演劇の“ライブ空間”は必ず帰ってくる!演劇人たちの確信と約束 | FRIDAYデジタル

演劇の“ライブ空間”は必ず帰ってくる!演劇人たちの確信と約束

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

脚本:なるせゆうせい氏、演出:松多壱岱氏 緊急事態宣言下の「演劇の現状と未来」をインタビュー

延期になった公演の前作となる舞台「プロジェクト東京ドールズ/2019年2月~3月」。人気俳優陣が異形の存在と闘う戦闘集団を熱演する2.5次元コンテンツ(写真:竹内みちまろ)
延期になった公演の前作となる舞台「プロジェクト東京ドールズ/2019年2月~3月」。人気俳優陣が異形の存在と闘う戦闘集団を熱演する2.5次元コンテンツ(写真:竹内みちまろ)

“ライブの空間”、“生の空間”にこだわる演劇界で、新型コロナウイルス感染症の影響による公演中止が相次いでいる。そして、安倍総理が3月28日の記者会見で「(イベント中止に伴う損失を)補償することはなかなか難しい」と話したことが業界に波紋を広げている。

「ぴあ総研」の発表では、ライブ・エンタテインメント業界における「中止延期等により売上がゼロもしくは減少した公演・試合の総数」は「81,000本」(3月24日現在)。5月末まで現在の状況が続いた場合、その総数は「153,000本」まで跳ね上がることが見込まれるという。

売上がゼロもしくは減少したイベントの入場料総額は「1,750億円」(3月24日現在)で、5月まで現在の状況が続いた場合は総額「3,300億円」(見込み)となってしまう。

最前線で活躍する演劇人たちは何を思っているのか?

延期となった舞台「プロジェクト東京ドールズ 第二章 池袋」(当初予定:4月29~5月6日)で脚本を担当する、なるせゆうせいと、演出を担当する松多壱岱(まつだいちだい)に、WEB会議サービスを利用してリモートでインタビューを行った。GW以降、6月、7月、さらには今後の舞台公演がどうなるのか? 緊急事態宣言下での想い、演劇界の現況など、生の声をお届けする。

舞台公演が次々と中止、いつになったら再開できる?

--まず、3月以降、中止や延期になった舞台は何本ありますか?

なるせゆうせい(以下、なるせ):延期と中止が1本ずつ。舞台公演以外にも、イベントなども中止になっています。「中止になるかな」という予想はしていましたが、実際に中止になってみると、ただ、ただ残念です。

主催公演も含めて、6月以降の公演で準備が進行中のものもありますが、実際にできるのかと不安になります。主催者の立場として考えると、まず緊急事態宣言が外れないことには、やりづらいですね。

「緊急事態宣言の期間が終わってようやく公演に向けて動ける」という空気もあります。「やったとしてもチケットが売れるのか」という、お客さんの心理状態も想像がつかないところがあります。

なるせゆうせい(本人提供写真) 本インタビューはWEB会議サービス「Zoom」で実施した
なるせゆうせい(本人提供写真) 本インタビューはWEB会議サービス「Zoom」で実施した

松多壱岱(以下、松多):延期になった舞台が2本、中止で無観客公演をニコ生で放送した舞台が1本です。悔しい限りです。公演の再開時期に関しては、演劇界でも様々な話がされていて、6月に公演を実施する前提で動いている方もいますし、「7月も難しいのでは」と言う方もいます。ただ、こればかりはもう、なんとも言えない……というのが正直なところです。

--緊急事態宣言が解除されてから、公演再開まで、どのくらいの時間が掛かりますか?

なるせ:現在は、集まって稽古することもできない状態です。東日本大震災のときも、“喉元過ぎれば熱さを忘れる”ではないのですが、最初の頃は地震に恐怖を感じていました。でも、時間が過ぎれば、震災前と同じ状況になりました。

ただ、地震に関しては、“大規模な地震はもう来ないだろう”といった“予測”が、ある程度ありました。しかしコロナに関してはまったく予測できません。いったん「収束」しても、「またぶり返すのではないか」という怖さがあります。

でも、ワクチンなどの対応策が整い、本当に「収束した」となったら、すぐに稽古を始めちゃいそうです。

松多:僕は震災の2週間後に舞台公演をやりました。本番中にも余震があって、生きた心地がしなかったのですが、それでも2011年は震災後に舞台を3本やりました。それに比べると、今の状況は舞台関係者にとっては、震災後の状況よりもひどいですね。

松多壱岱「コロナが収束したら、絶対に帰ってきます」とメッセージ(本人提供写真)
松多壱岱「コロナが収束したら、絶対に帰ってきます」とメッセージ(本人提供写真)

--「ウィズコロナ」「アフターコロナ」において、観客席の作り方や、鑑賞の仕方も含めて、公演のあり方も変わりますか?

なるせ:「劇場にお越しいただけますが、防護服を着てください」となるとか。お客さん、キャスト、スタッフがみんな防護服を着る「防護服公演」なんかも、ある意味で特徴的かな、とは思います。

透明のシールドを客席ごとに作ったり。歌舞伎で耳にはめる翻訳機を全員に渡したりすることがありますが、ああいう感覚で、公演を実現するための対策も開発できないかなと思っています。

松多:場所という点では、大きな空間よりも小劇場の方が「密」になるので、気にされる方は多いのかなと思います。なるべく設備の整った大きな劇場で公演する方がいいかもしれません。ただしそれでも、“客席の間隔を十分に空ける”などの対応が必要になってくるかもしれない。すると、客席を減らす分、収支が取れるのか。チケット代が高くなってしまうかもしれません。

なるせ:野外公演もいいかな、と思っています。大きな劇場を借りるとなると、劇場費を何らかの形で担保してもらわないと厳しいですね。

無観客公演を実施も、これまでの演劇とは「ひと味違う」

--松多さんは、演出を担当した「舞台 ヨルハVer1.3aa」(以下、「ヨルハ」/当初予定:3月12日~15日)が公演中止となり、無観客公演(3月29日)をニコ生で配信しました。当日は、どんな様子だったのでしょう。

松多:僕も役者も、お客さんがいないところで演劇を作るのは初めてだったので、モチベーションの持ち方がすごく難しかったです。が、「ヨルハ」では「映像作品としても頑張ろう」という意思統一ができ、「生の感情をビデオカメラで捉える」ことに目標を定められたので、そこに集中して、当日の収録では、すばらしい作品となりました。

ただ、無観客公演は2時間半の映画をワンカットで撮るようなものです。ものすごく集中力を高めて実施したので、終わった後、一部の役者たちは「これを毎日はできなかったかも」と言っていましたね。

--無観客公演を経験して、感じたことは?

松多:「ヨルハ」自体はすばらしい作品に仕上がったのですが、“演劇は本当に生で伝えるものだな”と感じた部分もあります。例えば、「ヨルハ」では舞台上で生演奏を行い、それをマイクを通して会場に流すのですが、劇場内に音が響き渡るのです。

いつもなら、お客さんにある程度、音が吸われて、ちょうどよい響き具合になります。無観客公演だと、そういったことへの工夫も必要になってきます。

また、何よりも、お客さんが感情移入することによって生まれる“熱量”が役者の背中を押してくれるんです。無観客公演だと役者のエネルギーが一方的に放出されるだけで、返ってくることがなくなってしまいました。無観客公演と、お客さんと一緒に作り上げる公演は、ひと味違うものでしたね。

--ひとつの舞台公演が初日を迎えるまでに、どのくらいの準備期間が必要になるのでしょう。

松多:場合によりますが、企画段階からだと最低でも1年から1年半くらいでしょうか。その場合、役者へのオファーはプロットとキャラ表が完成したらすぐに出したいので、だいたい10ヵ月前から1年前になります。人気のある役者は、大きな会場での公演が決定すると、数年先でもスケジュールを抑えられてしまうと言います。

キャストとスタッフによる顔合わせはだいたい公演1ヵ月前。その時点では、ポスターなどに使うビジュアルの撮影も終わらせるので、舞台衣装も出来上がっています。舞台美術も発注していますし、稽古場代も掛かります。劇場使用料もほとんど払い終わっている状態なので、そのうえで中止になると、本当にやるせないし、ただ、ただ、悔しいです。また、この様な状態が長く続けば、役者、スタッフ、劇場など、演劇に関係する方達にとって死活問題になります。

緊急事態宣言下、「“リモート演劇だけ”でいいのだろうか」

--新型コロナ、緊急事態宣言に直面して、“これからの演劇作り”に関して、考えていることを教えてください。

松多:コロナの収束を待っているだけでは、スタッフもキャストもコンテンツも保たないので、「“これまでとはベクトルを変えたもの”を生み出すために何ができるのか」を模索している状態です。無観客公演の配信もひとつの手段ですが、今では役者が集まって稽古ができませんから、無観客公演すらできません

なるせ:稽古も、本番もリモートで行う“リモート演劇”は、やれなくはないなと感じています。脚本の読み合わせはリモートでできますが、役者たちが集まって行う“立ち稽古”はできなくなるので、稽古の種類が限られてきます。

なので、今の状況がずっと続くのではあれば、作品のチョイスを考えなければなと思っています。例えば、座ったままで進む会話劇の「十二人の怒れる男たち」をやってみるとか。現状を前向きに捉えて、リモートでも出来そうな作品をチョイスしていくのも、ひとつの方法にはなると思います。

松多:今この状況の中で“リモート演劇”をやることはすばらしいことだと思います。ただ、“リモート演劇”はひとつのジャンルであって、生で見せる演劇とはまた違ったものになります。

なので、これから先、“リモート演劇だけ”でいいのだろうか、と感じています。現在の状況が半年、1年と続いたら、社会はいろいろなところで急激に変化するでしょう。形にできるか分からないのでまだ具体的に言えないのですが、“リモート演劇”以外にも、コロナの感染拡大と緊急事態宣言に対応するため、いろいろなことを模索しています。

--“生の空間”について改めて感じたことを教えてください。

なるせ:その場所でしか共有できない感覚というものがあります。リモートでの作品作りもありますが、「やはり、“生”には勝てんな」という結論になります。人と人が共有して感じるものが大事なんですね。僕はプロ野球が好きなのですが、無観客のオープン戦を見ていて、やっぱり「お客さんのエネルギーってすごいんだな」と感じました。

松多:演劇は人と人とが出会って作り上げることができる唯一無二の芸術なのかなと思います。一緒にいることで感じられるエネルギーがあり、それは、“リモート”とは違ったものになってきます。

実は演劇では、初日にスタッフやキャストで「おめでとうございます」と言います。慣れてきてしまって習慣で口にするだけだったのですが、今回の状況に直面して、「初日を迎えられることって、本当におめでたいのだな」と痛感しました。

ひとつ、ひとつの公演を大事にしなければいけないし、毎回、観に来てくださった方々に返していかなければダメなんですね。

--最後に、劇場に足を運ぶことを楽しみにしているファンに向けて、メッセージをお願いします。

松多:舞台「真・白キ肌ノケモノ」(当初予定:4月10日~19日)の延期が決まったときは、悔しくて稽古場で泣いているキャストもいました。でも、もう集まれなくなるという直前、稽古場からインタビュー動画を撮影し、配信しました。

そうしたら、「ただ終わらずに、配信してくれたことが救いでした」、「延期公演を、本当に楽しみにしています」などの温かいお声をたくさん頂きました。ギリギリでもやれるだけのことをやってよかったと思いました。

今まで以上に熱いものを作るつもりで頑張りますので、「初日が延びただけ」という気持ちで待っていてほしいなと思います。コロナが収束したら絶対に帰ってきます

なるせ:僕も、ファンの方から、「早く、また劇場に行きたい」という声をたくさん頂いています。今までお客さんと楽しいことを共有する機会はたくさんありました。でも、辛いことをお客さんと共有したことはありませんでした。

お客さんは恋人みたいなものです。今は会えないけど、次に会えたときは、この辛さを一緒に乗り越えたことによって、いっそう一体感が生まれるのではないかと思っています。

松多さんの話ではありませんが、「おめでとう」が当たり前になってしまっている今は、改めて、平和な世の中なのだなと感じます。仮に戦争中だったら、やりたくてもできないがたくさんあったと思います。

今回のことをプラスに捉えて、演劇の糧として生き抜くしかないので、一緒にこの辛さを乗り越えて、次に会ったときに、絆をいっそう深められたらなと思います。僕も、必ず、帰ってきます。

【なるせゆうせい:プロフィール】
脚本家、演出家、株式会社オフィスインベーダー代表、シナリオ作家協会会員。1977年岐阜県出身。1997年の早稲田大学在学中に「劇団インベーダーじじい」を旗揚げし、トムプロジェクト新人脚本賞やパルテノン多摩演劇祭特別賞などを受賞。現在は映画、広告、マンガ原作など、幅広いジャンルで脚本家として活躍。

【松多壱岱:プロフィール】
俳優として活動を始め、映画、CMなど数多く出演。2002年、ACTOR’S TRASH ASSHを旗揚げ。スタイリッシュで、物語性・エンターテイメント性が強い劇的な舞台で人気を得る。「世界は僕のCUBEで造られる」が2016年度サンモールスタジオ年間最優秀団体賞を受賞。代表作に「舞台ヨルハ1.3a」「音楽劇ヨルハ」「キューティハニー」「東京ドールズ」「舞台オーフェンはぐれ旅」「Wake Up, Girls!~青葉の軌跡」「鬼切丸伝~源平鬼絵巻」などがある。近年では関ケ原古戦場にて「関ケ原合戦再現劇」を演出し、評価を高めている。ディアステージ所属。

******

リモートで行ったインタビュー。2人は演劇への情熱を込めて現状を話してくれた。先が見えない中でも、2021年以降の企画など新規公演のオファーが来ているという。劇場の“生の空間”を愛するファンが待っている。みんなが安心できる形での舞台公演の再開・再会を目指し、新型コロナウイルスの1日も早い収束に向けて、人それぞれが尽力する日々が続く。

演劇の“生の空間”は今後、どうなるのか(写真:舞台「プロジェクト東京ドールズ」2019年2月撮影、竹内みちまろ)
演劇の“生の空間”は今後、どうなるのか(写真:舞台「プロジェクト東京ドールズ」2019年2月撮影、竹内みちまろ)
  • 取材・構成竹内みちまろ

    1973年、神奈川県横須賀市生まれ。法政大学文学部史学科卒業。印刷会社勤務後、エンタメ・芸能分野でフリーランスのライターに。編集プロダクション「株式会社ミニシアター通信」代表取締役。第12回長塚節文学賞優秀賞受賞。

Photo Gallery4

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事