ドラマ『M』話題の裏に、鈴木おさむとテレ朝&ABEMAの秘策

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今季最大の話題作

ゴールデンウイークに入った今も「約半数が第1話を放送できない」など、厳しい状況に追い込まれている春ドラマの中で、結果的に最大の話題作となっているのが『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)。

同作のコンセプトは、“平成の歌姫・浜崎あゆみの自伝的小説”を実写ドラマ化。その自伝的小説はノンフィクション作家・小松成美が浜崎らへのインタビューをもとに書き上げたものであり、実写ドラマ化にあたっても「浜崎あゆみの成功と愛の物語」であることが繰り返しフィーチャーされていた。

ドラマのモデルとされる歌姫・浜崎あゆみ

ところが、いざはじまってみたら、浜崎あゆみの物語であることを忘れてしまうほど、強烈な登場人物とストーリーがネット上の話題を席巻。「田中みな実の眼帯女がひどい」「水野美紀のほうがキツイ」「あれは小室哲哉か!?」「オーディションでマラソンって!」「昭和の大映ドラマだ」「絶対笑わせにきてる」などのさまざまな声が飛び交っている。

少なくともここまでの物語は、浜崎あゆみよりも周囲のキャラクターと古典的な展開を楽しむようなものだった。そんな驚きと笑いの仕掛け人となっているのは、脚本担当の鈴木おさむであり、現在の状況は「狙い通り」なのだろう。その手法と効果を掘り下げていく。

「大映ドラマ」「コント」は完全な確信犯

『M 愛すべき人がいて』は、テレビ朝日とABEMAの共同制作。スタッフクレジットにテレビ朝日のメンバーだけでなく、「企画 藤田晋(ABEMA)」「プロデューサー 谷口達彦(ABEMA)」「アソシエイトプロデューサー(ABEMA)」が名を連ねていることからもそれがわかる。

スタッフの中心として脚本を手がける鈴木おさむは、放送作家としてテレビ朝日で『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』『10万円でできるかな』『激レアさんを連れてきた』『お願い!ランキング』『爆笑問題のシンパイ賞!!』、ABEMAで『GENERATIONS高校TV』『恋愛ドラマな恋がしたい』などのバラエティを手がけるほか、ドラマでも脚本家としてテレビ朝日で『奪い愛、冬』、ABEMAで『奪い愛、夏』などを執筆。バラエティ、ドラマを問わず、どの番組でもネット上で話題になるような仕掛けを重ねることで、テレビ朝日、ABEMAとの絶対的な信頼関係を築いてきた。言わば、3者の蜜月あってこその作品なのだろう。

とりわけ『奪い愛』シリーズは、極端なキャラクター、狂気のセリフ、壮絶なバトルで畳みかけて、賛否両論を巻き起こしながらも、視聴者の支持を獲得。年代性別を問わず、「ツッコミを入れながら見るのが面白い」「何だかクセになる」「リアリティなんていらない」「これくらい無茶苦茶なほうがいい」というドラマの楽しみ方を与えた。

とかくドラマフリークが求めがちな「心の機微を表現……」「さまざまな伏線を散りばめた……」などは最初から追及していないのだ。

また、人気原作の実写ドラマは何かとケチをつけられやすく、主人公がカリスマ・浜崎あゆみなら尚のことだが、ここまでやり切ってしまうと「クレームを入れる気にすらならない」という人が多数派を占めるのではないか。そもそも鈴木おさむは、「ドラマは話題になってナンボであり、最初から浜崎あゆみのファンに理解してもらうことを優先していない」というスタンスに見える。

実際、Twitterでは、「フィクションとして、かなり振り切って書いてます。大映ドラマなテイストもまじえて」「何種類かの色んな見方ができるドラマ」とコメント。第2話放送後にも、「二話、最高でした!Twitterで呟かずにいられないドラマ!」とツイートしたほか、あるユーザーの「大映テレビ世代には最高のコント、いや、オマージュドラマ」というツイートに「まさに」と書き込んでいた。

「大映ドラマ」「呟かずにはいられない」「コント」というフレーズから確信犯であることが分かるだろう。誰もが実在の人物と重ね合わせられる作品なのに、面白おかしくデフォルメすることをまったく気にしていないのだ。

ちなみに小室哲哉がモデルの輝楽天明(新納慎也)は、イニシャルがTK。鈴木おさむ自身、楽しみながら仕掛けを考えている姿が見えてくる。その結果、第1話はTwitterの日本トレンド2位、世界トレンド10位を記録したのだから、「してやったり」の気分だろう。

俳優たちも面白がり、イジりたくなる

土曜ナイトドラマ『M』公式サイトより

放送開始前、三浦翔平が「良くも悪くも、物凄く注目される作品だと思う」、田中みな実が「台詞は普通に生活していたらまず口にしないようなことばかり」、白濱亜嵐が「(自らが演じる)流川は明るくていいヤツなんですけど、おさむさんのことだから絶対そのままじゃ終わらないと思う」と語っていたように、俳優たちも鈴木おさむの仕掛けを面白がっている。いい意味で俳優たちからここまでイジられる脚本家はいないだろう。

まだ見ていない人のために、第2話で鈴木おさむが仕掛けたものを簡潔に書き出しておこう。

ストーリーの中では、「アユがニューヨークの街でもらった風船をうっかり飛ばしてしまい、マサが突然現れてジャンプキャッチ」「マサはアユに高価な服をプレゼントし、頭ポンポンして帰国する」「ライバルがアユの足を引っかけて転ばせ、靴に画びょうを入れ、風呂の床に石鹸を塗って転ばせ、肩を脱臼させる」「アユはデビューを賭けて水の入ったペットボトルを背負ってのマラソンに挑む」「雨が降りはじめてマサは『走れー!』と絶叫。覚醒したアユはトップでゴールし、そのとき空に虹がかかる」。

主なセリフでは、アユ「アユはダイヤになる!」、マサ「奇跡が起こるときに理由なんていりますか?」、姫野礼香(田中みな実)「見えるわ~彼女(アユ)の黒い未来が」、天満まゆみ(水野美紀)「あなたがアユ? アーユーアユ?」。

これらだけで、『M 愛すべき人がいて』どんなドラマなのか。そして、鈴木おさむが好き嫌いはあれど、記号的な設定と展開で話題を集めるプロフェッショナルであることが分かったのではないか。

90年代J-popにも心揺さぶられる

最後にもう1つふれておきたいのは音楽ドラマとしての顔。鈴木おさむが「何種類かの色んな見方ができるドラマ」とコメントしていたように、「Jポップ全盛期」と言われる90年代の音楽が視聴者を引きつけている。

第2話でも、タイトルバックで浜崎あゆみの「Voyage」が流れ、その後も「Fly high」「Boys & Girls」が挿入歌として使われ、アユがレッスンでTRFの「寒い夜だから」を歌い、バーテンダー・佐山尚樹(水江建太)がEvery Little Thingの「出逢った頃のように」とglobeの「Can’t Stop Fallin’ in Love」を弾き語り。

第1話でも、ヴェルファーレっぽいディスコやジョン・ロビンソンのDJが流され、TRFの「BOY MEETS GIRL」や篠原涼子の「愛しさと 切なさと 心強さと」などが劇中で使用されるなど、「毎週どの曲が聴けるのか」という期待感を抱かせている。

浜崎あゆみが輝きを放った1990年代から2000年代前半の音楽&カルチャーと、鈴木おさむが仕掛ける1980年代の大映ドラマ。フュージョンなのか、それともハイブリッドというべきか。いずれにしても、「人が何かを語りたくなり、賛否両論が飛び交う」という意味で、ど真ん中のエンターテインメントなのかもしれない。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

  • 撮影中村和彦

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