドから客を装ったスパイが双眼鏡でキャッチャーのサインを盗んで解読し、ベンチやバッターに伝えるというスパイ行為を行っていた〉

こんな衝撃の事実を、何事もなかったかのようにサラッと書いているのだ。これだけではない。

〈タイガース時代のあるチームメイトに、なんと“盗聴”が趣味というアブない奴がいた。遠征先のホテルにだれよりも早く乗り込んで、チームでいちばんモテそうなピッチャーや野手の部屋に忍び込むと、ベッドの下などに盗聴器を仕掛けるのである。そして翌日のチェックアウト後に回収し、自分でカセットテープにダビングして移動の新幹線の中でニヤニヤしながらヘッドホンで聴いているのだ〉

……ド変態じゃないか。誰だよ、その「チームメイト」は! 日本ハムに移籍後には客席からのヤジに激高。試合中にもかかわらず、私服に着替えてスタンドに行き、何食わぬ顔で、その客の隣に座るのである。

〈僕は横から手を延ばしてその男性の顔をつかみ、グッと自分のほうに向けた。男性はキョトンとして僕の顔を眺めていたが、やがて顔面蒼白になってブルブル震え出した。
「お客さん、さっきから元気ですね。でもここは野球場ですよ。選手の個人攻撃をする場所じゃないでしょう」
と凄んでみせると、その男性は蚊の泣くような声で、
「別に若菜さんを嫌いなわけじゃないし、個人攻撃しているつもりはありません」
と口調もずいぶんていねいになってしまった〉

本書ではこの他にも、何とも憎めない豪放磊落なエピソードがほぼ実名で登場し、他人だけではなく自分のことも赤裸々に告白している。驚いたのは、かつてつき合っていた女性の自殺未遂騒動まで詳細に語っていることだ。本書の帯の惹句にある「実名入り よくぞここまで言ってくれた!」にウソ偽りはないのである。

「ここまで書いて大丈夫?」と読者を不安にさせる一冊

③『金田留広のオレは金田ファミリーの駄々っ子だ』
(金田留広/発行・ヒット出版、発売・都市と生活社/880円/1983年6月20日発行)
2018年に71歳の若さで亡くなった金田留広氏。あの「400勝投手」金田正一の弟である一方、東映やロッテ、広島でエースとして活躍したトメさんが現役引退直後に発売したのが本書。前述した若菜の本もそうだが、「引退直後」は「プロ野球バカ本」の大量発生期なのである。

前半は「兄・金田正一」に対する畏敬の念が縷々綴られているのだが、中盤以降は「コンプライアンス無視」のエピソードが続く。東映時代のこと。阪急、近鉄、南海と戦うべく大阪遠征の際に、東映ナインは神戸・福原の「浮世風呂」にチームメイトとともにいつも繰り出していたのだという。

〈ワシなんか若い頃は早射ちの方やったから、福原に行ってじっくり楽しむために、神戸に向かう新幹線の中でセンズリ一発かいて行きよった。
「おっ、もう名古屋を過ぎたのぉ。そろそろ準備に行っとこか」
あの頃のワシら、どんな眼しとったんやろ? きっと野獣の眼しとったんじゃないかね〉

この本は、とにかく色恋沙汰のエピソードが多い。ロッテ時代、鹿児島キャンプ中の滞在ホテルで女子浴場を覗いたてん末が披露されているが、本人は「悪戯」と語っているものの、シャレにならない内容だ。かいつまんで説明すると、最上階13階の女子風呂を覗くために非常口の扉を開けて、幅30センチしかないホテル外壁をそろりそろりと進んでいくのである。

〈手すりも何もない。風呂場の窓にへばりつくようにして少しずつ進んでいくしかないわけよ。ちょっとでも下を見ようもんなら、クラクラ目まいがする。なにせ高さ十三階の幅三十センチやからね。その上をロッテの選手が二十人くらいソロソロジワジワ進んで行く〉

また、「プロ野球界のデカチン自慢」も本書では実名を挙げて紹介されている。金田自身も、「母と娘」「姉と妹」と関係を持った話を嬉々として語っている。こんなことを書いて大丈夫なのだろうか? 読者を不安にさせる「プロ野球バカ本」が本書なのだ。

はたして、「一勝二敗」は勝者なのか?

④『一勝二敗の勝者論』
(関根潤三/佼成出版社/1100円/1990年8月24日発行)
先日、93歳で天寿をまっとうされた関根潤三さん。大洋、ヤクルトの監督として若い選手を育て上げた心優しき指導者だった。その関根さんがヤクルトの監督を退任した直後の90(平成2)年に発売したのがこの本だ。まず、タイトルがすごい。『一勝二敗の勝者論』だ。「一勝二敗」ははたして、勝者なのか? まずは「はじめに」から紹介したい。

〈みなさんは「一勝二敗」は負けの人生であると思うだろうか――。ふつうなら、そう思うだろう。しかし、私はけっして負けであるとは思っていない。負けるとは、その「一勝二敗」の逆境に耐えられず、逃げ出すことであるのだから……。
「一勝二敗」でも勝者になる道はある。いや、「一勝二敗」だからこそ、勝者になれるのだ〉

ここまで読んだだけでは、まったく意味がわからない。ということで、本文を読み進めていくと、少しずつ「関根流勝者論」が開陳されていく。

〈私はこう考えた。まず、「一勝二敗」を目標とする。三連戦のうち一勝はしよう、と。肩をいからせて勝つことばかりを考えない。戦いは相手のあることであり、すべてを勝とうと思うことが不そんであろう〉

……いやいや、勝負の世界、プロの世界ならば、嘘でもいいから「すべてを勝とう」と思うべきなのではないか? しかし、この考えもまた関根さんらしいと言えば、関根さんらしい。そして、関根さんの真骨頂はこれからだ。

〈勝った試合より、負けた試合にこそ学ぶことや反省の材料はいっぱいある。
負けた試合から、なにをどれだけ学ぶか。学んだことを次の試合にどう活かすか――それが大事であり、それがない「一勝二敗」は勝者となれないことは、いうまでもない〉

反省さえすれば、何でも許されるのだろうか? 「とにかく一勝二敗でもいいのだ」という自説が続き、関根さんは力強く言い放つ。

〈そして、「一勝二敗」に耐えられる人が、真の勝者であると言ったら言いすぎであろうか〉

……やっぱり、言いすぎでは? いくら理屈をこねても、「一勝二敗」は真の勝者ではないだろう。後に関根さん本人にインタビューをした際に、「こんな本を出した覚えもないし、一勝二敗が勝者だと思わない」という発言を聞いたときには、ますます「関根さんらしいな」と思わせてくれた。やはり、本書も立派な「プロ野球バカ本」なのである。

※記事に掲載されている本はすべて筆者の私物であり、発行年月日、価格などはすべてそれに準拠しています。

  • 長谷川晶一

    1970年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経てノンフィクションライターに。転身後、野球を中心とした著作を発表している。主な著書に『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)など多数。文春オンライン内の文春野球ではヤクルト担当として2年連続優勝を飾る。Number Webでコラム「ツバメの観察日記」連載中。

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