この松坂桃李がスゴい!傑作ドラマ&映画を「お籠りチェック」

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松坂桃李。大河ドラマ『いだてん』の打ち上げにて (2019年10月4日)撮影:西原秀

素直に、面白い。

松坂桃李について語るとき、「カッコいい」や「演技が上手い」「作品選びが最高」など多くの言葉が浮かぶが、自分の中で最も適切な言葉はこれだ。役者としても、1人の人間としてもまるで興味が尽きない。

松坂は、1988年生まれの31歳。2008年からモデルとして芸能活動を始め、翌2009年に『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビュー。役者としての初陣でいきなり主演を飾った大型ルーキーは、今や日本映画界には欠かせない演技派筆頭として、確かな地位を築くまでに成長した。

過去に何度かインタビューの機会を得たが、松坂に対する印象は本当に「いい人」。同世代の筆者に対しても真摯に接してくれ、笑顔を絶やさずに質問に答えてくれたことを憶えている。非常に親しみやすく、変に飾るところがない。

そして、同じ事務所の菅田将暉からいじられまくるほどのゲームオタク。『遊☆戯☆王』や『ファイナルファンタジー』の話をすると止まらず、つい先日にはユーザーに「フレンド募集」を呼びかけてTwitterのトレンド入りを果たした。自らの「好き」を隠すことなく正直に生きる姿は、ファンならずとも好感が持てるのではないか。

それなのに、スクリーンの中ではまるで別人だ。

日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いた『孤狼の血』(18)のエリート刑事役では、血管がはちきれるのではないかと思うくらいの狂気の演技で、観る者の度肝を抜いた。翌年に公開された『新聞記者』(19)では、国家に仕えながら、自らの正義とのズレや良心の呵責に苛まれる官僚に扮し、感情を抑え込んだ熟練の演技を披露。日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞に輝いた。今回は、この2作品をはじめ、松坂桃李の近年の作品から「これぞ」という映画・ドラマをいくつか紹介したい。

まずは、2度目の映画化となる『日本のいちばん長い日』(15)。太平洋戦争における日本の降伏を承服できず、クーデターを起こそうとする青年将校を、鬼気迫る表情で演じ切っている。『孤狼の血』で再共演する役所広司(阿南惟幾陸軍大臣役)とのひりつくやり取りや、額に青筋を立てて机を何度も殴る姿など、戦争継続の念に取りつかれた男の「怖さ」をまざまざと見せつけた。

翌年には、180度異なるキャラクターに挑戦。童貞教師をコミカルに演じて新境地を開いたドラマ『ゆとりですがなにか』(16)だ。宮藤官九郎が脚本を手掛けた本作は、“ゆとり世代”の等身大の苦悩や悲哀をユーモラスに描いた作品だ。松坂が演じた山路は、職場のストレスを“レンタルおじさん”(吉田鋼太郎)に聞いてもらったり、奔放な教育実習生(吉岡里帆)に振り回されたりとなかなかに濃い役回りを軽やかに演じ切り、多くのファンを獲得した。

さらに翌年には、打って変わって“クズ男”をアダルトに演じた映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)が公開。本作では、妻子がある身にもかかわらず、ヒロイン(蒼井優)と不倫関係に陥るどうしようもない男を嬉々として演じている。ラブホテルで得意げに話す旅行話が全て本の引用という軽薄な人物だが、不思議な“憎めなさ”があるのは松坂の演技力あってこそだろう。

続いては、松坂のターニングポイントとなった映画『娼年』(18)。2016年に主演した舞台の映画版で、主人公の“男娼”を繊細かつ大胆に演じている。日常に希望を見いだせない大学生が、様々な性の悩みを抱えた女性たちをほんの一時癒すことで、自らも安らぎを見出していくさまを美しく描いた大人の人間ドラマだ。

本人が「腰が壊れるかと思った」と語る体当たりのベッドシーンの数々や、冒頭とラストシーンでは別人に思えるほどの“成熟”を体現した松坂の演技のグラデーションが大きな見どころだ。

松坂桃李。主演映画『居眠り磐音』の舞台挨拶に参加(2019年5月)。  撮影:高塚一郎

アニメ映画が大ヒットを記録した戦争ドラマ『この世界の片隅に』(18)では、松本穂香と夫婦役を演じた。こちらでは、穏やかで優し気な表情が印象的だ。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で演じたヒッチハイカーの青年にも通じる、周囲を気遣いすぎて自分の本音を隠してしまう姿がいじらしい。

『この世界の片隅に』と同年に公開されたのが、松坂の新たな代表作『孤狼の血』。本作で松坂は、実直で正義感にあふれた若手刑事が、敵の喉笛に鋭く噛み付く“狼”へと変貌を遂げていく姿を野性味ギンギンで表現している。

『彼女がその名を知らない鳥たち』の白石和彌監督と再び組んだ本作は、劇中で主役がバトンタッチする構造になっており、役所広司から役目を引き継いだ後半の暴れっぷりは衝撃的だ。松坂の熱演もあって、本作はシリーズ化が決定済み。続報が待たれる。

『居眠り磐音』(19)では浪人、『蜜蜂と遠雷』(19)ではピアニストと多彩な役柄をこなす松坂だが、『新聞記者』(19)で演じた内閣情報調査室の官僚は相当覚悟のいる役どころだっただろう。

企画の詳細を聞いた際には「こんな攻めた映画を作るのか!」と驚いたというが、「役を生きることに迷いはなかった」とも。撮影期間はわずか2週間ほどだったというが、決して派手な演技ではないものの常に緊張で顔が強張っている様子や、ラストシーンで見せる表情など、観客の脳裏に深く刻まれる名演を披露している。

これらの役どころを振り返れば一目瞭然だが、松坂には引き受ける役柄に「NG」が存在しない。それどころか、自分の表現力を試されるような“強い”キャラクターを求めているようにさえ映る。

照り付ける日差しの下、かなりハードな撮影だったが、それでも松坂桃李はスタッフに笑顔で接していた  撮影:菊池有香

今後の待機作も、実写映画『耳をすませば』や、ハロー!プロジェクト所属のアイドルにハマった男の青春を描く『あの頃。』など、話題性抜群の作品ばかり。まだ具体的な情報は出ていないが、『孤狼の血』の続編も動き出すことだろう。

溌溂とした笑顔の奥にある、役者としての獰猛で貪欲な「渇望」――。松坂が新たな役を求め続ける限り、我々の興味が尽きることはない。それどころか、どんどんと可能性を開拓し続けてくれるはずだ。

やはりこの男、面白さがずば抜けている。

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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