新型コロナ「中国研究所説」を信じるアメリカ人のひとつの特徴

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トランプ大統領は「武漢研究所発生説」の主張を繰り返した。ただし証拠は「話すことが許されていない」のだそう 写真:AFP/アフロ 日付 2020年4月30日

「トランプは新型コロナウイルスに対して最善を尽くしているか?」 。あるシンクタンクがこんな調査を行った。

それに対して〔白人の福音派〕の77%が「尽くしている」と、トランプの功績を圧倒的に認めた。一方、「尽くしていない」と正反対の評価をしているのが〔無神論者〕の85%、〔黒人のプロテスタント〕の79%である。

ーー前回記事「新型コロナで「アジア人」差別も…ルポ・アメリカ南部のいま」でも書いたように、筆者はアメリカの、ある南部の州に在住している。多くの人種、宗派が混在し、新型コロナやトランプに対する受け止めも様々だ。

「新型コロナウイルスは中国・武漢の研究所から発生した可能性があるので、これから調査する」ーー トランプ大統領が記者会見(4月15日)でそう発表した。

また「ワシントン・ポスト」は、2018年頃から武漢の研究所で行われている実験には安全性に疑いがあり、アメリカは2度ほど専門家を派遣して視察をし、専門家たちは安全性に対してアメリカ政府に警告した、とも報道している。

こうした「新型コロナウイルス 中国研究所説」に対して、私が暮らすアメリカ南部の人々も様々な反応を見せている。

その反応の前にバイブルベルトととも呼ばれる、この地域の特徴を書く必要があるだろう。筆者は移住する前にも、この地域を何度か訪れたことがある。とにかく驚いたのが教会の多さだった。

人の数よりも教会の数の方が多そうで、しかも大きくてゴージャスな教会が多い。そういう教会は、周りに建っている一般の家よりも奇麗で豪華だ。逆にコンパクトで小屋みたいな教会もあったりする。建物の外観も大きな差があるが、その宗派もバラエティに富んでいる。

キリスト教と言っても、多くの宗派で分かれており、その宗教観もさまざまであるというのを、南部に住んでいると実感する。そんな中の1つに「福音派」というグループがあるのだ。彼らの多くが、現在のアメリカ大統領であるトランプ支持者として知られている。

冒頭に記した、新型コロナウイルスに関する、宗教観と人種に分けた統計(ワシントンD.C.にあるシンクタンク:ピュー研究所)を、もう少し詳しく述べよう。

「トランプは新型コロナウイルスに対して最善を尽くしているか?」という質問に対し、全体では「最善を尽くしている、もしくはそこそこ尽くしている」が45%、逆となる「全く尽くしていない、もしくはあまり尽くしていない」は54%という結果になった。

ところが、〔白人の福音派〕になると同じ質問でも「尽くしている」が77%という圧倒的な数字になり、逆に85%という高い数字で「尽くしていない」で答えたのが〔無神論者〕で、次の79%で「尽くしていない」と答えたのが、〔黒人のプロテスタント〕だった。

〔福音派以外の白人プロテスタント信者〕は、「尽くしている」が62%となっている。〔白人カトリック信者〕の場合はさらに減少し、「尽くしている」が52%となった。〔カトリック信者のヒスパニック〕は、全体の統計とほぼ同じで「尽くしている」が43%だった。

とても面白い統計結果だ。

シンクタンク:ピュー研究所(ワシントンD.C.)の調査 をみる

Most white evangelicals satisfied with Trump’s initial response to the COVID-19 outbreak

トランプに対する評価は、大きくは人種によって分かれているが、さらに宗教観によっても差があるのだが、ややこしいのが、「尽くしている」と答えた福音派と呼ばれる人たちも、「尽くしていない」と答えた黒人プロテスタントの人たちも、同じ〔プロテスタント系〕なのだ。

普通に生活していると、その人の宗教観は外見上では分からない。通常の会話では見えてこないし、普段のお付き合いで宗教について話すこともなかなかない。かなり親しい関係でないと、宗教観は分からないものだ。

その一方、支持政党を明確にする人たちは多い。車社会のアメリカらしく、自分の車で支持政党を表明する人が割りと多いのだ。選挙近くなると、その数は一気に増える。

トランプが大統領選に出馬してから街で見かけるようになったのが、大きな星条旗をつけ、四方八方から確実に見えるように「トランプを大統領に」やトランプの選挙スローガンであった「アメリカを再びグレートに」という派手なメッセージを身にまとった大きなトラックだ。

そこまでしていないが、トランプを支持する知り合いがいる。彼女の宗教観までは分からないが、白人の中年女性だ。彼女はトランプが言うことが間違っていても(フェイクでも)、いつも100%支持し、トランプ批判に対しては反論する。彼女ならば「武漢研究所説」を信じているであろう。

また、エヴァンジェリカルズ(福音派)・フォー・トランプという団体に所属する女性がいる。「誰かを責める時ではないけれど、誰がなにしてこうなったのか知る必要はある」と話し、中国に責任を取らせることを賛成している。そして、「トランプ大統領は立派にこの問題に尽くしている」とも話している。

逆に黒人に「武漢研究所発生説」について聞いたら、「そんなことはあるわけがない」と即答で否定した。続けて、「これまで嘘ばかりついてきたトランプの言うことなど、信じられるわけがない」と、トランプ支持者の女性とは真逆の反応を示した。これについての周りの黒人の反応はどんな感じが探ってみたが、「周りに聞く必要すらない。誰も信じるわけがない」と、押し切られてしまった。

南部の一般市民たちはこんな様子だが、政治家や学者ではどうだろうか?

トランプ大統領の「武漢研究所発生説」を後押ししたのが、同じ共和党員のトム・コットン上院議員だ。コットンは、「新型コロナウイルスが中国の武漢の研究所から発生したという証拠が揃っている。中国の指導者たちが、世界中でウイルスが拡散されることを望んでいる」と発言した。

ノーベル生理学・医学賞受賞(2008年)のフランスのウイルス学者リュック・モンタニエは、「コロナウイルスは人為的につくられ、恐らく武漢の研究所でつくられたものだろう。生物武器として作られたものではなく、エイズワクチンを作ろうと思って作られたはずで、悪意はない」と発言している。

アメリカは新型コロナウイルス感染者の数が100万人を突破(4月29日)、世界累計の1/3まで占める結果となっている。トランプ大統領としては、市民の怒りの矛先を自分に向けないためにも、感染源を突き詰め、責任を負わせたいところだろう。中国側に賠償金を求めるために調査を開始する予定だ。

中国側は「武漢の市場から発生したもの」と説明し、「(アメリカが)エイズの責任を追及したか?」と反論。トランプ大統領が会見で示唆した調査も拒否し、両者は真っ向から対立をしている。

確かに、トランプ大統領は虚言を繰り返してきた。ワシントン・ポストによれば、2018年の段階で約3000以上の虚言をしてきたという。

それでも、トランプ大統領は「武漢研究所発生説」の主張を繰り返した(4月30日)。ただし確信はしているが、証拠は「話すことが許されていない」のだそうだ……。

いったい何を信じればいいのか。まさに、神のみぞ知る。

  • 杏レラト

    (あんずれらと)アメリカ南部在住。雑誌「映画秘宝」(扶桑社)、「ユリイカ スパイク・リー特集」(青土社)、「ネットフリックス大解剖」(DU BOOKS)などに執筆。著書に『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)。

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