緊急事態1ヵ月…「終わりはいつ見えるのか」に対するひとつの考え | FRIDAYデジタル

緊急事態1ヵ月…「終わりはいつ見えるのか」に対するひとつの考え

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さらなる1ヵ月の延長が決定した「緊急事態宣言」。このままで、日本は大丈夫なのか?  

政府の緊急事態宣言に対して疑問を投げかけた医療ガバナンス研究所理事長・上 昌広(かみ・まさひろ)氏。海外の国々の迅速な対応策のニュースを聞くたびに思う「日本はどこで間違えたのか?」「このままでいいのか?」…などの数々の疑問。緊急事態宣言から1ヵ月が経とうとしている現状を上氏はどう考えるのか。 

「持久戦を覚悟」と安倍首相は言うが、いつまで続くのか?
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公式感染者数の「50倍以上」が感染している!? 対策の方向性が定まらないのは、感染者数がいまだに把握できないから

政府が7都府県に緊急事態宣言を発令したのは4月7日。発令後2週間で効果が見え始めるということだったが、東京では2週間を過ぎても100人を超える感染者が確認され、3週間を過ぎようとするころ、ようやく減少傾向になってきた。これで落ち着いてきたと言えるのだろうか。

「現状のデータから落ち着いてきたという見方も可能ですが、今の数字はまったく関係ないという見方もできる。というのは、検査数が突然増えたから。3月24日はオリンピックの延期について安倍首相とバッハ会長の電話会談がもたれた日ですが、その日から検査数が突然増え、それに伴って陽性者数も増えている。

検査した人のうち、どのくらいが陽性になっているか、厚生労働省が発表した1月15日から4月21日の陽性率を見ると、東京は検査数8435人に対して陽性者は3320人。陽性率は、じつに39.4%になります。

アメリカのカリフォルニアで発熱者のどれくらいが陽性かを調べたら5%だった。40%も陽性者がいるということは、重傷者を中心に調べているということで、これでは全体の流行状況はわかりません。発表される数字に一喜一憂する必要はまったくありません」(上 昌広氏 以下同)

感染しても無症状のことがある新型コロナウイルス。元気に生活している人も感染者かもしれない。

アメリカでは実際にどれくらい感染者がいるのか把握するために、各地で抗体検査が行われている。4月初旬に米スタンフォード大学がカリフォルニア州サンタクララ郡の住民3300人を検査したところ、66人に1人が新型コロナウイルスに感染していることが判明。この結果から同大学は住民の2.5%から4.2%にあたる4万8000人~8万1000人が感染していると推定している。これは同時期に確認された公式感染者数の50~85倍に相当するという。

日本でもナビタスクリニック院長の久住英二医師が20歳~80歳の男性123人、女性79人の抗体検査をしたところ、5.9%にあたる12人が陽性だったと報告している。検査数が少ないが、この数字だけを見ると、サンタクララ郡よりも感染者が多いことを示している。無症状でも多くの人が感染している可能性がある、と考えるべきなのだろう。

「仮に50倍と考えると、1人に症状が出ても、50人は気づかずにいるほど軽症だということです。症状が出た人の10人に1人亡くなるとすれば、致死率は0.2%ぐらい。ということは、多くの人は感染しても軽くすむということなんです」 

同僚や知り合いが感染したと聞くと、ひたひたとコロナウイルスが押し寄せてきているような気がするが、 

「それは単に検査数が増えたからだと思います」 

すでにロシアとトルコで感染爆発が起こり、アフリカも危機的な状況にある。「日本もすでに感染爆発が起こっている可能性が高い」と上氏は言う
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安倍首相とバッハ会長の間でオリンピック延期が話し合われてから、明らかに増加した検査数。感染者の数値が増加しているのは、検査数が増えたからで、市中でどれくらい広まっているかは、これからはわからない
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コレラや赤痢を防止するやり方でコロナに立ち向かった厚生労働省の責任は重い

「大切なことは、どういう方が亡くなっているかということ。『3月1日から4月12日までの医療・福祉関連の施設内感染調査』を見ると、茨城県では4割が院内感染、群馬県では6割近く。東京でも15%が院内感染です。

病院や福祉施設には高齢者や基礎疾患を持っている人が多く、院内感染すると致死率が高くなる。命を落とすことがいちばんいけないので、院内感染対策を早急にするべきだと思います。院内感染対策のためには検査をすることが鉄則です」

病院で感染者が見つかったら、病院関係者全員にPCR検査が行われていると思いきや、感染者が出たワンフロアだけしか検査しないところがあるという。濃厚接触者と認められたり、症状が出ていなければ、検査ができないからだ。

検査をした結果、感染者が発見されれば隔離しなくてはならない。医療スタッフが感染していれば、医療現場を離れなくてはならず、医療スタッフが不足する恐れがある。実際、現在でも一部の手術を延期したり、救急を受け付けない病院がたくさん出ている。

「すでに医療崩壊状態です。こうなったのは、“感染症法”と“検疫法”という法律に基づいて陽性になった人を全員入院させていたから。

そもそもこれらの法律はコレラや赤痢のためにできたんです。コレラや赤痢は潜伏期間が短くて、下痢など症状も明らかだった。だから、患者を見つけて隔離するという方法がとられたんです。

けれど、新型コロナは潜伏期間が長くて、かつ無症状の人が感染を広げていく。だから、日本以外の国では徹底的にPCR検査をしました。日本はコレラや赤痢のやり方を踏襲した結果、今のような事態を招いたんです。

感染症法と検疫法を担当しているのは、厚生労働省の健康局結核感染症課。クラスター対策班も同じ課です。厚生労働省の責任は重いと思います」

厚生労働省は、当初医療崩壊につながるからと、PCR検査をする人を限定した。

「軽症の人を入院させる必要はないんです。急変する恐れがあるから、医療スタッフがそばにいなくてはいけないけれど、最初からホテルなどに隔離すればよかった。

PCR検査をすると医療崩壊になるというのは、本末転倒。医療崩壊させないためにPCR検査をするべきでした」

最近になってようやく保健所を通さなくても検査できるシステムが動き始めた。

「それはいいことだと思いますけど、検査を増やすなら、『今まで検査をしぼってきて申し訳なかった』と言い、方向転換したことを明確に示すべきです」 

「接触を8割減すれば、1ヵ月で収束できる」と話していた厚労省クラスター対策班だが…
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院内感染を防ぐためにも早期のPCR検査が必要だ。それが、医療スタッフを守り、致死率を下げることにつながる
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2022年まで「ウイズ・コロナ」? 日本は世界から取り残される?

今、世界では経済活動を再開する動きが徐々に始まっている。韓国や台湾は3月中旬にピークアウトし、スペインも4月頭にピークアウトしている。日本はいつピークアウトするのだろう。

「わかりません。すでにピークアウトしている可能性もあるけれど、正確なデータがないんだから。これからやるべきことは、院内感染対策と、正確なデータをもつことです。

インフルエンザは全国で約5000の定点医療機関に1週間に何人患者が来院したかで流行しているかどうか判断します。新型コロナもいくつかの指定医療機関に来る発熱患者をどんどん検査していって、現在どういう状況か調べたらいいんです。PCR検査や抗体検査を徹底的にやる。それを積み重ねていく。そうしなければ実態はつかめません」 

やっと始まったドライブスルー検査。唾液を使ったPCR検査も、北海道大学血液内科の豊嶋崇徳教授のもとで研究が進められている。医療従事者でなくても検体採取できるなどのメリットも。アメリカでは唾液検査に置き換えているところもあるという
やっと始まったドライブスルー検査。唾液を使ったPCR検査も、北海道大学血液内科の豊嶋崇徳教授のもとで研究が進められている。医療従事者でなくても検体採取できるなどのメリットも。アメリカでは唾液検査に置き換えているところもあるという

経済活動を再開した各国が、感染者数も明確でない日本と交流を考えるだろうか? 4月初めに駐日米国大使館のジョー・ヤング代理公使は、日本のPCR検査体制方法は有病率を正確に評価することを困難にしているとして、自国民に即時帰国の必要性をビデオメッセージで配信した。それから1ヵ月、状況はいまだに変わらない。

新型コロナウイルスが、今後5年間どのように広がるか、ハーバード大学の研究者がコンピュータでシミュレーションしたところ、2022年まで続く可能性があると報告された。ウイズ・コロナはまだまだ続きそうだ。

全国民に10万円……給料が下がらない公務員には必要なのだろうか。申請書が自宅に送られてくるというが、住所をもたないネットカフェ難民の人たちは受け取れるのか。新型コロナが収束したあとの観光業などを支援する『GO TOキャンペーン』は今考えることなのだろうか。アベノマスクを配るより、医療現場にマスクや防護服を支給することが先なのではないか。疑問はたくさんある。日本は大丈夫なのだろうか。

上 昌広 特定非営利活動法人 医療ガバナンス研究所  理事長。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の診療・研究に従事。2005年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(後に 先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年3月退職。4月より現職。星槎大学共生科学部客員教授、周産期医療の崩壊をくい止める会事務局長、現場からの医療改革推進協議会事務局長を務める。著書に『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など。

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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