志村けんさん急死から考察する「煙草と肺炎悪化の本当の関係」 | FRIDAYデジタル

志村けんさん急死から考察する「煙草と肺炎悪化の本当の関係」

医師が解説

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志村けんとビートたけしは1999年4月にはじまった『神出鬼没!タケシムケン』(テレビ朝日系)で共演。訃報についてたけしは「ウツになっちゃった」『ノイローゼになった』と早すぎる死を惜しんだ
志村けんとビートたけしは1999年4月にはじまった『神出鬼没!タケシムケン』(テレビ朝日系)で共演。訃報についてたけしは「ウツになっちゃった」『ノイローゼになった』と早すぎる死を惜しんだ

禁煙するまで1日3箱吸っていた

喫煙の悪影響は、禁煙しても解消できないものなのか――中国当局は、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなる人の多くが喫煙者であったことに着目し、「喫煙は、死亡率を高める要因である」との見解を早い時期から示していた。3月29日に亡くなった志村けんさん(70歳)はかつて、1日3箱も吸うようなヘビースモーカーだった。2016年ごろから煙草はやめていたというが、時すでに遅しだったのかもしれない。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺炎など、呼吸器疾患の第一人者、木田厚瑞医師(呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 統括責任者)に話を聞いた。

まずは喫煙歴と禁煙の関係について。喫煙歴があると、たとえ禁煙したとしても病気の回復を妨げ、結果的に死につながってしまうようなことはあり得るのだろうか。

「喫煙が病気の回復を妨げ、生命を脅かすことにつながるケースは多々あります。最も影響が大きいのは心血管と肺です。たとえば心臓発作を引き起こす冠動脈性心臓病を発症するリスクは、喫煙によって倍増します。

このリスクは、禁煙によって急速に減らすことが可能で、禁煙1年後には約半分に減少し、時間とともに減少し続けることが分かっています。脳卒中や末梢動脈疾患(脚に血液を運ぶ血管が詰まったり狭くなったりして脚の痛みを引き起こす状態)のリスクも、喫煙によって高まりますが、これらのリスクも、禁煙によって減少します。

一方、タバコによる生活習慣病とも呼ばれるCOPDなどの慢性呼吸器疾患では、喫煙によって引き起こされる肺の損傷の多くは可逆的ではないため、禁煙しても肺が健常な状態に戻ることはありません。ただ、禁煙すれば肺へのさらなる損傷を減らすことはできるので、慢性の咳や痰を持つ喫煙者の多くは、禁煙から最初の1年間で、これらの症状が改善します」

志村さんが禁煙したきっかけは、肺炎の発症だったという。10日余りの入院を要し、公演中の舞台を中止せざるを得なかったほどの重症で、以来タバコを断っていた。しかし、それでも今回亡くなってしまったのは、喫煙による肺のダメージがリカバリーしきれないほど蓄積されていたということなのか。

「ダメージの回復は臓器によって異なります。心血管系の病変は禁煙後、リスクは軽減しますが、心臓の冠動脈の硬化など、出来上がってしまった病変はなかなか回復しません。

また肺の場合も、肺胞が広く破壊される肺気腫や、細い気道に起こった炎症に続いて生じた線維化は元に戻りにくいので、結果、息切れ、咳、痰の症状が持続し、血液の酸素の取り込みも低下したままになります」

タバコによるダメージと、過去の肺炎によるダメージ。志村さんの肺には、2つのダメージが残っており、衰えた肺機能は、新型コロナウイルスの攻撃に抗える状態ではなかったのだろう。

「ヘビースモーカーの場合、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症している可能性も考えられます。COPDの死亡原因では、心筋梗塞など虚血性心疾患が原因の場合が約1/3を占めていおり、新型コロナウィルス感染症は、虚血性心疾患を持病に持つ人が急変しやすいことが知られています」

死亡に至ったのは新型コロナウイルスによる肺炎だが、突き詰めれば、喫煙関連死ともいえそうだ。

【動画】九死に一生体験でも求めてしまう

それにしても、タバコの害がこれほど周知されているにもかかわらず、禁煙できない人は多い。ものまねタレント・安室奈美似さんの母・瑛子さんもその一人だ。40年来のヘビースモーカーだった瑛子さんは、2014年11月に階段から転落し、急性硬膜下血腫に。「意識が戻る可能性は1%」と宣告されるほどの九死に一生体験だったというのに、瑛子さんは少しだけ意識が戻った途端、指をチョキの形にしてタバコを要求。家族を驚かせたという。

タバコの依存性というのは、それほど強いものなのだろうか。それとも、安室さんの母親はかなり特殊なのだろうか。

「タバコの依存症の多くは、ニコチン中毒によるものです。私の患者さんにも、重度のニコチン中毒の方がおられました。当時58歳の男性で、肺がんと診断され、手術するために厳しく禁煙を指示していました。しかしその方は20歳からそれまで喫煙していたヘビースモーカーで、重い中毒だったんですね。

明日、手術という前日にパジャマのまま院外に出て隠れて喫煙し、病棟中を探し回った看護師たちに発見されました。生命がかかっている段階でも欲してしまうほど、中毒というのは恐ろしい物なんですね。

私の患者さんには、安室さんのお母様のように、肺がん治療で禁煙しなければ死んでしまうと説得しても、泣きながら喫煙がやめられなかった女性の重喫煙者さんもいます。実感として、女性の方が、禁煙が難しい人が多い気がしています」

まさに、ニコチン中毒恐るべし。

「一般に、最初は興味本位で吸い始めたとしても、2週間程度で脳組織にニコチンの受容体ができ上がると言われています。これは小学生でも大人でも同じで、生涯持続します。それだけニコチン依存は、消えにくい。認知症になっても喫煙習慣だけは残るという人があるほどです。また、在宅酸素療法実施中の人で禁煙の厳守は分かりきっているはずなのに酸素吸入中に喫煙を行い、火傷、火事を起こす事故が、日本だけでなく海外でも多発しています」

タバコの害も依存症も、一般的に認識されている以上に怖いということを、志村さんの死から学ぶべきではないだろうか。

喫煙の本当の恐ろしさを解説した呼吸器疾患の第一人者、木田厚瑞医師(木原洋美提供、昨年撮影)
喫煙の本当の恐ろしさを解説した呼吸器疾患の第一人者、木田厚瑞医師(木原洋美提供、昨年撮影)

 

  • 取材・文木原洋美

    宮城県石巻市生まれ。大学在学中にコピーライターとして働き始め、20代後半で独立してフリーランスに。西武セゾングループ、松坂屋などファッション、流通、環境保全から医療まで幅広い分野のPRに関わる。2000年以降は軸足を医療分野にシフトし、「ドクターズガイド」(時事通信社)「週刊現代 日本が誇るトップドクターが明かす(シリーズ)」(講談社)「ダイヤモンドQ」(ダイヤモンド社)「プレジデントウーマン」(プレジデント社)等で、企画・取材・執筆を手掛けてきた。あたらす株式会社代表取締役。一般社団法人 森のマルシェ代表理事。

  • 写真時事通信動画安室奈美似

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